HIV(ヒト免疫不全ウイルス)対策銘柄特集
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)対策銘柄特集
日本国内のHIV感染者・エイズ患者は過去最多
地球規模での的確な予防・検査及び治療対策が求められる

人の免疫細胞を破壊し、後天的にエイズを発症させるHIV

HIV感染 近年、著名人の啓蒙活動や、レッドリボンキャンペーン(ライブ・トークを通じてエイズの予防啓発を呼びかける運動)を通じ、改めてその関心が強まっているHIV(ヒト免疫不全ウイルス)・エイズ(後天性免疫不全症候群)。
 そのHIVの発見で2008年、ノーベル医学生理学賞を受賞した当時のフランス・パスツール研究所員で、現在、世界エイズ研究予防財団理事長を務めるリュック・モンタニエ氏(76)は、今後のワクチンの開発次第では、HIV感染を数年以内に根絶することは「不可能ではないと思う」とストックホルムの受賞先の記者会見で述べた。
 一方、日本の厚生労働省エイズ動向委員会によると、2007年度の日本国内で新たに報告されたHIV感染者は1082件、同様にエイズ患者は418件とそれぞれ過去最高を更新したと発表、既にHIV感染者数は4年連続の増加で、さらに今後も増加傾向が続くとしている。日本国内のHIV感染者率は現状では世界最低水準ではあるものの、先進国の中では唯一感染者が増加している国であり、しかも実際には公表されている数値の4倍から5倍に上るとの見方もある。そこで早急且つ的確な感染予防・治療対策が求められるところとなっている。
主なHIV関連銘柄
予防道具銘柄 相模ゴム工業<5194>、オカモト<5122>、不二ラテックス<5199>
検査銘柄 シスメックス<6869>、みらかホールディングス<4544>、栄研化学<4549>、協和発酵工業<4151>、医学生物学研究所<4557>
治療薬・治療研究銘柄 JT<2914>、武田薬品工業<4502>、塩野義製薬<4507>、中外製薬<4519>、第一三共<4568>、キッセイ薬品工業<4547>、鳥居薬品<4551>、高砂香料工業<4914>、タカラバイオ<4974>
 また国連合同エイズ計画(UNAIDS)によれば、2007年末に世界のHIV感染者数(子どもを含む)は3300万人(成人感染率0.8%)、同年中の新たな感染数は270万人、同年のエイズ死亡者数は200万人に達したと報告されている。地域別の感染者数ではサハラ以南アフリカが2200万人と世界の3分の2を占めており、この地域のHIV感染者率は成人の15%を超えるなど、深刻な事態が続いている。
 そうした状況の中、こうした日本国内の増加傾向、地球規模での深刻な感染者比率を少しでも縮小・解決していくために、HIV感染予防・検査や、エイズ治療に向けた研究・開発を進めている企業は増加しており、一方でHIV、エイズに対する国民意識も徐々にではあるが、身近な問題として意識されてきている。"人類の安全"に対するニーズは確実に高まっていくことが予想され、ここではこうした分野に貢献する企業に着目してみたい。

HIV感染を防ぐ予防道具

HIV患者及びAIDS患者報告数の年次推移 日本国内のHIV感染者数の累計は2007年時点で9388人。またエイズ患者数の累計は同時点で4452人。そのうちHIV感染者数の8割強、エイズ患者数の7割強が性的接触(異性間・同性間の合計)を起因として発症したことが明らかとなっている。性分泌液に接触する事が最大の原因であるが、通常の傷のない皮膚から感染することはない。
 一般的に腸粘膜や膣粘膜、切創や刺創など、血管に達する深い傷などがある部位から感染するとされ、そのことが性的接触を最大原因としている理由である。通常の性交では、女性は精液が膣粘膜に直接接触し、血液中にHIVが侵入する事で感染し、男性は性交によって亀頭に目に見えない細かい傷ができ、そこに膣分泌液が直接接触し血液中にHIVが侵入する事で感染する。また肛門性交では腸粘膜に精液が接触し、そこから感染するとされている。腸の粘膜は一層の為に薄く、HIVが侵入しやすい為、膣性交よりも感染リスクが高い。

 そこで性的感染による予防措置・道具として最も有効とされているものがコンドームである。相模ゴム工業<5194>はそのコンドームの最大手メーカーであり、世界最薄の0.02ミリの薄さを誇り、従来のゴム製と比べて3倍から5倍の強度を誇るポリウレタン製を特徴としている。コンドーム使用中に破損、あるいは劣化したことに気付かず使用し続けることで感染を防げないケースも発生しており、同社のこの強度は大きな安全性の確保と、製品としての他社優位性を誇っていると言える。またゴム製と違い、肌の温もりが瞬時に伝わる、無臭、ノンアレルギー、表面上の滑らか感が使用者に大変好評であり、ニーズを広げている。
 一方、オカモト<5122>もそのコンドーム製造で著名な企業であり、国内向けのスキンレスシリーズは業界・使用者の間では有名なブランドである。また海外向けにおいてもサイズの違う外国人向けにアジア市場向け、米国市場向けブランドを積極的に手掛けており、国際規格のISO要求を満たしているほか、海外一般製品の約半分の薄さを誇るため使用者の間での評判も上々である。最近ではイタリアのブランド「ベネトン」と共同開発したコンドームも若者の間でニーズを伸ばしており、そのバリエーションは他社の追随を許さない。
 さらに不二ラテックス<5199>もコンドームの老舗メーカーであり、世界で初めて脱落防止加工を施した「リンクルゼロゼロ」で有名である。近年ではその後継製品を始め、「ミチコロンドン」、「Kansai」といったブランドと共同開発した製品も人気を誇っている。

