2009年3月
関西経済特集 Vol.2
次世代産業の展開が関西経済の未来を築く
世界規模の投資が進む大阪湾岸「パネルベイ」

パネルベイ ここ3年程前から液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイや、次世代エネルギーの主役として注目が高まっている太陽電池・リチウムイオン電池。そうしたフラットパネル生産設備・工場が大阪湾岸、昔で言う阪神工業地帯に次々と進出し、関西経済復活の礎となるのではないかと俄かに注目を浴びるようになっている。2010年春までに完成する大阪湾「パネルベイ」の新工場の投資額は2009年1月時点で1兆1,860億円に上ると言われ、翌2010年には320千トン/年、さらに2015年には513千トン/年の物流発生が見込まれるなど、国内最大規模であるのは勿論のこと、世界有数規模のハイテク関連産業集積地に変貌することが確実視されている。

主な関西経済(パネルベイ)関連銘柄
液晶・プラズマパネル関連銘柄 シャープ<6753>、パナソニック<6752>、大日本印刷<7912>、凸版印刷<7911>、旭硝子<5201>
太陽電池関連銘柄 シャープ<6753>、三洋電機<6764>、宇部興産<4208>、旭硝子<5201>、新日本石油<5001>、大阪チタニウムテクノロジーズ<5726>、関西電力<9503>
太陽電池関連銘柄(パネルベイ以外) 京セラ<6971>、三菱電機<6503>、カネカ<4118>
リチウムイオン電池関連銘柄 三洋電機<6764>、パナソニック<6752>
 また同じ大阪湾岸に立地する関西国際空港の年間航空量は、2015年には2007年度輸出貨物量の1割に相当する量が新たに増加し、週20便強の貨物便増便が必要となる(B767、30t搭載で換算)ことが見込まれており、旅客便の減便に苦しむ関西国際空港の地位向上、経営改善効果も期待される。さらに「パネルベイ」整備に伴い、湾岸アクセス(高速道路、鉄道など)向上のためのインフラ整備計画も進行中であるほか、海上貨物については、「パネルベイ」の物流の大部分を取り扱うことから、スーパー中枢港湾「阪神港」の機能強化や、利便性向上に向けた開発が着々と進められている。

 以上が理由の全てではないが、現在、橋下徹大阪府知事の下、大阪府庁舎を湾岸に立地する「WTC」に移転する計画も進められており、今年中に大阪府議会の議決を通してその結論が出る見通しとなっている。もし実現すれば、大阪湾岸「パネルベイ」及び関連インフラの発展を促進する効果も期待される。ここではその「パネルベイ」発展につながっていく背景と、発展に貢献する企業について、取り上げてみたい。

【目次】
・関西経済発展を阻害した工場三法と東京への一極集中
・「パネルベイ」の今を担う液晶・プラズマパネルメーカー
・「パネルベイ」の将来を担う太陽電池メーカー
・リチウムイオン電池も「パネルベイ」のもう一つの主役
・「パネルベイ」以外でも関西に展開する太陽電池

