朝日ラバーは底値圏、24年3月期減益予想だが下期回復基調

 朝日ラバー<5162>(東証スタンダード)は自動車内装LED照明光源カラーキャップを主力として、医療・ライフサイエンスや通信分野の事業拡大も推進している。2030年を見据えた長期ビジョンでは、SDGs・ESG経営を意識して経営基盤強化を目指している。12月19日には、医療・ライフサイエンス事業における今後の開発製品の受注見通しを踏まえて、第二福島工場を増築して生産能力を増強すると発表した。24年3月期は減収減益予想としている。自動車向けASA COLOR LEDの上期の受注回復遅れなどが影響する見込みだ。ただし自動車向けの受注が徐々に回復傾向であり、下期は当初計画通りの見込みとしている。積極的な事業展開で下期以降の収益回復基調を期待したい。株価は水準を切り下げる形で軟調だがほぼ底値圏だろう。高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。

■自動車内装LED照明の光源カラーキャップが主力

 シリコーンゴムや分子接着技術をコア技術として、自動車内装照明関連、卓球ラケット用ラバー、RFIDタグ用ゴム製品などの工業用ゴム事業、およびディスポーザブル用ゴム製品などの医療・衛生用ゴム事業を展開している。車載用LED照明の光源カラーキャップASA COLOR LEDなどを主力としている。

 23年3月期は工業用ゴム事業の売上高が22年3月期比1.1%減の57億65百万円で全社費用等調整前営業利益が24.4%減の4億円、医療・衛生用ゴム事業の売上高が20.6%増の14億39百万円で営業利益が26.4%増の1億24百万円だった。地域別売上高は国内が1.7%増の54億02百万円、海外が5.4%増の18億02百万円(アジアが6.0%増の16億75百万円、北米が1.5%減の1億16百万円、欧州が2.0%増の10百万円)だった。

 なお20年11月には、白河工場が自動車産業の国際的な品質マネジメントシステム規格であるIATF16949の認証を取得した。22年7月には、白河第2工場で医療機器に関する国際的な品質マネジメントシステム規格であるISO13485の認証を取得した。品質を高めて事業拡大を加速させる方針だ。

■重点分野は光学、医療・ライフサイエンス、機能、通信

 2030年を見据えた長期ビジョンを「AR-2030VISION」として、SDGs・ESG経営を意識して経営基盤強化を目指している。

 中期事業分野を、光学事業(ASA COLOR LED、ASA COLOR LRNS、白色シリコーンインキなど)、医療・ライフサイエンス事業(薬液混注用ゴム栓、プレフィルドシリンジ用ガスケット、ARチェックバルブ、マイクロ流体デバイスなど)、機能事業(車載スイッチ用ラバー、同社独自のペルチェデバイス「F-TEM」、卓球ラケット用ラバー、風力発電関連など)、通信事業(RFIDタグ用ゴム製品、やわらか保護カバー、伸縮配線など)として、それぞれの製品群を成長させるコア技術や工場の役割を整理し、これまで整えてきた生産環境を最大限に生かす取り組みを推進する。

 23年3月期の中期事業分野別の売上高は光学事業が22年3月期比16.0%減の26億07百万円、医療・ライフサイエンス事業が20.4%増の14億83百万円、機能事業が14.8%増の24億74百万円、通信事業が20.2%増の6億39百万円、主要製品の売上高はASA COLOR LEDが16.6%減の23億88百万円、医療用ゴム製品が20.6%増の14億23百万円、卓球ラケット用ラバーが48.1%増の6億25百万円、RFIDタグ用ゴム製品が23.9%増の3億86百万円だった。

 前中期経営計画の最終年度23年3月期の目標数値は、コロナ禍の影響による市場環境の急激な変化などで未達成となったが、第2ステージとなる第14次三カ年中期経営計画(23年5月公表)では数値目標に26年3月期売上高85億円以上、営業利益率5%以上を掲げている。基本戦略として、売上構成の転換(ゴム単品からモジュール・完成品へ、OEMからODMへ)によって収益力の向上を図る方針だ。

 光学事業(売上高23年3月期実績26億円、26年3月期計画30億円)では、テーマに「再構築と挑戦」を掲げた。標準製品の付加価値向上と複合モジュールの開発・展開などにより、光の可能性を追求した高付加価値製品による市場への貢献を目指す。

 医療・ライフサイエンス事業(売上高23年3月期実績15億円、26年3月期計画20億円)では、テーマに「第2の柱へ成長させる」を掲げた。ODM設計・複合デバイスやシステム機器への挑戦により、診断・治療機器の製造販売を目指す。なお12月19日には、医療・ライフサイエンス事業における今後の開発製品の受注見通しを踏まえて、第二福島工場を増築(26年4月稼働予定)して生産能力を増強すると発表した。

 機能事業(売上高23年3月期実績25億円、26年3月期計画29億円)では、テーマに「新たな柱を創る」を掲げた。サーモモジュール応用製品の開発・ものづくり体制の確立(23年2月に相互製品販売特約店契約を締結したフェローテックマテリアルテクノロジーズとの販売連携活動強化)や、子会社で研究開発・実証実験を行ってきた風力発電のO&M(Operation and Maintennance)事業化に向けた製品開発を推進する。

 通信事業(売上高23年3月期実績6億円、26年3月期計画6億円)では、テーマに「基礎基盤を固める」を掲げた。モノ・センサ・通信規格・情報処理アプリケーションを駆使して、新たな社会価値への取組に参画するなど、スマート社会の発展に貢献することを目指す。