疑わしきはまず迅速・的確な検査から

 自分自身に感染が疑われる行動・事象があった場合にはまず、全国の保健所や医療機関に相談することが第一であるが、タイミングを誤った場合、あるいは精度の低い検査を受診してしまった場合、間違った診断結果が出たり、或いは診断そのものが不可能だったりするケースも見られる。一般的に最近では2ヶ月以上経過した後であれば、採血による血液検査でHIV特異抗体を検出する事ができ、感染の有無を確認する事ができるとされている。
 しかし、HIVの感染初期においては抗体が十分に作られず、血液検査では検出できない最初の約2ヶ月の期間(ウインドウ期間・空白期間)に血液検査を行っても陰性と判断されてしまうことがあり、また抗体検査では非特異的な反応によって、あたかも陽性であるかのような偽陽性の結果が出る場合がある。その場合には、確定診断として血中のウイルスRNAをRT−PCR法によって検出するウイルスDNA検査も広く行われている。

 シスメックス<6869>は血液検査分析装置の主要メーカーであり、「HEG−L」はIDバーコードを直接読み込むことで検体過誤の防止が飛躍的に向上したほか、処理能力のスピードアップにも成功した製品である。また従来装置の半分の設置面積で済み、医療機関からの評価も高い。
 その他栄研化学<4549>も血液検査分野において、また医学生物学研究所<4557>は抗体検査、ウイルス・DNA抗体検査意においてそれぞれ、早期発見に貢献している著名企業である。

HIV治癒に注力する治療薬メーカー

 HIV自体はレトロウイルス(RNAウイルス種類の総称で、細胞膜の受容体と結合することでRNAと逆転写酵素が侵入する)であることから、HIV自身が増殖に必要な酵素を阻害する、逆転写酵素阻害剤(NRTI)、プロテアーゼ阻害剤や非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)が開発され、治療薬として使用されている。最近ではこれらを複数組み合わせて使用する多剤併用療法(カクテル療法)が一般的な治療法となっている。
 また、ウイルスが細胞に取り付くところを抑制する薬剤(フュージョンインヒビター)も開発され、米国及びEUで認可されている。HIV治療薬は適正な使用によりHIVの増殖を抑制し、患者の免疫機能を回復させ病勢の進行を遅らせるのに一定の効果があり、現在ではHIV感染症は長期にわたりコントロールできる疾患になりつつある。しかしHIV自体を体内から排除する根本治療ではないことに留意する必要がある。

 こうした治療薬を開発しているメーカーとして武田薬品工業<4502>塩野義製薬<4507>中外製薬<4519>第一三共<4568>キッセイ薬品工業<4547>鳥居薬品<4551>などのメーカーが挙げられ、何れの企業もさらなる治療効果向上に向けた研究・開発に注力している。
 また現在では抗ウイルス薬とは全く違うアプローチでHIVを阻止しようという試みも始まっており、そのうちの一つ、遺伝子治療が脚光を浴びている。
 タカラバイオ<4974>はRNA分解酵素MazF遺伝子を用いたエイズ遺伝子治療の研究開発を進めている。Tatタンパク質の初期発現によって起こるHIVの複製開始を、Tatタンパク質によるMazFの発現を誘導した発現ベクターを遺伝子導入することによって阻止し、現存するHIV自体をも消滅させることを目的とした治療法である。中国疾病予防管理センター及び医薬基盤研究所霊長類医科学研究センターと、MazF遺伝子治療のサルでの動物試験に関する共同研究を進めており、これが成功すれば、HIV自体を体内から排除する根本治療として一躍、脚光を浴びる可能性が高い。

HIV関連企業の社会的使命は大きい

 日本では、血液製剤を使わざるを得ない血友病患者などに感染が広がった事で一躍、その存在がクローズアップされたが、逆に言えばそうした不良な血液製剤などを投与されたことのない者にとっては、あまりHIV・エイズに対する危機感が心理的に少ないという結果をもたらした。また世界的には性交渉や麻薬注射による感染と言ったケースによる感染が多いこともあり、社会的な偏見・差別が消え去らないため、疑わしい者でも検査に名乗りを上げず、満足な治療も受けないまま命を落とし、また場合によっては他者に感染させてしまうケースが見られた。
RED RIBBON LINK PROJECT  しかしこうした偏見・差別も少しずつ減少してきており、正面から向き合う、あるいはレッドリボンキャンペーンのような啓蒙活動に積極的に参加する者が増えてきている。こうした社会の流れから、今後、HIVに関連する予防・検査及び不幸にも感染してしまった者の治療ニーズが増加していくものと予想される。
 このような問題に取り組む関連業種の社会的使命は非常に大きく、今後その存在価値をよりいっそう高めていくことであろう。
提供 日本インタビュ新聞 Media-IR 2009.01 |特集