2013年07月31日

【東証新指数特集】新指数導入で何が変わるのか?対象企業は上昇間違いなし?


★年内登場予定の東証新指数は世界初の『ROE』が基準

■300〜500銘柄、高ROEは高株価につながる

 株式マーケットに新しい株式指数が登場する。グローバル時代を背景に魅力ある指数をつくり世界マネーを東京市場に引きこみ、売買を活発化し、既に、導入している超高速コンピュータの稼働率を高めることが狙いだが、個人投資家にとっても日本の国力・経済力・景気などに対し、より実感できる指数として使えることから資産運用をより着実なものとすることに役立つといえる。日本取引所グループが中心となって開発中で年内にもお披露目される見通しだ。

■約12倍の開き!?日経平均とTOPIXの違い


 現在、日本には、「日経平均」と「TOPIX(東証株価指数)という代表的な指数があり、まず、両指数の違いを取り上げたい。それによって、新指数登場の背景が浮かび上がってくる。両指数とも東証1部上場銘柄を対象としている共通項がある反面、違いとしては、

 (1)6月末時点で日経平均1万3677円、TOPIX1133ポイントという「株価」の違い

 (2)「単位」が円とポイントという違い

 (3)1部全上場銘柄1713社(6月末)の中で日経平均は225社を計算の対象、TOPIXは1713社すべてを対象としている

 (4)日経平均は株価だけを計算の対象としているのに対しTOPIXは株価に「上場株数」を加えている

 ──といった違いがある。つまり、日経平均及びTOPIXとも「株価」を計算基準に置いていることでは一致しているものの、日経平均は「上場株数」を計算に採用せず、TOPIXは「上場株数」を採用していることによる違いによって、両指数に約12倍という大きい開きとなっている。こうしたことから、個人投資家を含む市場参加者にとっては、「日経平均を平均というけれど1万3000円を上回る銘柄は数少ないではないか」、「日経平均は300円も500円も上がっているのに自分の持っている銘柄はちっとも上がらない」といった疑問や不満の声につながっている。また、日経平均採用の225銘柄は別名「経団連銘柄」ともいわれ、オールドインダストリー銘柄が多く、時流に乗る成長産業銘柄が少ないのではないかという指摘もある。このため、TOPIXの方が相場実体に近いとして、機関投資家等はベンチマーク(運用の際の基準)にTOPIXを使っている。しかし、実体に近いとは言っても、1日に数100円動く日経平均に比べ1日に僅か1円ていどしか動かないことが多いTOPIXに対しは、「ドン臭い」ものとして人気性に欠けることから、とくに個人投資家にはウケがあまりよろしくない。

■機関投資家がTOPIXをベンチマークにする理由

 どうして、こういう差が出るのか。それは、両指数の採用銘柄数の違い以上に上場株数を計算対象に入れているかどうかの違いが大きい要因になっている。同じ100メートルを走る場合、上場株数という「重り」をつけて走っているTOPIXに比べ「重り」のない日経平均は速く走れるのは当然である。もう少し踏み込んで両指数の計算式を見てみよう。

 仮に、Aという株価1000円の銘柄を1000株持っていたとして、その銘柄が株式2分割を実施する場合、権利付では1000円×1000株=100万円が資産価値(時価総額という)である。その銘柄が株式分割の権利を落としたときは、権利落後株数は1000株が2000株となり、同時に理論上の株価は半分の500円となって500円×2000株=100万円ということになる。これによって、権利付時点の時価総額と権利落後の時価総額は同じとなるわけだ。

 しかし、株価だけを対象とする日経平均では権利付の株価と権利落後の株価では大きい開きが出てしまう。つまり、相場表などでは、今度のケースでみれば1000円だった株価が500円へ、業績が悪いといった理由が表面化したわけでもないのに権利落ちによって500円安と表示されることになってしまう。

 こうしたことから、株価の連続性をもたせるため「除数」を使って元の株価に修正する方式が採られており、これを「修正平均株価」という。日経平均は権利落のある度に除数を用いて修正株価に置き直している。

 戦後の東証再開時から権利落ちを修正した結果が現在の株価1万3000円台であり、1989年には過去最高の3万8915円をつけたということである。

 一方のTOPIXは、まず個々の銘柄の時価総額(株価×上場株数)を求め、次に1713社の時価総額を合計して日々の東証1部の時価総額として発表している。その時価総額を1968年1月4日を100とした指数としているわけだ。45年前に100ポイントだったものが現在は13.1倍の1311ポイントとなっており、この間の日経平均の上昇率10.6倍を上回っている。資金をTOPIX投資に振り向けていたら約半世紀で13倍の運用成績を挙げることができ、かつ日経平均で運用するより3割も成績が良いということである。このため、長期投資を旨とする機関投資家等の資金運用のベンチマークとなっているということだ。

■新指標の大きな特徴は世界初のROE基準

 こうした、日経平均とTOPIXの特性を踏えたうえで、今回、「新指数」が開発されることになっている。ひとことで言うなら、新指数は「日経平均とTOPIXの両方のよいところを取った指数」ということができるだろう。たとえば、昔から言われている、『匂いマツタケ、味シメジ』といわれるように、「マツタケの派手さとシメジの味の良さ」の両方を兼ね備えたものが今回開発される新指数に込められているということだ。

