【アナリスト水田雅展の銘柄分析】きちりはEATALY事業も好感して年初来高値

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 きちり<3082>(東1)は自社ブランドの飲食店チェーン事業と飲食店運営プラットフォーム事業を展開している。株価は15日に発表したイタリア食材の複合型施設「EATALY」事業も好感して年初来高値を更新した。中期成長力を評価して続伸展開だろう。

 カジュアルダイニング「KICHIRI」や「いしがまやハンバーグ」を主力業態とする直営店の自社ブランド展開事業、および飲食店運営のプラットフォーム提供や他業種企業のブランド・コンテンツ活用のプラットフォームシェアリング(PFS)事業を展開している。

 14年6月期末時点の店舗数は70店舗(関西エリア42店舗、関東エリア28店舗)で、新業態開発にも取り組みながら出店余地の大きい首都圏への新規出店戦略を強化している。

 PFS事業は、ITやクラウドを駆使して構築した外食特化型インフラ(購買・物流などのバックヤード機能、会計・労務管理・教育・デザインなどのバックオフィス機能、取引先紹介などのバックアップ機能といった本部機能)を活用する事業だ。

 PFS事業を大別すると、ブランド・コンテンツ活用型(優れたブランド・コンテンツを持つ企業と業務提携し、当社のプラットフォームを活用して新しいレストランビジネスを創造する)、およびクラウドサービス展開型(当社が構築した外食特化型インフラを他の飲食店チェーンなどに提供してアウトソーシング受託する)を展開している。

 ブランド・コンテンツ活用型では独自性ある新業態が開発できる、クラウドサービス展開型では参画企業・店舗数の増加に伴ってスケールメリットが得られるという強みがある。ブランド・コンテンツ活用型では13年2月精米機トップメーカーで「ギャバライス」ブランドのサタケ、13年4月イタリアのバッグブランド「オロビアンコ」、13年5月福岡県「はかた地どり」生産者の農業組合法人福栄組合と業務提携した。

 15年1月にはPFS事業の一環として、健康長寿県として注目されている長野県との間で、食を通じた健康長寿発信の推進に関して戦略的連携協定を締結した。長野県の食材の魅力と健康長寿のライフスタイルと食文化を広く発信することを目的に、協業の第一弾としてJR長野駅に直結した駅ビル「MIDORI長野」内で「長野県長寿食堂」を3月にオープンした。

 15年4月には米国子会社KICHIRI USAを設立した。日本から発信する「和食」および当社独自の「おもてなし」を強みとした日本食業態を米国で展開する。

 6月15日には当社、三井物産<8031>、イタリアの小売・外食事業大手EATALY(イータリー社)の3社共同で設立(15年3月、出資比率は三井物産63.5%、きちり34.0%、イータリー社2.5%)したイータリー・アジア・パシフィックにおいて、日本およびアジア太平洋地域でのイタリア食材の小売・外食・輸入卸売事業(EATALY事業)をスタートすると発表した。

 イータリー・アジア・パシフィックをフランチャイジーとするフランチャイズ契約を締結し、日本における「EATALY」商標の独占的使用権を保有する。そしてイータリー社の日本法人が運営していた日本国内の直営店のうち2店舗を譲り受け、さらに20年東京夏季五輪に向けて330平方メートル程度の中規模店と、1000平方メートル程度の旗艦店を東京都心に順次出店する計画だ。

 今期(15年6月期)の非連結業績予想(8月8日公表)は、売上高が前期比8.5%増の75億円、営業利益が同45.7%増の7億円、経常利益が同35.8%増の7億円、そして純利益が同41.9%増の4億20百万円としている。配当予想については、前期から記念配当2円50銭を落として年間7円50銭(期末一括)としている。予想配当性向は18.1%となる。

 既存店売上高は98.5%、新規出店は10店舗の計画だ。出店戦略において優先的に出店したい立地の物件が確保できる状況のため、前期の新規出店4店舗に比べて大量出店となる。PFS事業ではブランド・コンテンツ活用型で新規3案件を計画し、クラウドサービス展開型の提供店舗数は自社ブランド店舗を含めて前期末の約200店舗から今期末には約300店舗に増加する見込みだ。

