【アナリスト水田雅展の銘柄分析】テラは樹状細胞ワクチンの薬事承認取得に向けて開発費先行だが売られ過ぎ感

銘柄分析

 テラ<2191>(JQS)は、がん治療の樹状細胞ワクチン「バクセル」の薬事承認を目指すベンチャー企業である。株価は15年12月期業績予想の減額修正も嫌気されて、8月17日に年初来安値997円まで調整する場面があった。ただし14年5月安値978円に接近して調整の最終局面のようだ。売られ過ぎ感を強めて反発のタイミングだろう。

■独自開発のがん治療技術を医療機関に提供

 東京大学医科学研究所発のバイオベンチャーで、細胞医療事業(樹状細胞ワクチン「バクセル」を中心とした独自開発のがん治療技術を契約医療機関に提供)を主力として、医療支援事業(研究機関・医療機関から受託する細胞加工施設の運営・保守管理サービス、細胞培養関連機器の販売、治験支援サービスなど)、および医薬品事業(樹状細胞ワクチン「バクセル」の薬事承認取得に向けた開発活動)を展開している。

 樹状細胞ワクチン「バクセル」は、最新のがん免疫療法として注目されている。樹状細胞(体内に侵入した異物を攻撃する役割を持つリンパ球に対して、攻撃指令を与える司令塔のような細胞)を体外で大量に培養し、患者のがん組織や人工的に作製したがんの目印である物質(がん抗原)の特徴を認識させて体内に戻すことで、樹状細胞からリンパ球にがんの特徴を伝達し、そのリンパ球にがん細胞のみを狙って攻撃させる。独自技術で改良を重ね、がん治療用として最適化した。

 主力の細胞医療事業は契約医療機関における症例数に応じた収入が収益柱である。15年6月末時点の契約医療機関数は全国37カ所、契約医療機関における会社設立以降の累計症例数は約9500症例となった。

■M&A・アライアンス戦略を推進

 中期成長に向けてM&A・アライアンス戦略も積極推進している。13年4月iPS細胞による再生医療実用化を目指すヘリオス<4593、15年6月新規上場>に出資、13年5月がん新薬を中心としたCRO(治験支援)事業に参入するため子会社タイタンを設立、13年7月アンジェスMG<4563>と子宮頸がんの前がん病変治療ワクチンの共同研究・開発基本契約を締結、13年12月iPS細胞を利用したがん免疫細胞療法の開発に向けてヘリオスと業務提携した。

 14年1月樹状細胞ワクチン「バクセル」の薬事承認取得を目指して子会社テラファーマを設立、14年2月ゲノム診断支援事業に向けてゲノム解析ソフトウェア開発のジナリスと合弁子会社ジェノサイファー(14年9月オールジーンに商号変更)を設立、14年4月組織培養用培地のパイオニアであるコージンバイオに出資して資本業務提携、14年8月少額短期保険業者のミニンシュラーを子会社化(14年12月テラ少額短期保険に商号変更)して保険事業(免疫保険)に参入した。

 15年5月には、子会社オールジーンがハウステンボス「健康と美の王国」に先制医療のための新サービス「プリエンプティトータルチェック&ケア」の提供を開始した。遺伝子、腸内細菌バランス、免疫細胞活性の検査など5つのサービスがあり、自分の身体の状態を知ることで食生活や生活習慣の改善に活用することが可能となる。

 15年6月には、当社が参画している一般社団法人再生医療イノベーションフォーラムが15年4月設立した再生医療産業化拠点実証タスクフォース(RMIT)に参画して活動を支援すると発表した。

■樹状細胞ワクチン「バクセル」の薬事承認取得目指す

 日本では13年5月に公布された「再生医療推進法」の理念のもと、14年11月に「医薬品医療機器等法(旧薬事法改正)」および「再生医療等安全性確保法」の再生医療関連2法が施行され、再生医療・細胞医療の早期実用化の促進が期待されている。

 樹状細胞ワクチン「バクセル」に関しては「医薬品医療機器等法」に基づいて、がん治療用再生医療等製品として早期承認制度を活用した薬事承認取得に向けて開発体制整備を強化し、16年の治験届提出を目指している。

 15年3月には再生医療・細胞医療の要素技術である免疫細胞用凍結保存液の製造・販売に関する独占的通常実施権を取得した。樹状細胞ワクチン「バクセル」の薬事承認取得を目指す子会社テラファーマに再実施権を許諾し、樹状細胞ワクチン「バクセル」を搬送する際に用いる凍結保存液の実用化を図り、薬事承認取得に向けた準備を加速させる。

