テンポイノベーションは上値試す、24年3月期も収益拡大基調

テンポイノベーション<3484>(東証プライム)は、飲食業の小規模事業者を中心とする出店希望者向けに居抜き店舗を転貸借する店舗転貸借事業を主力としている。転貸借物件数の増加に伴って賃料収益を積み上げるストック型ビジネスであり、旺盛な個人・小規模飲食事業者の出店需要に対応して積極的な仕入を継続している。23年3月期は転貸借物件数と成約件数が順調に増加して大幅増収増益予想としている。会社予想に上振れ余地があり、さらに24年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は3月の上場来高値圏から一旦反落したが、利益確定売りが一巡して切り返しの動きを強めている。好業績や中期成長力を評価して上値を試す展開を期待したい。なお5月11日に23年3月期決算発表を予定している。

■飲食業の出店希望者向け居抜き店舗転貸借事業

首都圏一都三県(特に東京都)において、飲食業の小規模事業者を中心とする出店希望者向けに居抜き店舗(造作物が残っており、すぐに営業できる状態の物件)を転貸借する店舗転貸借事業を主力として、不動産業者とのリレーションシップ強化を主目的とする不動産売買事業、および独自の審査ノウハウを活用した店舗物件専門の家賃保証事業(22年4月に子会社の店舗セーフティーを設立して事業開始)も展開している。なお、クロップス<9428>の連結子会社だが、営業上の取引はなく経営上の独立性を確保している。

22年3月期のセグメント別構成比は、売上高が店舗転貸借事業92%、不動産売買事8%、営業利益が店舗転貸借事業80%、不動産売買事業20%だった。全社売上に占めるランニング収入(転貸借物件からの賃料収入、転貸借契約更新時の更新手数料収入など)の比率は85.9%だった。不動産売買事業は、不動産業者とのリレーションシップ強化も目的として、長期保有は行わず一定の資金枠内で資金効率を重視して売買を行う。22年3月期は5物件を売却、6物件を取得し、期末時点の保有物件数は3件となった。

■転貸借契約件数は増加基調

店舗転貸借事業は、仲介ではなくサブリースでもなく、不動産業における第6のカテゴリーと位置付けている。不動産オーナーにとっては賃貸料収入安定、不動産会社にとっては仲介収益機会獲得、店舗出店者にとっては出店費用削減、店舗撤退者にとっては閉店コスト削減というメリットがある。また飲食業は他の産業との比較で、開業・廃業による入れ替わりが激しいため市場機会が豊富という特徴もある。さらに造作物(厨房機器、テーブル、床コンクリート、排気ダクトなど)の廃棄量を削減できるという点で、持続可能な社会の実現に貢献するビジネススキームである。

保有物件数(転貸借物件数)の増加に伴って賃料収益(ランニング収入)を積み上げるストック型ビジネスモデルである。22年3月期の新規契約件数および後継付け件数(転貸借契約を解約後に次の転借人と転貸借契約を締結した物件)の転貸借契約件数の合計は21年3月期比29.6%増の407件となり、期末時点で転貸借契約が締結されている転貸借物件数は245件増加の1951件となった。コロナ禍で飲食業界が厳しい状況下でも、転貸借契約物件数は着実に増加している。

なお四半期別の成約件数の推移を見ると、コロナ禍前の20年3月期は概ね100件前後で推移(第1四半期101件、第2四半期100件、第3四半期91件、第4四半期105件)していた。21年3月期第1四半期にコロナ禍の影響で43件まで落ち込む場面があったが、その後は第2四半期81件、第3四半期92件、第4四半期98件、22年3月期第1四半期95件、第2四半期96件、第3四半期104件と順調に回復した。そして22年3月期第4四半期112件、23年3月期第1四半期107件、第2四半期117件となり、22年3月期第4四半期以降はコロナ禍前を上回る水準となっている。転貸借物件数の純増につながる新規契約が高水準な一方で、解約数は低水準で推移している。

■転貸借物件数29年3月期5500件目標

中長期的な経営目標として、25年3月期に営業部門100名体制を構築し、26年3月期に転貸借物件純増数600件/年、27年3月期に成約数1000件/年を目指すとしている。さらに29年3月期には、転貸借物件数5500件(首都圏1都3県の当事業対象店舗数推定約11万件に対するシェア5%相当)で、売上高300億円規模、営業利益30億円規模を目指すとしている。

