2009年07月22日
ゲーム市場関連特集:新作「ドラクエ9」は好調な滑り出し
■「ドラクエ」シリーズ全世界累計出荷本数は5000万本を突破

 スクウェア・エニックス・ホールディングス<9684>が7月11日、家庭用ゲームソフトの新作「ドラゴンクエスト(ドラクエ)9 星空の守り人」を発売した。1986年の第1作発売以来の人気シリーズで、2004年に発売した前作の「ドラクエ8 空と海と大地と呪われし姫君」以来、5年ぶりの新作である。当初は2007年の発売を予定していたが、3回の発売延期を経て、今回の発売となった。
 会社発表によると「ドラクエ9」の販売本数は、11日の発売から13日までの3日間で約250万本となり、前作「ドラクエ8」の約240万本を上回るペースとなっている。期待どおりの好調な滑り出しとなったようだ。また国内出荷本数は、11日の発売から14日までの4日間で300万本となった。この結果「ドラクエ」シリーズの全世界累計出荷本数は5000万本を突破した。
 「ドラクエ」シリーズは、前作「ドラクエ8」まではリメーク版を除いて、任天堂<7974>の「ファミコン」や、ソニー<6758>の「プレイステーション(PS)」「PS2」など、家庭用据置型ゲーム機向けに開発・発売されてきた。その時点で最も普及しているゲーム機を対象としてきたからだ。しかし、新作「ドラクエ9」は任天堂<7974>の「ニンテンドーDS」向けで、初めて携帯型ゲーム機向けに開発・発売された。通信機能を使えば最大4人まで一緒に遊べるようにしたことが特徴である。価格も5980円と前作の9240円より安く設定している。
 新作「ドラクエ9」が、携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」向けを選択したのは、国内で最も普及しているゲーム機であることに加えて、通信機能を生かした新たな遊び方を提案することで、携帯電話の交流サイト(SNS)などでゲームを楽しむ傾向を強めている若年層を取り込む狙いがあるようだ。また据置型ゲーム機向けは、ハードの高機能化・高画質化とともにソフトの開発費が膨らみ、ソフト開発会社の収益圧迫要因となっていることも背景にあるだろう。
 国内の家庭用ゲーム市場は、任天堂<7974>の「Wii(ウィー)フィット」など、体感型ゲームの流行で、女性や高齢者などにもユーザー層が広がり、一時の低迷を脱して活性化した。しかし最新型ゲーム機の普及が一巡し、2007年度をピークとして再び減速感を強めている。ゲーム市場を一段と活性化させるためには、誰でも手軽に楽しく遊べるハードやソフトの開発、市場の新しいトレンドへの対応などにより、ユーザー層を広げ続けることが課題である。

 
Wii効果一巡でゲーム市場に減速感

■ゲーム市場=08年度は一転して5年ぶりのマイナス成長

 ゲーム専門誌を発行するエンターブレインの調査によると、2008年度の国内家庭用ゲーム市場は、ハードとソフトの合計販売金額が5524億円となり、2007年度に比べて18・4%減少した。2007年度は1997年度の調査開始以来の最高を記録したが、2008年度は一転して5年ぶりのマイナス成長となった。
 このうち、ハードの販売金額は同27・1%減の2315億円と、大幅に減少した。2006年末に発売された任天堂<7974>の「Wii」や、ソニー<6758>の「PS3」という、最新型ゲーム機の普及が一巡したことが主因である。販売台数で見ると、携帯型ゲーム機では、任天堂<7974>の「ニンテンドーDS」が約398万台、ソニー<6758>の「プレイステーション・ポータブル(PSP)」が約323万台だった。また据置型ゲーム機では、任天堂<7974>の「Wii」が約225万台、ソニー<6758>の「PS3」が約99万台、米マイクロソフトの「Xbox360」が約39万台だった。

 一方、ソフトの販売金額も、同10・7%減の3209億円と2ケタ減少だった。2007年度には、任天堂<7974>の体感型ゲーム「Wiiフィット」が大ブームを巻き起こしたが、2008年度は年末商戦で大型タイトルが少なかったことが影響した模様だ。

 また、エンターブレイン、米NPDグループ、英GfKチャートトラックの3社共同調査によると、2008年の日本、米国、英国のゲームソフト市場における販売本数は、合計で前年比11%増の4億990万本だった。内訳は、日本が同13%減の6606万本、米国が同15%増の2億6840万本、英国が同26%増の7544万本であり、日本だけが減少した形である。日本では、市場の活性化が一巡したことに加えて、人気タイトルの発売が2009年に集中することもマイナス要因だった模様だ。

