【小倉正男の経済コラム】FRB議長にウォーシュ氏指名 ウォーシュ氏は「隠れハト」(金融緩和派)という見方強まる

■「タカ派」イメージのウォーシュ氏を次期FRB議長に指名

 トランプ大統領は、連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長の後任人事として元FRB理事(2006~2011年)のケビン・ウォーシュ氏を指名している。

 ウォーシュ氏は最年少の35歳でFRB理事に就任した経歴を持っている。リーマン・ショック後の世界金融危機時(2008年)に量的金融緩和政策(QE)継続はインフレ・リスクが伴うと指摘している。

 金融危機に対応したFRBの国債、証券購入継続は、市場に大量の資金を供給しインフレを惹起すると懸念を表明したわけである。

 そうしたことからウォーシュ氏は、一般に「タカ派」とみられていた。つまり、インフレ重視で金融引き締め派に分類されていたわけである。ウォーシュ氏が、トランプ大統領とホワイトハウスで対面したというニュースが流れただけで株式市場は動揺する――。そのぐらい「タカ派」のイメージを持たれていた。

■ウォーシュ氏指名でマーケットは動揺

 1月30日、トランプ大統領が次期FRB議長にウォーシュ氏を指名すると、NY株式市場は案の定暴落となった。株式市場は、ウォーシュ氏指名は願望している金融緩和(利下げ)が遠のいたという反応を示している。

 しかし、トランプ大統領のグリーンランド領有問題などから、欧州などの“米国離れ“で売られていたドルは買い直された。ウォーシュ氏の次期議長への指名は、FRBは大幅な金融緩和を要求するトランプ政権に対して「中立性」「独立性」を保持できる人事と認識されたためである。

 一方、グリーンランド問題などトランプ大統領の地政学リスクで過去最高値にあった金・銀は歴史的な下落を演じている。米国債など債券は大きな騒ぎにはならなかったが、売られて利回りが上昇している。

 これだけ株式、ドル、金・銀、国債とマーケットを動かしているのだから、FRB議長という職責は大変重いという証明にほかならない。しかし、マーケットも瞬発力で動くため、(あるいはほかならぬ人間が仕切っているわけで)誤解と錯覚にとらわれることがないとはいえない。

■ウォーシュ氏はハト(金融緩和派)という見方

 ウォーシュ氏については、「タカの仮面をかぶったハト(金融緩和派)」(推し派)という評価が出ている。「AIによる労働生産性の向上で利下げはできる」というハト派に変わっているという見方である。

 ウォーシュ氏にネガティブな側からは「政治的動物」(ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマン教授)、いわば“日和見的”な人物という批評が出されている。つまり、「隠れハト派」とみられている。

 推し派もアンチ派も奇妙なことだが結論は同じ、ウォーシュ氏は金融緩和(利下げ)に動くとみている。確かに、そうでなければトランプ大統領はウォーシュ氏を指名しないに違いない。

■トランプ大統領は「利下げしなければ訴える」と上機嫌

 トランプ大統領は、「米国の金利は世界一低いものにするべきだ」というのが持論だ。根拠としては「関税収入が入ってくるからだ」としている。

 トランプ大統領は、ウォーシュ氏について「約束など取り付けていないが利下げしなければ訴える」と上機嫌で周囲を笑わせている。

 この件では、ベッセント財務長官が上院銀行委員会で「ウォーシュ氏はトランプ大統領が望む利下げを行わなかった場合、訴訟や司法省の捜査を受けないと約束できるか」と問われている。

 ベッセント財務長官は、単なる冗談と一蹴すればよいわけだが「それは大統領次第」と答えている。冗談半分、本気半分、つまり笑えない冗談というところか。

 ウォーシュ氏は、物価(インフレ)・雇用・賃金といった経済動向だけではなく、トランプ大統領の機嫌を“アジェンダ”として取り扱わなければならない。FRBの政治権力への「中立性」「独立性」は簡単に失われることはないとしても、いまのパウエル議長のような気概は求められない模様である。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■「ちきゅう」を投入、令和8年1月から2月にかけて実証  内閣府戦略的イノベーション創造プログラム…
  2. ■人工知能基本計画が始動、利活用から開発への循環促進、世界最先端のAI国家を標榜  政府は12月2…
  3. ■222社分析で売上2兆円台復帰、利益は1,435億580万円へ倍増  東京商工リサーチ(TSR)…
2026年2月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
232425262728  

ピックアップ記事

  1. ■総選挙後に本番、米・卵関連株など食料品銘柄に再評価期待  消費税減税をめぐる関連株の動向が、過去…
  2. ■円安・円高が日替わり、内外市場で一波乱二波乱の可能性  内外のマーケットが激動含みである。これが…
  3. ■地方銀行:収益改善、昨年11月の業績上方修正が寄与  昨年来高値更新銘柄の1割超を占める銀行株は…
  4. ■超短期決戦の総選挙で市場動向が政治判断に影響  いよいよ衆議院議員選挙だ。みょう27日に公示され…
  5. ■AI以外に目を向けよ、割安株に潜む上昇機会  1980年代のバブル相場では、産業構造改革で「軽薄…
  6. ■利上げと解散総選挙、日本経済の分岐点迫る  今週は、運命の1月22日、23日が控えている。1月2…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る