成長に向けた基本方針は転貸借契約件数と賃料差益の最大化、テーマは専門特化・プロフェッショナル化としている。具体的には、22年3月期に40名だった営業人員を、年24名を目途にリーシング担当として採用し、その後、営業教育を経て高難度の仕入への異動(年4~6名)を含めて、25年3月期に営業100名体制(仕入30名、リーシング70名程度)を構築する。そして仕入エリア戦術の実行などにより、29年3月期に転貸借物件数5000件(22年3月期実績1951件)を目指す方針だ。

出店希望者の募集を行う自社サイト「居抜き店舗.com」については、SEO対策やサーバ強化によって集客力の強化を推進している。22年3月期は、サイト総訪問数が20年3月期比69.5%増加、問い合わせ件数が48.8%増加、新規会員登録数が75.6%増加、内見数が52.2%増加した。

なお3ヶ年の中期経営計画では、24年3月期売上高144億37百万円、営業利益12億57百万円、営業利益率8.7%、成約数510件、転貸借物件数2527件、25年3月期売上高164億17百万円、営業利益14億71百万円、営業利益率9.0%、成約数580件、転貸借物件数2879件の計画を掲げている。

CSR活動としては、飲食店舗を活用した「子ども食堂」を19年6月から開催している。店舗の特性を活かして、子供達への食事提供にとどまらず、地域における居場所づくり、親御さんへの支援といった社会的インフラになることを目指している。コロナ禍のため開催を一時的に中断していたが、順次再開している。なお「お店の子ども食堂/みせしょく」の取り組みが22年度のグッドデザイン賞を受賞した。

■プライム市場上場維持基準適合に向けた計画書

22年4月の東京証券取引所の市場再編ではプライム市場に移行し、プライム市場上場維持基準適合に向けた計画書を開示(21年12月15日付)している。28年3月期までに流通株式時価総額のプライム市場上場維持基準適合を図るため各種取組を推進する。

具体的には、継続的な業績向上の実現によって企業価値の向上(時価総額の上昇)を図るとともに、法定開示・適時開示にとどまらない積極的なIRによって市場に情報発信する。また必要に応じて、流通株式比率の向上に向けたテクニカルな取組も検討する。

継続的な業績向上の実現では、市場開拓余地が大きく競合優位性も高い店舗転貸借事業に専門特化し、転貸借契約件数の最大化(29年3月期5500件目標)を通じて、サブスクリプション(ストック)型収益である賃料差益の最大化を推進することで、継続的な業績向上(目途として前期比10%~20%程度の増収増益継続)の実現を図る方針だ。

23年3月には上場維持基準適合に向けた計画に基づく進捗状況を公表した。移行基準日(21年6月30日)時点で流通株式時価総額がプライム市場上場維持基準を充たしていなかったが、22年12月31日時点で新たに1日平均売買代金が上場維持基準を充たしていないことを確認した。このため1日平均売買代金に関して、23年12月31日までに上場維持基準を充たすための各種取組を進めるとしている。

なお、業績の向上やIR活動の強化など各種取組により、時価総額については21年11月30日時点の146億円から23年2月28日時点で222億円と大幅に上昇しており、21年12月15日付で開示した上場維持基準適合に向けた計画書に記載の計画期間(28年3月期)に変更はないとしている。

■23年3月期増収増益予想、24年3月期も収益拡大基調

23年3月期の連結業績予想(22年4月に子会社の店舗セーフティーを設立して連結決算に移行したため前期比増減率は非記載、23年2月2日付で上方修正)は、売上高が130億円、営業利益が11億85百万円、経常利益が12億35百万円、親会社株主帰属当期純利益が8億46百万円としている。配当予想(23年2月2日付で公表)は22年3月期比4円増配の16円(期末一括)としている。

22年3月期の非連結業績(売上高が114億15百万円、営業利益が9億09百万円、経常利益が9億86百万円、当期純利益が6億62百万円)との単純比較で見ると、売上高は13.9%増収、営業利益は30.3%増益、経常利益は25.2%増益、親会社株主帰属当期純利益は27.8%増益となる。実質的に大幅増収増益予想としている。

期初計画に対して売上高を3億45百万円、営業利益を1億26百万円、親会社株主帰属当期純利益を1億13百万円、それぞれ上方修正した。店舗転貸借事業が転貸借物件数の増加で順調に推移し、不動産売買事業が期初計画に対して上振れる見込みとしている。なお転貸借成約件数460件(22年3月期407件)および期末転貸借物件数は2222件(同1951件)の計画は据え置いた。