11月のPSP新型機種発売に期待

 2009年度は、ハードでは11月にソニー<6758>の「PSP」の新型機種発売が予定され、ソフトでは今回の「ドラクエ9」に加えて、秋以降に有力タイトルの発売が予定されているため、市場拡大が期待されている。ただし一方では、国内の家庭用ゲーム市場は「Wii」効果の一巡などで、トレンドとして減速感を強める可能性も指摘されている。
 任天堂<7974>は「ゲーム人口の拡大戦略」を基本方針とし、操作が簡単な「Wiiフィット」「Wiiスポーツ」「脳を鍛える大人のDSトレーニング」などのゲームでブームを巻き起こした。手軽に楽しめるゲームで、新しいユーザー層として女性や高齢者を取り込むことに成功した形である。そして、ハードの世界累計販売台数は「Wii」が5000万台、「ニンテンドーDS」が1億台を超えた。しかし初代「ニンテンドーDS」の発売(2004年12月)から4年以上、「Wii」の発売(2006年12月)から2年以上が経過し、普及ペースの鈍化が懸念されている。
 国内の家庭用ゲーム市場の減速が懸念される状況下で、ゲーム関連各社にとっては、新しい遊び方の提案などでユーザー層を広げることが課題となっている。

ゲーム市場を牽引する主要銘柄診断

■ユーザー層を広げる戦略が課題

 ゲーム専門誌を発行するエンターブレインによると、2008年の世界のゲームコンテンツ市場は、前年比5%増の3兆9952億円だった。グローバルに見れば、新規ユーザーの開拓などにより、欧米市場を中心としてゲーム人口は増加基調の形である。また中国では、オンラインゲーム市場が急成長している模様だ。
 携帯電話向けゲームの増加や、インターネットの交流サイト(SNS)内でのゲーム利用など、新しいトレンドも形成されているという。米アップルは昨年7月、携帯電話「iPhone(アイフォーン)」に、インターネットでゲームソフトを取り込めるサービスを開始した。ダウンロードできる対応ソフトは約1万4000種類に達し、携帯電話が携帯型ゲーム機としての存在感を強めている。国内でも、ディー・エヌ・エー<2432>グリー<3632>など、携帯電話の交流・ゲームサイトは若年層に大人気だ。
 ゲーム市場では、多くの人が遊んで楽しいと感じるゲームを投入し続けなければ生き残れない。一部の愛好家層をターゲットにした、ゲームの高速化・高画質化・高難易度化戦略では、ユーザー層が広がらず、収益の持続的な成長も期待できない。そして消費者のゲーム離れを防ぎ、ユーザー層を広げるためには、ゲーム市場を取り巻く環境の変化に対応して、新しい遊び方を提案することも求められている。

■各社とも大作に依存した収益構造脱却が課題

 ソニー<6758>は、携帯型ゲーム機「PSP」の新製品「PSP go」を、日米欧で今秋(日本では11月1日)発売する予定だ。専用ディスクを使わずに、ゲームや映画をすべてインターネット経由で取り込む形で、利用者の新しいデジタルライフスタイルに対応するとしている。現行の「PSP」の販売も継続する。据置型ゲーム機「PS3」向けには、2010年にスクウェア・エニックス・ホールディングス<9684>の人気シリーズ最新作「ファイナルファンタジー(FF)14」を投入する予定だ。ただし、新製品の発売に依存する収益構造からの脱却が課題だろう。
 任天堂<7974>は、初心者でも楽しく遊べるソフトを多数投入して、引き続きユーザー層の開拓を重点戦略とする模様だ。2010年3月期のハード販売台数の計画は、据置型の「Wii」が前期並みの2600万台、携帯型の「ニンテンドーDS」が同4%減の3000万台である。体感型ゲームのブーム一巡や、ハードの普及ペース鈍化などが懸念されるが、教育など新分野の開拓、欧米市場の普及率上昇などで、新しいユーザー層を取り込めるかがポイントだろう。
 コーエーテクモホールディングス<3635>セガサミーホールディングス<6460>バンダイナムコホールディングス<7832>スクウェア・エニックス・ホールディングス<9684>カプコン<9697>コナミ<9766>など、大手のソフト開発会社にとっても、新しいユーザー層の開拓や海外市場の開拓は大きな課題である。一部の愛好家向けソフト依存や、国内市場依存では、持続的な収益拡大は期待できない。また、規模の拡大やソフト開発面での相乗効果を狙った業界再編や、海外のソフト開発会社の買収も相次いでいるが、その効果が発揮されているとは言い難い。
 ハード、ソフトともに、数年に一度の大作に依存した収益構造のままでは、中長期的スタンスの投資対象にはなり得ないだろう。