2009年04月21日

囁きから現実味帯びる『5月危機説』:景気悪化進み企業業績は超悪予想に

■「5月危機説」が囁かれる背景
囁きから現実味帯びる『5月危機説』 株式市場では3月中旬以降、過度な不安心理が後退し、景気対策に対する期待なども手掛かりとして上昇に転じた。日経平均株価で見れば4月10日には一時、取引時間中として3ヶ月ぶりに9000円台を回復し、3月10日のバブル崩壊後の安値から1ヶ月で3割弱上昇した。景気の最悪期は脱しつつあるという見方が増えて、市場心理は好転しているようだ。しかし一方では、景気の先行きに対する警戒感も依然として強い。そして企業の2009年3月期決算発表を機に、信用不安の再燃などで市場心理が後退する「5月危機」も懸念されている。

 株式市場で「5月危機」が囁かれる背景には、『企業業績の一段の悪化』、『信用不安の再燃』、そして『景気底割れの懸念』がある。国内主要企業の09年3月期決算発表は、4月下旬から5月中旬にかけて出揃う。すでに大幅減益や赤字転落が予想されているため、09年3月期の業績悪化は株価に織り込み済みと考えられている。しかし、4月に入って下方修正を発表する企業が相次ぎ、また監査法人が求める厳格な資産査定により、損失額が想定より拡大する可能性も懸念されている。09年3月期の決算発表で、実態が想定以上に悪化していることが明らかになれば、投資家の失望感を誘い、市場心理が後退する可能性も考えられる。

 さらに、企業業績の悪化や株価の下落で信用リスクが意識されれば、金融機関などの融資姿勢も慎重になるため、業績不振企業の資金繰り悪化が表面化して、経営破綻につながりかねない。また業績不振企業の増加は、メガバンクなど金融機関にとって不良資産の増加につながるため、再び金融危機が意識されて、市場心理の後退に拍車をかける可能性も否定できない。

景気底入れの兆しも−−悪材料への反応は限定的

 3月中旬以降の株価上昇については、売り方の買い戻しが主因とみられているが、09年3月期の企業業績悪化を織り込んだうえで、景気の底入れや10年3月期の企業業績の改善を期待し、それを株価に織り込み始めたという見方もある。その背景には、景気対策の効果への期待や、経済指標の一部に景気底入れの兆しが見え始めたことがある。主要企業の株価を見ても、悪材料への反応は限定的となり、生産回復などの好材料を評価する動きを強めている。
 たとえばトヨタ自動車(7203)の株価を見ると、10年3月期も連続営業赤字の可能性という報道に対する反応は限定的であり、在庫調整が進展して5月から国内生産を引き上げる見通しという報道を好感した形である。またシャープ(6753)の場合は、09年3月期の赤字幅拡大という見通しを発表したが、株価は大幅に上昇した。亀山第2工場の稼働率が1〜3月の5割程度から急回復し、4月にはフル稼働の状態だという発言が、10年3月期の業績改善を期待させた形である。

慎重な見通しがどの程度、株価に織り込まれたか

 したがって4月下旬から本格化する企業の決算発表では、10年3月期業績の見通しがポイントとなる。現時点では「最悪期は脱しつつあるが、回復はL字型」という見方が多く、主要企業が10年3月期業績に関して楽観的な見通しを打ち出す可能性は極めて低い。08年秋以降の急激な在庫調整が一巡し、生産ベースで見れば最悪期を脱しつつあるとはいえ、最終製品の需要回復ペースは鈍いだろう。さらに今後、雇用情勢悪化の影響が懸念されるうえに、設備投資需要の低迷も長期化する可能性が高い。
 こうした状況を勘案すれば、国内主要企業の10年3月期業績は、生産が期後半から緩やかに上向き、合理化効果も寄与すると期待するが、通期ベースで見れば09年3月期との比較で、営業利益段階では減益となる可能性が高い。09年3月期は期後半に急ブレーキがかかったが、期前半は為替の円安も寄与して高水準だったためである。ただし最終利益については、特別損失が一巡すれば増益に転じる可能性も考えられる。
 「5月危機」を考えるうえでは、こうした慎重な見通しがどの程度、株価に織り込まれているのかも焦点となる。十分に織り込まれていなければ、10年3月期の業績見通しが期待を下回ったとして失望感が高まり、市場心理が弱気に傾く可能性が考えられる。事業環境の変化が激しく見通しが困難という理由で、10年3月期の業績見通しを開示しない企業が増加することも予想されており、それが市場の不安心理を増幅させる可能性も考えられる。

景気底入れか? 底割れか? 判断指標がカギ

 また、09年度補正予算案の審議状況や政局、6月1日を期限とする米GMの救済問題など不透明要因も多い。日経平均株価が3月の安値から大幅に上昇したことで、短期的な過熱感や高値警戒感も指摘されているだけに、一転して市場心理が後退し、調整局面となる可能性も考えられる。さらに景気の底割れ懸念が高まるなど、悪材料に反応しやすい地合いになれば、下値を警戒することが必要になるかもしれない。
 しかし、3月中旬以降の株価上昇局面でも、積極的に上値を追う買い方が増えていないとすれば、景気や企業業績の先行きに対して、依然として慎重な姿勢を崩していない投資家が多いと考えられる。そして、10年3月期業績の慎重な見通しについても冷静に、あるいは想定内と受け止められ、反応は限定的となる可能性も考えられる。
 主要企業の決算発表一巡で、悪材料出尽くし感を期待するのは行き過ぎだとしても、慎重な見通しに対する反応が限定的であれば、次の焦点は企業業績の回復ペースについての判断に移るだろう。市場に安心感が広がり、本格的な上昇に転じるためには、やはり景気や企業業績の底入れを確認する指標が必要となる。景気の底入れか底割れかを判断するうえでも、4〜6月期は重要な時期となるだろう。

景気底入れなら国際競争力の高い素材・部品関連メーカーの業績回復が先行

 そして4〜6月期に景気底入れ感が強まる可能性も想定しておきたい。この場合、製造業では完成品メーカーよりも、国際競争力の高い素材・部品関連メーカーの業績回復が先行する可能性が考えられる。たとえば化学、非鉄、鉄鋼などの素材関連セクターでは、中国の景気対策効果なども寄与して、半導体・液晶関連や、社会インフラ関連の需要が上向いており、稼働率上昇や市況改善などのメリットが期待される。また電子部品関連セクターでは、在庫調整の進展効果で、携帯電話向けを中心に受注が上向いている模様だ。

 関連する主力銘柄としては、クラレ(3405)SUMCO(3436)住友化学(4005)トクヤマ(4043)イビデン(4062)信越化学工業(4063)三井化学(4183)JSR(4185)三菱ケミカルホールディングス(4188)新日鉱ホールディングス(5016)日本電気硝子(5214)新日本製鐵(5401)JFEホールディングス(5411)三菱マテリアル(5711)住友金属鉱山(5713)日本電産(6594)TDK(6762)ローム(6963)京セラ(6971)村田製作所(6981)、日東電工(6988)HOYA(7741)などの業績見通しに注目したい。

 一方、北米市場への依存度が高い輸出関連セクターについては、数量ベースでは緩やかに上向くことを期待するが、為替動向に加えて、プロダクトミックスの動向にも注意が必要だろう。また設備投資関連セクターについては、製造業の設備過剰感が強く、生産拠点の集約や閉鎖など設備能力を調整する動きが続いているため、過大な期待は避けたい。