 また15年3月には、一部契約医療機関において10年後、20年後のがん治療に備えるための「免疫細胞バンク」サービスを15年4月以降に開始すると発表した。アフェレーシス(成分採血)で単球を採取して樹状細胞に成熟させ、樹状細胞ワクチンの状態で凍結保管する。がんに罹患した場合に、健康な時に作成した樹状細胞ワクチンを用いて治療を行うことが可能になる。

 15年4月には、11年1月から進行膵臓がんを対象として慶應義塾大学医学部と共同研究を進めてきた、抗がん剤を併用したWTIペプチドを用いた樹状細胞ワクチン「バクセル」第1相臨床研究結果を発表した。

 7月16日には東京慈恵会医科大学悪性腫瘍治療研究部との共同研究契約締結を発表した。本契約に基づいて、医薬品等を汚染するエンドトキシン等の発熱性物質の検出法を開発するための、ヒトiPS細胞由来樹状細胞の樹立に関する研究を開始する。

■15年12月期業績予想を減額修正、薬事承認取得に向けた費用増加

 8月7日に発表した今期(15年12月期)第2四半期累計(1月~6月)の連結業績は、売上高が前年同期比5.9%増の10億92百万円、営業利益が2億29百万円の赤字(前年同期は1億05百万円の赤字)、経常利益が2億44百万円の赤字(同1億25百万円の赤字)、純利益が2億67百万円の赤字(同1億29百万円の赤字)だった。

 細胞医療事業において症例数が伸び悩み、医療支援事業において細胞培養関連装置販売の新規受注が一部来期(16年12月期)にズレ込んだため、売上高、利益とも計画を下回った。増収だったが、薬事承認取得に向けた費用が増加して赤字が拡大した。

 セグメント別の動向を見ると、細胞医療事業は売上高が同0.3%増の5億26百万円、営業利益(全社費用等調整前)が90百万円の赤字(同95百万円の赤字)だった。症例数が減少したが新規がん抗原の使用が開始されたことで増収となり、広告宣伝費や研究開発費が減少して赤字が縮小した。症例数は599症例で、契約医療機関における会社設立以降の累計症例数は約9500症例となった。

 医療支援事業は売上高が同4.1%減の5億66百万円、営業利益が82百万円の赤字(同48百万円の利益)だった。テラ少額短期保険が加わったが細胞培養関連装置の販売が減少し、一部連結子会社が立ち上げフェーズであることも影響して営業赤字だった。医薬品事業は薬事承認取得に向けた開発費用が増加して営業利益が71百万円の赤字(同54百万円の赤字)だった。

 なお四半期別推移を見ると、売上高は第1四半期(1月~3月)6億40百万円、第2四半期(4月~6月)4億52百万円、営業利益は第1四半期84百万円の赤字、第2四半期1億45百万円の赤字だった。

 通期の連結業績予想は8月7日に減額修正した。前回予想(2月6日公表)に対して、売上高は2億75百万円減額して前期比4.3%増の19億45百万円、営業利益は3億15百万円減額して6億81百万円の赤字(前期は2億93百万円の赤字)、経常利益は3億58百万円減額して7億11百万円の赤字(同3億30百万円の赤字)、純利益は3億45百万円減額して7億26百万円の赤字(同4億02百万円の赤字)とした。

 第2四半期累計が計画を下回ったことに加えて、第3四半期(7月~9月)および第4四半期(10月~12月)においても症例数が伸び悩むようだ。また医薬品事業において樹状細胞ワクチン「バクセル」薬事承認取得に向けた開発コストが増加するようだ。

 ただし、当面は赤字が拡大する形だが、樹状細胞ワクチン「バクセル」に関しては16年の治験届提出を目指すとしており、薬事承認取得に向けた開発の進展と中期成長に対する期待が高まる。

■株価は売られ過ぎ感

 株価の動きを見ると1500円近辺でのモミ合いから下放れて水準を切り下げた。8月17日には年初来安値となる997円まで調整する場面があった。15年12月期業績予想の減額修正も嫌気されたようだ。

 ただし14年5月安値978円に接近して調整の最終局面のようだ。日足チャートで見ると25日移動平均線に対するマイナス乖離率が16%程度まで拡大して売られ過ぎ感を強めている。反発のタイミングだろう。

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