【小倉正男の経済コラム】危機管理の順位「社長を守るのか、企業を守るのか」

■日本企業の原始的な「危機管理」

 日本企業の原始的といえる「危機管理」なのだが、「社長は知らなかったことにしておく」というやり方が一般的に採られるケースが少なくない。

 ある社長に、「自分は知らなかったということにしていた」と言われたことがある。愕然というか、それは企業にとって最悪のやり方になる可能性がある。仮にそれがバレたら会社ぐるみということになりかねない。極論すると社長などどうなってもよいのだが、場合によっては会社が立ち直れなくなるリスクを抱える。

 「社長を守るのか、企業を守るのか」。クライシスマネジメントでは、企業のサバイバル(生き残り)が最優先される。となれば、一般的には「社長は知らなかったことにしておく」という原始的な危機管理のやり方は、企業の生き残りにとってはリスクを極大化しかねない。

 当初の事件よりも、「知らなかったことにしておく」というやり方のほうが事件になることもありうるからだ。守るべきは「社長か、会社か」。サバイバルの順位が案外重要だ。

■国連人権理事会が被害者に聞き取り調査

 「知らなかったでは決してすまされない話だとは思っておりますが、知りませんでした」(藤島ジュリー景子・ジャニーズ事務所社長)。ジャニーズ事務所は、『故ジャニー喜多川による性加害問題について当社の見解と対応』(5月14日)で藤島社長が「知らなかった」ことを強調している。

 しかし、事件はジャニーズ事務所が指名した「再発防止特別チーム」の調査どころか、国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会が性加害を受けた当事者たちに聞き取りを行うところまで拡大している。藤島社長が「知っていた」「知らなかった」などはほとんど些末な事柄になっている。むしろ長年にわたるジャニーズ事務所の性加害問題そのものが国連人権理事会で裁定される動きになっている。

 不祥事を起こした企業が任命し報酬も払う「再発防止特別チーム」よりも、国連人権理事会のほうが第三者として独立性が格段に高い。企業側の弁明などを聞いてくれるわけではなく、被害者の聞き取り調査を最優先するのは間違いない。「知らなかった」という話についても「再発防止特別チーム」は聞いてくれても、国連人権理事会には全く通用しない。

■統治システムが「社長を守る」に偏重

 あくまで一般論に話を戻すが、企業はどうしてこうした原始的な「危機管理」、すなわち社長は「知らなかった」といったやり方を採るのか。これも日本企業の統治システムに問題があるように思われる。

 日本企業は、現社長を次期社長候補たちが支え、現社長が次期社長を指名する統治システムである。次期社長候補たちは、現社長をひたすら守ることが仕事になる。そうでないと次期社長に指名されない。

 「企業を守る」=企業をサバイバルさせるより、「社長を守る」=社長のサバイバルにひたすら専念する。社長を過剰に守るということを共有化するあまりに、大前提である「企業を守る」というガバナンスが欠落することになる。企業の統治システムが「社長を守る」に偏重している。

 ジャニーズ事務所の創業者・前社長による性加害犯罪は、BBCの報道で明らかにされ、最終的には国連人権理事会によって裁定される。問題にされているのは人権侵害であり、日本企業のガバナンスも根底から裁かれる。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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