第3四半期累計は、売上高が98億74百万円、営業利益が10億22百万円、経常利益が10億66百万円、親会社株主帰属四半期純利益が7億30百万円だった。前年同期の非連結業績(売上高84億29百万円、営業利益6億41百万円、経常利益6億89百万円、四半期純利益4億67百万円)との単純比較で見ると、売上高は17.1%増収、営業利益は59.5%増益、経常利益は54.7%増益、親会社株主帰属四半期純利益は56.2%増益だった。

実質大幅増収増益だった。店舗転貸借事業において積極的な仕入を実施し、転貸借物件数と成約件数が順調に増加した。子会社の保証事業や不動産売買事業の高収益物件も寄与した。なお売上総利益率は2.1ポイント上昇して19.7%、販管費比率は0.6ポイント低下して9.4%となった。

店舗転貸借事業(店舗家賃保証事業含む)は、売上高が90億02百万円(前年同期の76億45百万円との単純比較で17.8%増収)で、セグメント利益(営業利益)が7億57百万円(同5億35百万円との単純比較で41.4%増益)だった。ウィズコロナにおいても旺盛な個人・小規模飲食事業者の出店需要に対応して積極的な仕入を実施した。重点施策として、営業力増強に向けた採用・教育や、転貸借物件数増加に対応するための物件管理の質的・量的強化を推進した。

転貸借成約件数(新規契約件数および後継付け件数の合計)は355件(前年同期は295件)となり、期末の転貸借物件数は2152件(同1888件)と順調に増加した。四半期別の成約件数は第1四半期が107件、第2四半期が117件、第3四半期が131件と増加基調である。成約件数のうち、転貸借物件数の純増につながる新規契約は月20件以上で推移し、後継付けは月10~20件で推移している。一方、解約件数は4月~12月累計13件であり、解約率は低水準で推移している。

不動産売買事業は売上高が8億72百万円、セグメント利益が2億65百万円(前年同期は売上高が7億84百万円、セグメント利益が1億06百万円)だった。5物件を売却、5物件を取得(前年同期は4物件を売却、5物件を取得)し、期末時点の保有物件数は3件(同3件)となった。高収益物件が寄与して大幅増益だった。

なお四半期別に見ると、第1四半期は売上高が30億04百万円(ランニング収入27億13百万円、イニシャル収入2億90百万円)で営業利益が2億86百万円、第2四半期は売上高が30億99百万円(ランニング収入27億93百万円、イニシャル収入3億05百万円)で営業利益が2億68百万円、第3四半期は売上高が37億71百万円(ランニング収入28億69百万円、イニシャル収入9億円)で営業利益が4億68百万円だった。第3四半期は特に不動産売買事業のイニシャル収入が寄与したが、店舗転貸借事業のランニング収入も順調に伸長している。

修正後の通期予想に対する第3四半期累計の進捗率は売上高が76.0%、営業利益が86.3%、経常利益が86.3%、親会社株主帰属当期純利益86.3%だった。第3四半期累計の好調を勘案すれは23年3月期会社予想に上振れ余地があり、さらに24年3月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。

■株主優待制度は毎年3月末、23年3月末から優待内容拡充

株主優待制度については毎年3月31日時点の株主を対象として実施している。そして23年3月末対象から保有株式数に応じた株主優待内容拡充(詳細は会社HP参照)を実施した。

変更後は、毎年3月31日時点で300株以上500株未満を保有し、且つ100株以上保有を1年以上継続している株主に対してジェフグルメカード5000円分、毎年3月31日時点で500株以上を保有し、且つ100株以上保有を1年以上継続している株主に対してジェフグルメカード7000円分を贈呈する。

■株価は上値試す

株価は3月の上場来高値圏から一旦反落したが、利益確定売りが一巡して切り返しの動きを強めている。週足チャートで見ると26週移動平均線がサポートラインの形だ。好業績や中期成長力を評価して上値を試す展開を期待したい。5月1日の終値は1211円、前期推定連結PER(会社予想の連結EPS47円91銭で算出)は約25倍、前期推定配当利回り(会社予想の16円で算出)は約1.3%、前々期実績PBR(前々期非連結実績のBPS188円29銭で算出)は約6.4倍、そして時価総額は約214億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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