2011年05月23日
決算情報 Media-IR 日本インタビュ新聞社

さくらインターネットは前11年3月期決算説明会を開催


 データセンター事業の最大手さくらインターネット<3778>(東マ)は、10日にみずほインベスターズ証券本社で前11年3月期決算説明会を開催した。

1.さくらインターネットについて

さくらインターネットホームページ 同社は、05年10月に東証マザーズへ上場した。上場後初となる06年3月期の決算は、売上高27億58百万円、経常利益2億7百万円であったが、11年3月期には売上高85億84百万円、経常利益11億94百万円と順調に業容を拡大している。
 同社が手掛けるデータセンター事業は、サーバやルーターといった通信機器類のデータセンター内に設置スペースをデータセンター内に提供するコロケーションと、事業者が所有するサーバ等の通信機器類を、顧客がWeb上でレンタル利用できるホスティングの2種類に大別される。
 コロケーションには、(1)個室単位でスペースを貸し出すサービスと、(2)ラック(棚)単位で貸し出すサービスがある。同社は、ラック単位で貸し出す「ハウジングサービス」を提供している。
 ホスティングには、(1)1台のサーバを独占して利用できる専有ホスティング、(2)物理的な制約にとらわれず、1台のサーバを論理的に分割し、それぞれが独立したサーバとして利用できる仮想化ホスティング、(3)1台のサーバを複数の顧客でシェアする共有ホスティングといった3種類のサービスがある。同社では、これら3つのサービスをすべて提供している。

2.業績概要

 前11年3月期業績は、売上高85億84百万円(10年3月期比9.9%増)、売上総利益28億16百万円(同24.0%増)、営業利益12億25百万円(同63.7%増)、経常利益11億94百万円(同65.0%増)、純利益5億72百万円(同1.0%増)と増収増益だった。
 売上高については、コロケーション分野の受注に苦戦したものの、ホスティング分野が好調であったことから増収となった。利益面については、収益性の高いホスティング分野の売上構成比が高まったことにより、大幅増益となった。しかし、最終利益については、法人税等の大幅増により、微増に留まった。
 サービス別の売上高は、ハウジングサービス30億19百万円(同0.5%増)、専用サーバサービス31億84百万円(同19.3%増)、レンタルサーバサービス14億69百万円(同22.9%増)、その他サービス9億10百万円(同3.4%減)と、上場以来初めて専用サーバサービスの売上高がハウジングサービスの売上高を上回った。
 貸借対照表を見ると、流動資産47億14百万円(同28億42百万円増)、固定資産50億94百万円(同18億90百万円増)とそれぞれ大幅に増加している。流動資産の増加要因は、長期借入れなどにより現預金が増加したことである。固定資産は、堂島データセンターのフロア拡張や石狩データセンターの用地取得・着工に伴う建設仮勘定の発注による増加である。その結果、総資産は98億9百万円(同47億32百万円増)となった。
 負債は75億25百万円(同42億3百万円増)と大幅に増加している。その内訳は、流動負債36億83百万円(同8億91百万円増)、固定負債は38億41百万円(同33億11百万円増)と急増している。この理由は、石狩データセンターの建設資金を調達するために長期借入れが増加したことによる。
 一方、純資産は22億84百万円(同5億29百万円増)と好業績であることから増加している。
 キャッシュ・フローは、営業キャッシュ・フロー22億4百万円(同1億83百万円増)、投資キャッシュ・フロ―△25億75百万円(同15億81百万円減)、財務キャッシュ・フロー28億96百万円(同35億75百万円)、現金及び現金同等物の期末残高36億98百万円(同25億26百万円増)となった。当社の主な収益源は、月額固定のサービス利用料である。そのため、顧客数の増加に伴い、営業キャッシュ・フローも年々増えている。投資キャッシュ・フローについては、堂島データセンターのフロア拡張や石狩データセンターの用地取得・建設に伴う設備投資の増加により、大幅な支出増となった。財務キャッシュ・フローも、上記の大規模な設備投資を実施するため、金融機関から資金を調達したことにより、大幅にな収入増となった。