 つまり、日経平均は古くから使われているため投資家だけでなく投資をしない一般の人も耳にすることが多く馴染みが深いうえにダイナミックな動きをする派手さがあるためマーケットに対する印象を強める効果がある。また、TOPIXも派手さはないものの、日本の政治、経済などの国力をより正確に表す点を新指数が受け継ぐことになっているといえる。

 新指数の詳細はまだ明らかとなっていないものの、これまでに述べてきた日経平均とTOPIXの特徴と、報道されていることを総合すれば新指数には、いくつかの特徴が浮かび上がってくる。

 (1)TOPIX型の時価総額方式である

 (2)日本を代表する300〜500銘柄

 (3)オールドインダストリーではなく今の日本の稼ぎ頭的な成長産業、(4)ROEを基本に収益性の高い銘柄

 〜などである。とくに、ROEを基準とした指数は世界でも始めてといわれる。

■ROEがアップすれば株価も大きく上昇

 ROEとは株主資本利益率のことで、貸借対照表の総資産の中で株主に帰属する(=株主のもの)という資産である。以前は自己資本と表記された時期があったが、「会社は株主のもの」、という国際的基準に合わせて今では自己資本と表記されている。

 つまり、自己資本という場合には、会社経営者にとってみれば銀行から借りたお金は返さなくてはならないが、株主からのお金は自分たち会社のもので返す必要はなく自分たちの裁量で文句なく使える、という意識が強くなりやすい。結果、儲からないところにお金を使って収益を下げることにもつながる心配がある。

 株主資本と明記すれば、株主から預かった資金を有効に使っていないと、とくに外資系株主などからは経営者の責任を強く問われることになる。銀行にはぺこぺこするが、株主のことには目を向けない、ということを防ぐのがROEという指標といえるだろう。

 ROEは「当期純利益」÷「株主資本」=(%)という計算式で求める。たとえば、日本を代表するトヨタ自動車の2013年3月期のROEは8.5%と前年期の2.7%から大きく向上している。ROE向上に伴いトヨタ株価は2012年3月末の3570円から2013年3月末には4860円へ4割近く値上りしている。

 このように、ROEがアップすれば株価も大きく上昇するということが今回の新指数の基準にROEを用いる最大の背景である。ROEを高めるには常に株主の目を意識し、人・物・金・情報・ブランド・人材などの企業資産をムダのないように成長の見込める分野に投じることで、多くの利益を挙げることに努めることである。

■新指数導入で注目される銘柄とは?

 現在、先進国の上場企業のROE平均は15〜16%といわれ、これに対し日本は5〜6%ていどにとどまっているとみられており、「まだ株主に目を向けた経営が世界に比べ見劣りする」という指摘となっている。

 新指数では東証に上場される銘柄(東証1・2部、マザーズ、ジャスダック、大証1・2部)でROEの高い銘柄と時価総額を加味して300〜500銘柄が選ばれる見通しである。とくに、個人投資家にとって投資をする際の銘柄選びには、これまでの、「配当」、「1株利益」、「売上高利益率」などに加え、ROEを加えることで銘柄選びがより充実となる。

 とくに、ROEの高い銘柄には機関投資家及び外国人投資家の買いが見込めることから今のうちから先回り投資するのも一法だろう。ちなみに、ROEの高い銘柄の主な銘柄をピックアップすると次のような銘柄がある。グリ(3632)、ガンホ(3765)、明豊エンター(8927)、東洋製作所(6443)、遠藤照明(6932)、多摩川HD(6838)、日本航空(9201)など。

【新指数のコラム】

■新指標導入への、それぞれの思惑

 今回の新指数が誕生する裏には、「NYダウ」に対する憧れがあったたといわれる。アメリカと日本の関係は上場企業に置き換えれば、日本はアメリカの連結子会社といったところである。そのアメリカ・NYダウは、すでに1万5000ドル台に乗せ史上最高値を更新している。

 一方の日経平均は1989年の史上最高値3万8915円に対し、まだ3分の1の1万3000円程度にとどまっており、「日経平均が最高値を更新するのは、いつの日になるか分からない」という見方が定着している。これでは、アベノミクスを掲げ、日本再生を打ち出している政権にとっては、NYダウ最高値更新に比べ、日経平均はいまだ高値から3分の1というのでは効果が薄いということで政府側からマーケットへそれらしきプッシュもあったようだといわれる。

 採用銘柄数はNYダウ30社、日経平均225社と違いはあるものの、計算には上場株式数は使わないで株価のみを用いるという「修正平均株価方式」ということでは同じだけに、日経平均は、もっと上値が欲しいのではないかという観測だ。

 とは言っても、NYダウのように僅か30銘柄では、株価を上げることだけが目的という飾りものとなって、世界の資金の運用対象にならないという心配もある。

 このため、アメリカでは機関投資家の運用の際のベンチマークとなっている指数『S&P500』を意識し、かつ、世界で始めて選定基準にROE(株主資本利益率)を採用する世界初の指数ということになっている。

 もちろん、背景には東証が導入した超高速コンピュータの売買システムの稼働率を上げたいという本音もあるようだ。このため、東証では売買の値刻みを今の「1円」から「10銭」に引き下げてコンピュータの稼動を高めることも考えている。東証も株式会社でありROEを高めなくてはいけないわけだ。(日本インタビュ新聞社執筆・実業日本社マガジン7月26日発売号に掲載)