関西経済発展を阻害した工場三法と東京への一極集中

 元々、大阪湾岸を中心に展開されていた阪神工業地帯は、大阪をはじめとした京阪神の商業資本と大消費市場、水運を中心とした交通、淀川による用水を背景に発達し、戦前は首都圏の京浜工業地帯を上回る地位を築いていた。また展開業種も、食品、繊維から電気機器、機械工業、鉄鋼と幅広い裾野を誇っていた。
 しかし、太平洋戦争に突入する前年の1940年に政府が戦時統制体制として施行した、東京への管理中枢・情報機能の集中政策、いわゆる「40年体制」により、その発展に翳りが見え始めることになる。この「40年体制」は結局、戦後も事実上引き継がれ、本社機能を中心に東京への移転が進み、関西経済地盤沈下の大きな要因となったことは言うまでもない。
 そして、こと大阪湾岸に関して言えば、戦後1964年に制定された工場等制限法、1972年に制定された工場再配置促進法、さらに1973年に制定された工場立地法のいわゆる「工場三法」により、近畿圏への工場新設が甚だ困難になったほか、既存の工場施設まで法律の各種制限に伴う操業維持困難から、他地域へ移転する結果を招く結果となった。例えば、中部圏を開発整備するための法律「中部圏開発整備法」が1966年に制定され、製造業の近畿圏から中部圏(特に東海圏)への移転が多数発生したことが典型的なその事例である。高度経済成長期に大阪府堺市を中心に石油化学コンビナートの形成なども見られたが、元々、関西地域が強みを誇っていた繊維産業、電気機器産業などの発展が大きく阻害され、今となって見れば「工場三法」が如何に大きなマイナス要因となったかは明らかである。
 まとめれば「40年体制」の継続により、本社機能や金融・情報サービス部門が東京に流出し、「工場三法」によって、製造産業が主に東海圏に流出した関西圏は頭脳、手足とももぎ取られた、前に進むことの出来ない「生き物」となってしまったわけである。
 しかし2002年7月、製造業進出の最大の足枷となっていた工場等制限法が撤廃。さらに他地域への流出要因となっていた工場再配置促進法が2006年に撤廃され、「工場三法」のうち、二法の呪縛からようやく関西圏は解き放たれることになった。製造業自体が海外に流出・移転してしまった今頃になって「時、既に遅し」、という皮肉な見方もあったが、タイミング良く、撤廃された頃辺りから、世界は次世代エネルギー産業構築の必要に迫られるようになっていた。また薄型テレビや携帯電話に代表される液晶・プラズマ生産ニーズも増加していた。そこで元々、有力な電気機器メーカーの地盤であり、戦後、ハイテク産業が人知れず発展を始めていた関西圏、とりわけ大阪湾岸が注目を浴びるようになったのである。
 ここから、自治体と民間がタイアップした「パネルベイ」開発が始まるのである。

「パネルベイ」の今を担う液晶・プラズマパネルメーカー

 前述した「工場三法」のうち、二法が撤廃された2006年頃から、景気回復感の後押しも受けて、大阪湾岸「パネルベイ」計画は実行段階に入ったわけであるが、当面「パネルベイ」を支えていく製品は液晶・プラズマディスプレイパネルであり、そのメーカーになるのは間違いない。

シャープ亀山工場 そのメーカーの筆頭格はシャープ<6753>であろう。同社は従来から、三重県亀山市の「シャープ亀山工場」にて「亀山モデル」と言われる世界最高水準の液晶製品を国内外の市場に提供してきた。しかし中・長期的な次世代型液晶ニーズの増加と、製造過程において共通部品を使用する太陽電池の効率的な生産体制構築を視野に入れ、亀山工場の約4倍の敷地(最大約120ヘクタール)に世界最大規模の液晶パネル工場を、堺市堺区の臨海部(いわゆる大阪湾岸の一部)に建設を進めており(投資規模は約3,800億円)、2009年度末に稼動開始を予定している。「シャープ堺コンビナート」と銘打ち、最終的には月産7万2千枚の液晶パネルを生産し、出荷額1兆円という、壮大なスケールを誇る製造拠点となることが見込まれている。
 また「シャープ堺コンビナート」の設置に伴い、第10世代液晶テレビ向けカラーフィルタを供給するため、大日本印刷<7912>凸版印刷<7911>が同エリア内に製造工場を建設中で、何れも2009年度中に稼動開始を予定しているほか、米ガラス大手コーニング社も進出を決め工場建設を急ぐなど、シャープ堺工場操業開始と連動して多くの関連企業の進出が予定されている。
 一方、関西電気機器メーカーの雄であるパナソニック<6752>は、連結子会社のパナソニックプラズマディスプレイ(本社:大阪府茨木市)が兵庫県尼崎市の湾岸エリアにおいて建設を進めている、プラズマディプレイパネル製造の第5工場(投資額は約2,800億円)の操業開始を今年5月に予定しており、既に操業を開始している同エリアの第3、第4工場と合わせて世界最大の生産規模体制を確立する。「液晶」の雄であるシャープに対して同社は「プラズマ」の雄であり、ライバル心を露にしている。
 また2008年3月より、同じくパナソニックの連結子会社となったIPSアルファテクノロジ(本社:千葉県茂原市)は兵庫県姫路市の湾岸エリア(元々、シャープの液晶新工場候補地の1つでもあった)にTV用液晶パネル新工場を建設し、2010年1月に操業開始を予定している。新工場は第8世代のガラス基板を使ったパネルの生産を行ない、2013年度までに32型換算で1,500万台/年の生産能力を持たせる予定である。
 その他、旭硝子<5201>は大阪市住之江区の湾岸エリアにプラズマディスプレイ用ガラス基板加工工場の建設を進めており、「パネルベイ」に展開されるフラットパネルメーカーとの取引拡大が期待されるなど、関連企業の進出・集積が進む。