3.中期経営計画の進捗

 同社は10年3月期に中期経営計画を発表した。あらゆる既存からの脱却を図り、持続的な成長を実現する仕組みを作ることを方針としている。
 中期経営計画の当初の目標数値は、10年3月期売上高77億円、経常利益3億90百万円、経常利益率5.1%、11年3月期売上高88億円、経常利益7億円、経常利益率8.0%、12年3月期売上高100億円、経常利益10億円、経常利益率10.0%である。これらの目標数値を達成するために、中期経営計画では5つの分野ごとに重点施策を掲げていた。。
 事業・サービス分野においての重点施策は、(1)顧客領域の拡大、(2)インバウンド機能の強化、(3)既存サービスのブラッシュアップ、(4)料金体系のバリエーション化、(5)新たなサービスの創造の5つ。。
 顧客領域の拡大を行うために、10年6月に双日から営業部門の管掌役員を招へいし、翌7月には一般法人に特化した営業チームを創設した。
 インバウンド機能の強化では、コールセンタースタッフを増員した。また、蓄積した顧客対応ノウハウをマニュアル化し、スタッフのレベルアップにも努めている。
 既存サービスのブラッシュアップに関しては、レンタルサーバサービスのディスク容量の強化や専用サーバサービスのリニューアルなどに取り組んだ。
 料金体系のバリエーション化や新たなサービスの創造については、さくらのマネージドサーバ、専用サーバ Platform St、さくらのVPSなど、新しいサービスを次々と投入し、その後一定のシェアを確保した後に、同サービスのバリエーションを拡充した。
 ITインフラの調達の分野では、(1)バックボーン網の最適化、(2)データセンターの統廃合と最新データセンターの調達、(3)コスト競争力に優れたサーバ開発・調達体制の構築を重点施策として挙げている。
 当社は国内トップのバックボーンネットワーク容量を確保しているが、継続的に増強を進めている。また、複雑化したネットワークインフラをシンプルに再構築し、ネットワーク管理の効率化も図っている。
 データセンターの統廃合に関しては、10年8月に本町データセンターを閉鎖した。12年3月期中に池袋データセンターも閉鎖する予定である。また、前期に着工した石狩データセンターは11年秋に運用開始の予定。
 コスト競争力に優れたサーバの開発と調達体制の構築では、機材調達に特化した組織を設け、集中購買により、仕入コストの削減と在庫の適正化を図っている。
 組織の分野では、(1)生産性の向上を実現する組織改編と拠点の統廃合、(2)機動的開発体制の整備と中長期的技術研究の推進を挙げている。拠点の統廃合では、大阪の3拠点を2拠点に、東京の5拠点を4拠点に集約した。また、インターネットに関する技術組織「さくらインターネット研究所」を09年7月に創設し、技術力の向上にも取り組んでいる。
 経営基盤の強化の分野では、業務プロセスの抜本的な見直し等によるオペレーション体制の強化を図ろうとしている。既に、11年3月から市場環境の変化に耐えうる新しい基幹システムの導入を始めている。12年3月期中にコアパートの導入完了を予定。
 財務・資本の分野については、事業成長に要する設備投資資金を安定的かつ効率的な手段で11年3月期中に調達。双日との資本関係も強化した。
 以上のように中期経営計画の重点施策については、多くの成果を挙げている。

4.今後の展望

 今12年3月期以降の重点課題として、(1)初期費用負担の少ないサービス提供の推進、(2)サービス供給拠点の地域分散、(3)コスト競争に強く、災害体制に優れたホスティング供給体制、(4)データセンター事業者ならではの消費電力削減、復興支援と4つの課題を挙げている。
 まず、初期費用負担の少ないサービスとして、同社では初のクラウドサービス「さくらのクラウド」を11年の夏に投入する予定。「さくらのクラウド」の特徴は、利用するサーバのCPUとディスク容量に応じて課金する(1)シンプルな料金体系と、(2)柔軟で自在性の高いサービスプランである。提供ラインナップを充実させる予定とのことで、ユーザーの事業ステージに適したサービス利用が可能となる。
 サービス供給拠点の地域分散については、東京、大阪、石狩と3つの地域でデータセンターを確保し、その間をLANで接続することによって、シームレスな連携が可能なサービスを提供する予定。
 コスト競争に強く、災害体制に優れたホスティング供給体制については、石狩データセンターを建設することで対応する。
 データセンター事業者ならではの消費電力削減と復興支援に関しては、電力消費の抑制のため、東京都心部のデータセンターが持つホスティングサービスの供給機能を、大阪都市部のデータセンターに一部移管する。そのために、堂島データセンターのホスティングサービス供給能力を強化する。
 災害被災者への復興支援策として、被災した既存顧客のサービス利用料金を2か月分無料としている。また、震災直後に岩手県のホームページがパンクしそうになったとき、県担当者の要望に応え、代替サイトを用意するなどの支援策にも取り組んだ。
 今12年3月期業績予想は、売上高94億円(前期比9.5%増)、営業利益7億40百万円(同39.6%減)、経常利益7億円(41.4%減)、純利益4億円(同30.2%減)と増収減益を見込み。
 将来を見据え、大規模な設備投資を大胆に実施していることで、競争力を持ち、今後の事業展開を優位に進める体制が整いつつある。

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