2010年09月21日

【特集】『円高』を徹底検証!今後を占う(2)市場介入の今後は?

■市場介入の効果持続には不透明感
円高・ドル安へ進行しやすい展開は変わらず

■米・中の株式市場を睨みながら神経質な展開に

 外国為替市場で政府・日銀が、6年半ぶりとなる円売り・ドル買いの市場介入を実施したことをきっかけに、9月15日の東京外国為替市場での円・ドル相場は1ドル=85円台半ばまで急反落した。同日のロンドン市場、およびニューヨーク市場でも、政府・日銀は円売り・ドル買いの市場介入を実施した模様であり、円・ドル相場は概ね1ドル=85円台半ばで推移した。円相場は対ユーロでも大幅に下落した。

 また9月16日の東京外国為替市場でも、円・ドル相場は概ね1ドル=85円台前半から半ばのレンジで小動きだった。菅直人首相は9月16日にも「必要に応じて断固たる措置を取る」ことを表明しており、外国為替市場では円売り・ドル買いの市場介入に対する警戒感が高まっている模様だ。

 今回の政府・日銀による市場介入については、実施のタイミングや規模の大きさにサプライズがあり、円高・ドル安の進行を阻止するという点で、当面は一定の効果が得られたと評価できるだろう。ただし、今回の円売り・ドル買いの市場介入は、日本単独での介入の模様であり、その効果の持続について疑問視する見方が多い。巨大な外国為替市場で効果を発揮するには、やはり主要国の協調介入が必要だとされている。

 9月16日の株式市場は、円・ドル相場が1ドル=85円台半ばであることを好感し、前日終値比プラス圏でスタートしたものの、次第に値を崩す展開となった。終値は日経平均株価(225種)、TOPIXともに、前日終値比で小幅に反落して取引を終了した。前日に大幅上昇した反動もあるが、政府・日銀による単独市場介入の効果は限定的との見方が強いだけに、外国為替市場で再び円高・ドル安が進行することに対する警戒感も強いようだ。当面は、外国為替市場の動向、米国や中国の株式市場の動向を睨みながら、神経質な展開が続きそうだ。

 外国為替市場で8月上旬以降、急速に円高・ドル安が進行した背景には、米国の景気減速やデフレ圧力に対する懸念が高まったことで、米国連邦準備制度理事会(FRB)の超低金利政策が長期化するとの見方が強まっていることがある。米国経済の成長率回復ペースが鈍化しているため、追加的な金融緩和策を早期に実施する可能性も高まっており、利上げに転じるのは2011年後半以降にずれ込むとの見方も浮上している。したがって今回の円高・ドル安進行の流れは、米国経済に対する警戒感を背景とするリスク回避の円買い・ドル売りの流れであり、これが円安・ドル高のトレンドに転換するためには、米国経済に関して楽観的な見通しが広がり、利上げ観測が高まることが不可欠となるだろう。

■円高・ドル安が進行しやすい状況に変化はない

 政府は9月10日に、事業規模9兆8000億円の経済対策を閣議決定しているが、この経済対策による国内総生産(GDP)押し上げ効果は実質0.3%にとどまるため、経済対策としては力不足との指摘が多い。また円高・ドル安対策に関して「政府は必要な時には為替介入を含め断固たる措置をとる」と介入を明記し、9月15日には日本単独での円売り・ドル買いの市場介入を実施した。しかし米国や欧州との協調介入ではないため、その効果は一時的、限定的という見方が強い。各国が自国通貨安を意識している状況も考慮すれば、効果の持続性という点でも不透明感が強い。

 また日銀は、8月30日の臨時金融政策決定会合で新型資金供給オペを30兆円に増額するという追加金融緩和策を決定したのに続き、今回の円売り・ドル買いの市場介入では、金融市場に供給した円資金を吸収せず、そのまま市場に放置する「非不胎化」の方針を示唆している。これによって金融市場の資金量を増やし、事実上の金融緩和効果を狙いたいとしている模様だ。しかし今回の単独市場介入の効果が薄れ、外国為替市場で再び円高・ドル安の流れが顕在化すれば、日銀に対して政策金利の変更など一段の追加金融緩和策への圧力が高まるだろう。ただし金利低下余地は乏しいため、日銀の追加金融緩和策には手詰まり感が指摘されている。

 政府・日銀による今回の市場介入の効果で、当面の円・ドル相場は1ドル=85円を挟むレンジでの攻防が予想されるものの、米国の景気減速懸念を背景とするリスク回避の円買い・ドル売り圧力は依然として強い。さらに9月末に向けて、日本の輸出企業による円買い・ドル売り需要も予想されている。米国FRBの追加金融緩和策次第では、日米の金利差が一段と縮小して再び円高・ドル安が進行する可能性も考えられる。中国による日本国債購入の拡大なども考慮すれば、円高・ドル安が進行しやすい状況に変化はないと言えるだろう。仕掛け的な動きも加わって再び円高・ドル安が進行すれば、1995年4月に付けた円・ドル相場の過去最高値1ドル=79円75銭が視野に入る可能性も否定できないだけに、注意が必要だろう。

【特集】『円高』を徹底検証!今後を占う(1)円高の背景は?

【特集】『円高』を徹底検証!今後を占う(3)当面の投資戦略は?