 第3四半期累計(7月~3月)は前年同期比4.9%増収、同0.8%営業増益、同8.6%経常減益、同8.9%最終減益だった。営業外収益での協賛金収入が減少して経常減益、最終減益だったが、新規出店も寄与して増収となり、営業利益も増益を確保した。新規出店は東京都内2店舗、千葉県1店舗の合計3店舗で、PFS事業の一環として長野県との戦略的提携による「長野県長寿食堂」も出店した。

 四半期別の推移を見ると、売上高は第1四半期(7月~9月)17億03百万円、第2四半期(10月~12月)18億85百万円、第3四半期(1月~3月)18億13百万円、営業利益は第1四半期1億04百万円、第2四半期1億87百万円、第3四半期75百万円だった。

 通期見通しに対する第3四半期累計の進捗率は売上高が72.0%、営業利益が52.3%、経常利益が50.9%、純利益が50.2%だった。やや低水準の形だが、ブランド認知度向上効果などで既存店売上が堅調であり、期中の新規出店も寄与して第4四半期(4月~6月)の挽回が期待される。

 なお月次レポート(前年同月比、速報値)を見ると、15年5月の売上高は既存店(対象69店舗)が96.4%、全店(対象77店舗)が114.4%だった。

 中長期ビジョンでは、自社ブランド展開事業およびPFS事業を2本柱として展開し、目標値として18年6月期売上高100億円、営業利益15億円、経常利益16億円、純利益10億円、配当性向30%(当面は20%)を掲げている。事業別には自社ブランド展開事業が100店舗で売上高94億円、PFS事業が契約店舗数500店舗(契約売上規模300億円)で営業利益6億円を目標としている。

 自社ブランド展開事業の新規出店加速に加えて、PFS事業でのブランド・コンテンツ活用型の新規案件の展開が加速し、クラウドサービス展開型の提供店舗数も拡大する。米国での本格事業展開も寄与して中期的に収益拡大基調が期待される。

 株主優待制度については毎年12月31日現在で1単元(100株)以上保有株主を対象として実施している。優待内容は14年12月31日現在の対象株主から「当社運営店舗で利用できる優待券3000円分、または近隣に店舗がない等の理由で優待券を利用しない方は当社事業における関連商品を選択できる」とした。

 株価の動きを見ると、6月9日の直近安値690円から切り返し、4月高値761円を突破して16日の年初来高値765円まで上伸した。15日発表のEATALY事業も好感した動きだ。

 6月17日の終値747円を指標面で見ると、今期予想PER(会社予想のEPS41円44銭で算出)は18倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間7円50銭で算出)は1.0%近辺、前期実績PBR(前期実績のBPS157円27銭で算出)は4.7倍近辺である。

 週足チャートで見ると13週移動平均線と26週移動平均線を一気に突破した。そして700円近辺でのモミ合い展開から上放れる動きだ。PFS事業の展開加速や中期成長力を評価して続伸展開だろう。14年11月以来の800円台が視野に入る。

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■グローバルモデルに匹敵する日本語対応の高性能生成AIを4月から順次提供  ELYZAとKDDI<…
  2. ■優勝への軌跡と名将の言葉  学研ホールディングス<9470>(東証プライム)は3月14日、阪神タ…
  3. ■新たな映画プロジェクトを発表  任天堂は3月10日、イルミネーション(本社:米国カリフォルニア州…
2024年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

ピックアップ記事

  1. ■藤田観光など上方修正済み銘柄が狙い目、決算発表前に高値予約しておくのも有効  大型連休の好調な需…
  2. ■GW市場動向と投資家心理  『目出度さも 中くらいなり おらが春』と詠んだのは小林一茶である。季…
  3. ■金先物と原油価格、史上最高値に迫る―地政学リスクが市場に与える影響  今週のコラムは、異例中の異…
  4. ■「虎」と「狼」の挟撃を振り切り地政学リスク関連株で「ピンチはチャンス」に再度トライ  東京市場は…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る