【小倉正男の経済コラム】トランプ次期大統領の岐路:自由貿易主義か?自国優先の保護主義か?

乱世の梟雄か、まっとうな人物か

 アメリカの次期大統領であるドナルド・トランプ氏は世界にどう対応するのか。世界はトランプ氏にどう対応するのか――。
 乱世の梟雄なのか、あるいは案外まっとうな人物なのか。まだ見えない。

 安倍晋三首相とトランプ氏の会談で、トランプ氏が何を語るか。注目はそこに集まったが、それは秘密にされた。

 ただし、唯一手がかりになりそうなのが、会談後の安倍総理の談話である。日米同盟について、安倍首相はこう答えている。

 「同盟は信頼がなければ機能しない。ともに信頼関係を築いていくことができる。そう確信が持てる会談だった」

自由貿易主義か、自国優先の保護主義か

 結局、トランプ氏がまっとうな人物かそうではないかは、TPP(環太平洋経済連携協定)をどうするかで見えるのではないか。

 自由貿易主義を採るのか、自国優先の保護主義を採るのか――。トランプ氏が、このどちらを採るかで、世界経済は大きく変わる。

 トランプ氏の周辺からは、「TPPは死んだ」といった言葉が吐かれている。自国優先の保護主義では、全世界が保護主義に連鎖していくことになりかねない。
 お互いに関税を掛け合って貿易は縮小し、お互いの経済が縮小する。経済の疲弊は、ひいては戦争など悲惨なことに向かっていきかねない。

 基軸通貨のドルを持つアメリカが保護主義に向かっては、アメリカの国益に沿うのかという思いがある。
 「強いアメリカ」を目指して、自由貿易主義を掲げてこそ、アメリカを再び偉大な国に導くことになる。保護主義では、アメリカは偉大な国どころか、「弱いアメリカ」すなわちフツーの国に低落するのではないか。

保護主義では世界経済は収縮

 基軸通貨のドルがあるといっても、関税を掛け合えば、高いモノを買うことになりインフレ傾向になりかねない。
 自国のモノも、他国では関税を掛けられるので、売れなくなり賃金を上げられなくなる。モノの値段は上がるが、賃金は上がらない――。アメリカもそうだが、世界中がそうした経済に覆われる。

 トランプ氏は、そうしたアメリカを目指すのだろうか。そうではないのではないか。

 同盟のみならず、世界経済も相互の信頼関係がなければ機能しない。お互い関税を上げ、自国通貨を下げるといった保護主義では、世界経済は収縮して立ち行かなくなる。相互の信頼関係など吹き飛んでしまう。むしろ不信感が渦巻くに違いない。

 自由貿易主義でなければ、世界経済は拡大せず、ひいてはアメリカとしても繁栄できない。
トランプ氏の大統領としてのベクトルはまだ見えないが、保護主義ではアメリカを再び偉大な国にすることなどありえない。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシス・マネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■東京大学発スタートアップが開発、19自由度のヒューマノイドロボット  東京大学発スタートアップH…
  2. ■売却面積は約1.6倍に、総額1,785億円超の譲渡価額  東京商工リサーチは6月30日、2024…
  3. ■従来の検索では見つけられなかった本との出会いを創出  富士通<6702>(東証プライム)傘下の富…
2025年8月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

ピックアップ記事

  1. ■株主還元強化が市場の安心材料に  東京エレクトロン<8035>は8月1日、2025年3月期の業績…
  2. ■市場の霧が晴れ始めた、個別銘柄の好調が投資家を惹きつける  前週31日の植田和男日銀総裁の記者会…
  3. ■利上げか、現状維持か?日銀総裁の決断で明暗分かれる8月相場  日銀の金融政策を巡る不確実性が続く…
  4. ■選挙惨敗の石破首相に退陣要求、政局混迷の行方  まるで狂言の『乳切木』(ちぎりき)を観るようであ…
  5. ■九州地盤銘柄に割安感、福証単独上場企業にも注目集まる  東京エレクトロンやアドバンテストなどの半…
  6. ■参院選で与党過半数割れ、石破政権の行方不透明に  7月20日投開票の参議院議員選挙は、大手メディ…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る