「パネルベイ」の将来を担う太陽電池メーカー

 短期的には今年から2010年にかけて操業開始を予定しており、緊急的なニーズの高い液晶・プラズマディスプレイパネルが大阪湾岸「パネルベイ」を支える形になると思われるが、中・長期的な視点で捉えた場合、地球温暖化防止などに伴う次世代環境エネルギーの開発・生産ニーズが世界規模で高まっていくことが予想され、この環境エネルギー分野での成功が、大阪湾岸「パネルベイ」の成否にかかっていると言っても過言ではない。当然のことながら国際競争は避けられず、関西圏のみならず、日本国として乗り遅れるわけにはいかない分野であることから、ほぼ同時に太陽電池・リチウムイオン電池生産設備の建設が進められている。

シャープが大阪・堺に建設中の「21世紀型コンビナート」 シャープ<6753>は前述、世界規模の液晶パネル工場「シャープ堺コンビナート」内に、製造過程で液晶と共通部品を使用する太陽電池工場の設置も進めており、完成すれば世界全体の生産量の約半分に相当する1,000メガワットの生産能力を有する工場となる。これは日本国内の一般家庭25万軒分(一軒当たりの太陽光発電4キロワットとして算出)に相当し、コスト面でも大幅な圧縮が可能となる。また関西電力<9503>はコンビナート各施設の屋上に、太陽光発電所設置を進めている。同エリアには既に宇部興産<4208>旭硝子<5201>など、太陽電池の生産に必要な素材等を供給する工場が立地しており、これら工場・設備群と合わせて世界最大規模の太陽電池、太陽光発電システムが実現することになる。近い将来、日本の一般電力料金並にコストを下げることを可能にする技術はこのエリアから生まれるかもしれない。
 一方、その太陽電池分野の日本での草分け的存在と言える三洋電機<6764>は、設置面積当たりの発電量世界第1位を誇る、独自のHIT太陽電池主力製造工場である二色の浜工場(大阪府貝塚市)敷地内に、新たに新棟を今年2月17日に着工、2010年末稼動を目指している。「住宅用太陽光発電システム補助制度」の復活で国内需要の増加が見込まれるほか、太陽光発電に積極的な欧米市場を睨み、先行投資に踏み切る。また薄膜太陽電池についても今年1月23日に設立した、新日本石油<5001>との対等出資による合弁会社「三洋ENEOSソーラー株式会社」にて事業展開を進め、シャープと対抗する。
 なお、太陽電池を生産する際に用いられるシリコンのうち、生産コストが低廉で、エネルギー効率の優れた多結晶型シリコンの主力メーカーである大阪チタニウムテクノロジーズ<5726>は、大阪府岸和田市の湾岸エリアに約450億円投資して、その製造工場を建設中であり、今年4月稼動開始を予定している。新工場は年産2,200トンを予定しており、「パネルベイ」に展開・進出する太陽電池メーカーの取り込みを強化する。

