日本インタビュ新聞社 テクニカルアナリスト 穴沢 英康
| アメリカの住宅ローン |
アメリカの住宅ローン証券には、日本と同じように、公的と民間の2種類が存在する。連邦機関やそれに順ずる機関が堅実経営で行う公的住宅ローンは、エージェンシーMBSと呼ばれ、プライム用のコンフォーミングローンと、信用力の低い人向けのFHA−VAローンがある。FHA−VAローンは固定金利だが、民間サブプライムローンより借り入れ限度額が低く、審査もサブプライム住宅ローンに比べ厳格だ。
一方、民間の住宅ローンは、信用力の高いものから、プライム(優良)、Alt−A、そしてサブプライム(準優良)の3種類に分別される。なおAlt−Aをニアプライム(Near Prime:近プライム)と表示する場合もある。
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| 信用力とFICO |
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住宅ローン融資の際に重視されるのは、借りたお金をきちんと返すかどうかという信用力だ。現金をあまり持ち歩かないアメリカでは、クレジットカードの返済歴などから、個人の信用力を客観的に評価しようとするスコアリングモデルが発達した。
与信判断ではフェア・アイザック社が開発したFICO(ファイコ)が広く使用されている。
このFICOとは、最低300点から最高880点の点数を付け、その点数を基に信用力を判断し、貸し出し金利や期間などを設定する目安とする。一般的には、FICOの点数が高いほど安い金利で、そして点数が低いほど高い金利で住宅ローンを貸し出す傾向になった。
民間のサブプライム住宅ローンは、信用力の低い人向けの住宅ローンとされている。それでは、どれだけ信用力が低いのだろうか。様々な資料では、公的30日以上の延滞を過去12月以内に行った、自己破産してから5年未満、FICOスコア620点などと言われているが、やはり何よりも、サブプライム住宅ローンを活用する人の多くは、公的のFHA−VAの審査に落ちていることが大きいのではないか。
つまり、融資を受けるには不適切とされた信用力の低い層に対し、家を持つ機会を与えることで、ビジネスチャンスを見出したのが、サブプライム住宅ローンだ。
前述のアメリカ映画「素晴らしき哉、人生」では、「(信用力の少ない相手に)住宅ローンの融資のしすぎたおかげでS&Lの経営が苦しい」と主張する悪役のボスに対し、ジェームズ・スチュワート演じる若きS&L頭取は、「この町で生活し、そして死んでいく。家を持つには分に過ぎるというのですか」と応酬する。ちなみに同映画は、毎年クリスマスには必ずといってよいほど、全米で放映される。同映画がどのような影響を与えたのかは判断出来かねるが、サブプライム住宅ローンの創設者も同映画を見たことは一度だけではないはずだ。
| サブプライムに張られた鉄壁の防御線 |
ビジネスは、利益を創出することを1つの前提として活動する。いくらサブプライム住宅ローンの創設者に崇高な理念があったとしても、貸したお金をなかなか返すことが出来ない人達に貸すのだから、ボランティアに陥る、つまりビジネスとして成り立たない可能性は十分ある。そこでサブプライム住宅ローンの創設者達は、損失の回避、 そしてビジネスとして利益を出すようにしようと、防御線を幾重にも張ることにした。
・第1防御線:借り手側に数年間の猶予期間を設定
当初数年は金利だけの支払いとする。その猶予期間の間に、借り手の信用力が高まれば、借り手は他の好条件な住宅ローンに変更することを可能にする。
・第2防御線:転売
住宅ローン会社は、サブプライム住宅ローンという債務を、投資銀行に転売することで、住宅ローン会社はローン不履行のリスクを軽減することを可能にした。かつてS&Lが苦しんだような資金繰りのリスクの軽減が見込まれる。
・第3防御線:証券化
証券化というMBSを行なうことで、幅広く投資家から資金調達を可能にした。S&Lのような資金繰りのリスクの軽減が見込まれる。
・第4防御線:再証券化
サブプライム住宅ローンの貸し手も、1回の証券化だけでは不安なので、証券化されたMBSを再証券化しCDOにすることで、さらなるリスクの軽減を図った。
・第5防御線:モノライン
MBSやCDOの価格安定を目的として、モノラインという一種の保険を同証券にかけた。同住宅ローン証券の安全度を高め、投資家からの資金調達の促進を見込む。
過去に何度も金融危機に直面したアメリカ住宅市場。サブプライム住宅ローンの創設者は、債務不履行に伴うリスクに対し、5つも防御線を張り巡らすことで、サブプライム住宅ローンを取り扱うリスクの軽減を図った。
| サブプライム住宅ローンの明と暗 |
サブプライム住宅ローンが出来た90年代後半は、サブプライム住宅ローンはリスクが少ない商品、そして信用力の無い人にでも、住宅保有という再出発の機会を与える商品として、むしろ賛美されていた。
リスク軽減に関しても、証券化に過大な期待が寄せられていた。1980年代のS&L大量破綻に伴う不良債権で苦しむアメリカでは、1989年に整理信託公社(RTC)を設立することで、不良債券の処理に取り組んだ。RTCは、証券化などを使用することで、約3、500億ドル(当時の為替レートで約56兆円)もの不良債権を処理した。実際は、証券化による不良債権の回収実績は全体の16%にすぎなかったものの、証券化が「不良債権を効率的に処理した」最初の例として、高く評価されている。
サブプライム住宅ローンの延滞率が、概ね10%未満で推移したことも、サブプライム住宅ローンを後押ししていた。これまで借りたお金を踏み倒してきた人達を対象とする、サブプライム住宅ローンの延滞率としては、10%は決して高くはない。むしろ低い延滞率、とされた。サブプライム住宅ローンは、信用力の低い人に、勤労の大切さと節度ある生活の復帰を説いた、と。
証券化の偉大な実績と、想定よりも低い延滞率により、サブプライム住宅ローンの評価は過大なほど高まっていた。そのうえリスクに対する防御線を張り巡らせている。しかし、その鉄壁とされた防御線が、実は非常に燃えやすかった事実を直視した時、アメリカは、それまで抱いていた過度の期待から強制的に起こされた。そして、サブプライム住宅ローン問題の炎は、アメリカが想定していたよりも深刻な火災として、全世界に飛び火していくのである。 (次回へ続く)
提供 日本インタビュ新聞 Media-IR 2008.05 |特集




