2010年09月21日

【特集】『円高』を徹底検証!今後を占う(3)当面の投資戦略は?

■円高メリット関連セクターよりもグローバル展開企業が本命
外国為替変動の影響を低下させているグローバル企業が本命か

■低価格競争の激化で、体力消耗戦が長期化する可能性

 政府・日銀が円売り・ドル買いの市場介入を実施したことで、一旦は外国為替市場での円高・ドル安の流れに歯止めがかかった形である。しかし、世界景気の先行きに対する警戒感が完全に払拭されたわけではない。米国では景気回復ペースが鈍化しているため、米国FRBが追加金融緩和策を実施する可能性も高いだろう。さらに、各国が自国通貨安を意識している状況なども考慮すれば、円安・ドル高方向へ一気に基調転換する可能性は低いだろう。当面の円・ドル相場は1ドル=85円を挟むレンジでの攻防が予想されるものの、基調としては再び円高・ドル安方向に振れることも警戒しなければならない。

 円高・ドル安の流れに一旦は歯止めがかかったことで、企業業績の下振れに対する極端な警戒感は後退しただろう。株式市場でも当面は、自動車、電機、精密など輸出関連企業に対する買い戻しが優勢になりそうだ。しかし、足元の1ドル=85円台の円・ドル相場の水準でも、輸出依存度の高い企業の業績へのマイナス影響は大きい。さらにデフレへの影響など、日本経済全体に対する悪影響も懸念されることを考慮すれば、株式市場は引き続き外国為替市場の動向、米国や中国の株式市場の動向を睨みながら、神経質な展開が続きそうだ。

 当面の投資戦略としては、外国為替市場で1ドル=80円台半ばの円・ドル相場の水準が長期化することを前提にしておく必要があるだろう。なお円高・ドル安が企業業績に与える影響を見るうえでは、輸出採算の悪化による営業利益段階でのマイナス影響だけでなく、営業外でのドル建て資産に関する為替差損益の動向にも注意が必要となる。

 1ドル=80円台半ばの円・ドル相場の水準が長期化することを前提にし、基調としても円高・ドル安方向を警戒するならば、一般的なセオリーに従ってパルプ・紙、卸売・小売・外食、電力・ガスなど、円高メリット関連セクターへの投資が基本になるだろう。これらのセクターでは、燃料、原材料、加工製品など、仕入れの輸入依存度が高いため、輸入調達コストの低下というメリットが得られる。また円高・ドル安水準で海外旅行客が増加すれば、旅行関連業界も円高メリット関連と位置付けられるだろう。さらに、外国為替変動の影響を受けにくいとされる医薬品、鉄道、ネット関連などの内需関連セクターも、ディフェンシブ的に買われる可能性が考えられる。

 ただし最近では、円高・ドル安が進行する局面でも、これらのセクターが積極的に買われるという連動性は薄れているようだ。外国為替市場での円高・ドル安の進行は、自動車、電機、精密など輸出依存度の高い企業の業績悪化や海外シフトにつながるだけでなく、雇用の悪化やデフレの加速などを通じて、日本経済に打撃を与えかねない。したがって、円高・ドル安の進行で輸入調達コストが低下しても、国内市場が縮小すれば円高メリット関連企業、内需関連企業にとっても、業績拡大にはつながらない。むしろ低価格競争の激化で、体力消耗戦が長期化する可能性が高く、警戒感は強いだろう。

■アジア市場での収益が本格化している企業が有望

 中期的な視点で見れば、やはり外国為替変動の影響を低下させている企業が有望だろう。すなわち、円建て取引の比率が高い企業、取引通貨の多様化が進んでいる企業、輸出入のバランス化が進んでいる企業、コストのドル建て化が進んでいる企業、海外現地生産・販売(いわゆる地産地消)が進んでいる企業、新興国市場などへの投資が進んでいる企業などである。特に中国、インド、ASEAN地域など、成長市場であるアジア市場での収益が本格化している企業が有望だろう。小売・外食関連の企業、食品や日用品などを扱う内需型企業のでも、事業展開の重心はアジア市場にシフトしつつある。さらに、円高・ドル安局面を活用して、海外企業や海外資産の買収に積極的な企業も注目されている。

 結局は、円高メリット関連セクターよりも、本来の意味でのグローバル展開が進んでいる企業が本命ということになるだろう。多くの企業がアジア市場などへの展開を積極化させており、いずれも中期的な収益化への期待が高まっている。しかし銘柄数が多いため、現時点で当欄での参考銘柄としては、ヤクルト(2267)双日(2768)資生堂(4911)日本電産(6594)ジーエス・ユアサコーポレーション(6674)シマノ(7309)伊藤忠商事(8001)丸紅(8002)三井物産(8031)住友商事(8053)三菱商事(8058)ユニチャーム(8113)などを主力として挙げておきたい。特に総合商社のセクターは、指標面での割安感も強いだけに注目しておきたい。

 また今後は、外貨建ての資金調達の増加も予想される。特に総合商社は、新興国市場を中心に海外での投資が高水準のため、資金調達の面でも通貨を多様化することで、外国為替変動リスクを軽減させることが狙いの模様である。総合商社に限らず、同様の動きが広がる可能性も考えられる。

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【特集】『円高』を徹底検証!今後を占う(2)市場介入の今後は?