原油価格高騰で株式市場に与える影響と関連銘柄
原油価格高騰で株式市場に与える影響と関連銘柄

日本企業の省エネ技術や環境技術に脚光


原油価格は引き続き高水準で推移

原油価格の推移 6月上旬、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で、原油価格の代表的な指標WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物価格が最高値を更新し、1バレル140ドル台に迫りました。1バレル150〜200ドルに達するという予測も現実味を帯びています。投機マネー流入が原油価格高騰の一因とも言われますが、新興国の経済成長に伴って世界的に原油需要が拡大していることも事実です。中東情勢の不安定さなど地政学的リスクや資源ナショナリズムの動きも考慮すれば、原油価格は引き続き高水準に推移することが予想されます。

 この原油価格上昇は、企業収益や消費などさまざまな面で、日本を含めて世界の実体経済に大きな影響を与え始め、インフレやスタグフレーションの懸念も高まっています。原油価格上昇に伴う原材料費の高騰は一般的に、製品価格への転嫁が十分でなければ企業収益の悪化に直結します。一方では、製品価格が上昇すれば家計を圧迫して消費者心理に悪影響を与えることになり、節約志向や買い控えなどに繋がって消費の下押し要因となります。

避けられない企業収益へのマイナス影響

原油価格高騰で避けられない企業収益へのマイナス影響 原材料費の高騰という点では、化学、自動車、運輸などを中心に幅広い業種で企業収益にマイナス影響を与えます。石油化学では原料のナフサ(粗製ガソリン)価格上昇を受けて、三菱ガス化学<4182>三井化学<4183>旭化成<3407>の大手3社が、主要製品に関して最大30%と過去最大の値上げを発表しました。この値上げが浸透すれば、顧客側では大幅なコストアップ要因となります。もちろん、値上げがどの程度浸透するかは不透明です。また燃料費高騰による物流関連への影響も深刻です。航空業界ではジェット燃料価格高騰による採算悪化で運航削減の動きが広がり、米国では格安航空会社の経営破綻も出始めています。航空機の購入を先送りする動きもあり、航空機や部品メーカーへ影響が及ぶ可能性もあります。さらに船舶用重油価格が上昇しているため、遠洋漁業船が出漁を見合わせて休業を打ち出すケースも出始めています。

 一方で、原油価格上昇は消費の下押し要因となります。例えばガソリン価格の上昇は、車離れを通じて世界的に消費を減速させる要因となっています。米国では、ガソリン小売価格(レギュラー)が初めて1ガロン4ドル台に乗せ、前年同期比では3割強の値上がりとなりました。このため燃費の悪い大型車の販売が不振で、米ビッグスリーの新車販売シェアは過去最低水準に低下しています。日本でも、レギュラーガソリンの給油所店頭価格(全国平均)が初めて170円台に乗せました。この結果、消費者の買い控えが広がり、販売激戦区では逆に値下げの動きも出ている模様です。また自動車販売やガソリン販売の減少に加えて、郊外型飲食店の不振が鮮明になるなど、車離れの影響が広がりつつあります。

 08年度の企業業績予想を見ると多くの企業は、原燃料高の製品価格への転嫁を一部織り込んだうえで減益を予想している模様です。しかし製品価格への転嫁は最終製品の需要減少につながる可能性があり、容易ではありません。原油高とドル安(対ドルでの円高)が加速すれば、輸出関連株は大きな打撃を受ける可能性が高まります。

存在感増す日本企業の省エネ・環境技術

 逆に、原油価格上昇が収益押し上げ要因となるのは、油田に権益を持つ石油開発会社や総合商社などです。また増産投資が実施されれば日揮<1963>東洋エンジニアリング<6330>千代田化工建設<6366>などのプラント関連も注目されます。ただしプラントに関しては、完成までの間に建設コストが急騰して工事採算が悪化するリスクが高いため注意が必要です。

 車離れが進む中でもハイブリッド自動車や電気自動車などは、ガソリン車とのコスト競争力が相対的に高まり、世界的に需要拡大が期待されます。トヨタ自動車<7203>はハイブリッド自動車の世界生産台数を07年の約43万台から、10年代初めには100万台に拡大させる計画で、タイとオーストラリアでも生産を開始します。自動車各社が本格的な市場投入を計画している電気自動車に関しても、高性能リチウムイオン電池の開発や量産化の動きが活発です。環境に優しいという点では、自転車の需要拡大も期待されます。原油価格上昇が追い風となり、日本企業の省エネ技術や環境技術が、世界で一段と存在感を増す可能性は高いでしょう。

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代替エネルギーは「低炭素、脱炭素」が大きなテーマ

 代替燃料という点では、輸入の液化天然ガス(LNG)に比べて割安となった国産の天然ガスや、天然ガスから軽油などを取り出すGTL(ガス・ツー・リキッド)も注目されています。GTLはカタールやマレーシアで生産中ですが、日本でも石油資源開発<1662>新日本石油<5001>などが参加する日本GTL技術研究組合が新潟県で実証プラントを建設中です。

 中期的には地球温暖化対策という観点からも、石油や石炭などの炭素燃料に依存したエネルギー源からの転換、いわゆる「低炭素、脱炭素」が大きなテーマです。特に原子力発電や太陽光発電などの代替エネルギーは、コスト面で炭素燃料との差が縮まれば市場拡大が期待されます。自然エネルギーの普及に積極的な欧州連合(EU)でも、原子力発電の拡大を目指す動きが出始めています。

 原子力発電関連では日立製作所<6501>東芝<6502>三菱重工業<7011>など、原料のウラン関連では住友商事<8053>など、太陽光発電用パネル関連ではシャープ<6753>京セラ<6971>ホンダ<7267>などが注目されます。

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オイルサンド、オイルシェールなどの新資源に注目

 代替燃料という点では、輸入の液化天然ガス(LNG)に比べて割安となった国産の天然ガスや、天然ガスから軽油などを取り出すGTL(ガス・ツー・リキッド)も注目されています。GTLはカタールやマレーシアで生産中ですが、日本でも石油資源開発<1662>新日本石油<5001>などが参加する日本GTL技術研究組合が新潟県で実証プラントを建設中です。

 採掘コストの高さが課題だったオイルサンド、オイルシェール、メタンハイドレートなど新資源の注目度も増しています。オイルサンドは超重質油を含む砂の層で、すでにカナダやベネズエラなどで生産されています。日本企業では石油資源開発<1662>国際石油開発帝石HD<1605>などが、カナダで事業に参画しています。オイルシェールは石油になる前段階の炭化水素を多く含む堆積岩で、地中から採掘した後、熱分解することによって石油を得られます。世界中に約2兆バレルという膨大な原始埋蔵量があると推測され、三井物産<8031>が米国ユタ州での開発プロジェクトに参画します。石油連盟によると現時点で採掘可能な原油量は約60年分ですが、オイルサンドやオイルシェールなどの新資源は約220年分と推測されています。

 そして、最も潜在力を注目されているのがメタンハイドレートです。メタンハイドレートは、天然ガスの主成分であるメタンガスが、低温・高圧の状態で水の分子に閉じ込められ、シャーベットのような固体になっているもので「燃える氷」とも呼ばれています。日本近海には7・4兆立方メートルと、日本の天然ガス年間使用量の100年分という世界最大規模の埋蔵量があると推測され、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が産出実験を進めています。海底の下の地層や永久凍土の下にあるため生産コストの高さが課題ですが、技術開発は急速に進みつつあるようです。

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提供 日本インタビュ新聞 Media-IR 2008.6 |特集