リチウムイオン電池も「パネルベイ」のもう一つの主役

 エネルギー密度が高く高い電圧を得られるうえ、メモリー効果が小さいことから、現在ノートパソコンや、携帯電話に使用されているリチウムイオン電池。その中でも特に、リチウムイオン二次電池の開発・生産拠点の展開が、この大阪湾岸「パネルベイ」に太陽電池と並んで進められており、もう一つの主役と言える存在となっている。

 リチウムイオン電池世界シェア首位の前述、三洋電機<6764>は100%子会社の三洋エナジートワイセル(本社:群馬県高崎市)が、約340億円を投資して大阪府貝塚市の湾岸沿いにリチウムイオン二次電池の製造工場建設を進めており、今年の春には稼動を開始する予定である。また同じく子会社の三洋エナジー南淡(本社:兵庫県南あわじ市)が、兵庫県南あわじ市の大阪湾に面する敷地に約200億円投資して、リチウムイオン二次電池の製造工場を建設しており、こちらも今年の春には稼動開始を予定している。
 一方、その三洋電機の子会社化を控えているパナソニック<6752>は、大阪市住之江区に建設するリチウムイオン電池新工場を、今年1月19日に着工した。新工場の敷地は約14万8000平方メートル、総投資額は約1000億円と大規模なもので、大阪府と大阪市がそれぞれ30億円の補助金を交付し、稼動開始予定の2010年4月には月産2500万個の生産を予定している。同社と三洋電機を合わせた世界シェアは40%に達し、来年には大阪湾岸「パネルベイ」が一躍世界拠点として躍り出ることは間違いない。

「パネルベイ」以外でも関西に展開する太陽電池

 大阪湾岸「パネルベイ」に集中投資が進む環境エネルギー分野ではあるが、「パネルベイ」以外の関西圏においても、実は設備投資が着々と進んでいる。

 京セラ<6971>は滋賀県野洲市に約400億円を投資して、太陽電池製造工場を今年2月着工、2010年春に稼動開始を予定している。また三菱電機<6503>は主力の京都工場(京都府長岡京市)の設備を増強し、2011年度までに現在の約3倍にあたる60万キロワットの太陽電池生産を見込んでいる。さらにカネカ<4118>も2010年夏稼動開始を目指して、100%子会社のカネカソーラーテック(本社:兵庫県豊岡市)が設置する同市の太陽電池製造工場の設備増強を進めている。同工場は世界最高水準と言われる変換効率12%の太陽電池を生産しており、「パネルベイ」に展開する各メーカーとのタイアップも期待される。


<最後に>
 このように、大阪湾岸「パネルベイ」を中心に、国内最大であるのは勿論のこと、世界有数規模で、液晶・プラズマや、次世代型環境エネルギー分野の事業投資が進んでいる。短期的に見れば、昨今の世界同時不況で進捗状況は若干の低迷は避けられないが、中・長期的に見れば、世界規模での需要拡大は必然的な流れであり、見方を変えれば、不況であるがゆえに低コストで開発が可能な今のうちに設備投資を進めていくことは正解とも言えよう。
 全体産業構造の中で、特定分野の比重が高まることに対する懸念の声も一部で聞かれるが、自動車とその関連産業以外に目立った本社機能のない東海圏と違い、元々関西圏は製造業だけでなく、卸売・小売・サービスと幅広い産業が生まれ育ったエリアであり、今でも多くの本社が置かれている。そのため懸念されるほどの特定分野への集中は起きないであろう。むしろ、自動車産業の東海圏がそうであるように、世界規模での産業を抱えることは、今後の地球規模での競争を打ち勝つためには必須であり、この「パネルベイ」をはじめとしたハイテク産業集積の成否が、今後の関西圏が「勝ち組」に入る必須条件となるであろう。


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提供 日本インタビュ新聞 Media-IR 2009.03 |特集