【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領 「出口なし」戦争で原油狂騰 インフレと雇用後退のスタグフレーションに突入

■原油価格1バレル100ドル突破は目前に迫る

 米国、イスラエルがイランに空爆を開始したのは2月28日。米国、イスラエルがイラン全土3000カ所以上を空爆というのだから、やり口が無茶苦茶というしかない。(3月8日、テヘランに黒い雨。石油施設への攻撃で油混じりの雨、“ヒロシマの黒い雨”を想起させられる。)

 トランプ大統領は戦況を「10点満点で15点。これからも上手くやる」(3月4日)。「無条件降伏しかイランとは取引しない」(3月6日)。

 しかし、「戦略」ではそう簡単ではない。3月6日にWTI原油先物価は1バレル92ドル台を記録している。空爆による開戦以前に原油価格は動き出していたが60ドル台中~低位の価格だった。1週間で40%に迫る大幅上昇となっている。

 日を追って高騰というか、データを確認するたびに価格がハネ騰がっている。1バレル100ドル突破は目前、あるいは150ドルという超高値接近も近いとみなければならない。

 ホルムズ海峡が事実上封鎖されている。多数のタンカーが洋上に留まって身動きがつかない。産油国の貯蔵施設はすでに余地がなく、減産に追い込まれている。

 近代資本主義の大量生産=大量消費は、大量物流が機能しなければ成立しない。イランの「非対称戦」は、ヒトもおカネも徹底して省いて結果を出している。

■「10点満点の15点」が「100点満点の15点」に暗転

 トランプ大統領をイランとの戦争に踏み切らせたものは何だったのか。大騒ぎになっていたエプスタイン文書問題を掻き消すためか。しかし、戦争で一時的には掻き消すことができても束の間でしかない。

 中東の大国であるイランに戦端を開いて政権交代(レジームチェンジ)を迫り、歴史に名を残す大統領になる――。トランプ大統領は、イラン国民に「自ら権力を掌握せよ」と政権に対する蜂起を呼び掛けている。しかし、イラン国民は政権に根強い不満があるとしても、政権交代はそう簡単ではない。

 トランプ大統領の蜂起呼びかけはあまりにも空想的、イラン国民からしたら何よりも身勝手に映ることになる。

 結局のところ、トランプ大統領の守るべき”本丸“は11月の中間選挙でしかない。イランとの戦争が長期化すれば、「10点満点で15点」どころか、「100点満点で15点」に暗転しかねない。

 原油価格が現状の1バレル90ドル台から100ドル、あるいは150ドルと高騰が続けばインフレは凄まじいものになる。いまは掻き消されている「アフォーダビリティ(経済的にゆとりがある)」に米国民の関心が回帰する――。原油価格高騰は「アフォーダビリティ」=家計にパニック、そして怒りをもたらすのは必至である。

■2月非農業部門雇用者数はマイナス9万2000人に急悪化

 折も折というか2月雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比マイナス9万2000人と発表されている。事前予想は5万5000人~6万人増と楽観的なものだったが、何とも大幅減少である。失業率は4.4%(前月4.3%)と悪化している。

 トランプ大統領が就任してから雇用は一貫して低調だ。大幅減税延長の財源確保のために政府職員を大量削減している。25年には民主党寄りの政府職員を中心に31万7000人の政府職員をクビにしている。政府職員240万人のうち13.2%をクビにしたとみられる。

 2月非農業部門雇用者数のマイナス9万2000人は、政府職員削減も影響しているがヘルスケア部門のストライキが関係している。看護師は慢性的に人手不足で雇用の下支え要因だったが、賃金・待遇改善交渉などでストライキが頻発している。

■スタグフレーションの“悪夢”のなかで中間選挙を迎える

 ストライキによるレイオフ(一時解雇)が失業に認定された面がある。だが、それを差し引いても雇用者数のマイナスは衝撃を与えている。看護師以外の職種でもレイオフなどが開始されている。景気後退(リセッション)とにわかに断定はしないが、雇用が異様に冷え込んでいるのは間違いない。

 普通なら利下げに進む局面である。トランプ大統領としたら「大幅利下げをしろ」と声高に要求している状況にほかならない。しかし、そのトランプ大統領も沈黙している。

 原油価格が1バレル100ドル突破、あるいは150ドルという状況ではそれもできない。インフレ昂進、トランプ大統領にとっての不都合な事実が進行している。インフレ昂進を重視すれば、真逆の利上げ断行が必要ということになりかねない。

 結局のところ、インフレと雇用失速(景気後退リスク)が同時進行するスタグフレーションに突入している。イランとの戦争が長引けば、トランプ大統領の米国はスタグフレーションの“悪夢”のなかで11月中間選挙を迎えることになる。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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