 成長基盤整備とWell-beingへの取組では、人材育成や社内環境整備など無形資産価値の向上、ものづくり自動化・合理化・省人化などスマートファクトリーの実践、従業員の声を聞き反映させていく環境・体制整備などWell-beingの向上、さらに地域社会貢献を推進する。

■新技術・新製品

 20年1月には、切り紙構造とゴムの複合により低応力で伸長し、耐久性に優れた新しい伸縮配線の開発を発表した。ゴムの復元力と立体的な構造によって生体センシング分野での活用が見込まれ、早稲田大学と北里大学の共同研究で発表されたウェアラブル筋電計測デバイスの一部に採用された。

 20年11月には独自の配合技術と表面改質およびマイクロ加工技術を活かして、シリコーンゴムに親水性に優れた処理を施す技術の開発を発表した。またウイルス不活性化のための深紫外線LEDシステムの研究開発および実証実験が、さいたま市令和2年度イノベーション技術創出支援補助金に採択された。

 23年3月にはフェローテックマテリアルテクノロジーズとの相互製品販売特約店契約締結(23年2月)を発表した。やわらかいサーモモジュール「F-TEM」を共同開発した両社の協業により、多様な分野の製品開発において新たな可能性を提案する方針としている。

 23年5月には、人に寄り添ったインテリジェントHCL照明システムに関する共同研究成果が、日本設計工学会2022年度武藤栄次賞優秀設計賞を、埼玉大学大学院理工学研究科の綿貫啓一教授と同社が受賞した。

 23年8月には、心臓の冠状動脈モデルの製品化を発表した。医療関係の学生向けの教育ツールとして、国際医療看護福祉大学校(学校法人国際総合学園、福島県郡山市)に採用された。

 23年9月には、独自の表面改質処理によってシリコーンゴム同士を強固に接着させる分子接着接合技術を応用し、シリコーンゴムで覆ったオリジナルのRFIDタグ「やわらか保護カバーRFIDタグ」を2種類開発した。21年から展開している「やわらか保護カバー」のラインナップを拡充した。そして23年10月には、丸紅情報システムズが代理店販売を行うEnOceanデバイスに「やわらか保護カバー」が採用されたとリリースしている。

■SDGsへの取り組みを強化

 21年8月に「サステナビリティビジョン2030」を策定し、SDGsへの取り組みを強化している。21年12月には、福島県の生産4拠点の購入電力をCO2フリー電力に転換した。年間約3000tの温室効果ガス排出削減を見込んでいる。また、みずほ銀行のホームページに、SDGs推進サポートローン実行事例として同社の取り組みが紹介された。23年3月には、未来を拓くパートナーシップ構築推進会議の趣旨に賛同して「パートナーシップ構築宣言」を宣言した。

 12月12日には、白河工場(福島県白河市)の敷地内にV2Hシステム(Vehicle to Home:クルマから家へ)を導入したと発表している。電気自動車などに蓄えられた電気を有効活用するためのシステムで、エネルギーの有効活用を推進する。

■24年3月期減益予想だが下期回復基調

 24年3月期の連結業績予想(8月8日付で純利益予想上方修正、11月9日付で売上高と営業利益を下方修正、営業外収益の増加により経常利益と親会社株主帰属当期純利益を上方修正)は、売上高が23年3月期比1.3%減の71億09百万円、営業利益が16.3%減の1億55百万円、経常利益が12.7%減の1億70百万円、親会社株主帰属当期純利益が26.1%減の1億50百万円としている。配当予想は据え置いて23年3月期と同額の20円(期末一括)としている。予想配当性向は60.7%となる。

 第2四半期累計は、売上高が前年同期比6.1%減の33億59百万円、営業利益が91.4%減の11百万円、経常利益が75.4%減の35百万円、親会社株主帰属四半期純利益が51.0%減の55百万円だった。

 減収減益だった。工業用ゴム事業で主力の自動車向けASA COLOR LEDの受注回復が遅れ、医療・衛生用ゴム事業における試作コスト増加なども影響した。国内・海外別の売上高は国内が9.6%減の25億04百万円、海外合計が5.6%増の8億54百万円(アジアが4.4%増の4億03百万円、北米が20.0%増の58百万円、欧州が52.6%増の7百万円)だった。

 工業用ゴム事業は売上高が9.1%減の26億22百万円、セグメント利益(全社費用等調整前営業利益)が62.3%減の86百万円だった。卓球ラケット用ラバーは増収だったが、自動車向けASA COLOR LEDの受注回復が遅れた。

 医療・衛生用ゴム事業は売上高が6.0%増の7億37百万円、セグメント利益が23.4%減の54百万円だった。売上面はプレフィルドシリンジガスケット製品や採血用・薬液混注用ゴム栓の好調で増収だが、利益面は販売構成差や試作コスト増加などが影響して減益だった。

 中期事業分野別の売上高を見ると、光学事業はASA COLOR LEDの減少などにより13.2%減の11億69百万円、医療・ライフサイエンス事業は診断・解析用各種製品の増加などにより4.2%増の7億56百万円、機能事業は自動車向けスイッチ用ゴム製品が減少だが卓球ラケット用ラバーの増加で3.0%増の12億82百万円、通信事業はRFIDタグ用ゴム製品が回復だがコネクター製品の受注減により32.3%減の2億25百万円だった。主要製品の売上高はASA COLOR LEDが13.9%減の10億66百万円、医療用ゴム製品が6.1%増の7億30百万円、卓球ラケット用ラバーが9.6%増の3億47百万円、RFIDタグ用ゴム製品が8.1%減の1億72百万円だった。

 四半期別に見ると、第1四半期は売上高が16億65百万円、営業利益が2百万円の損失、経常利益が11百万円、第2四半期は売上高が16億94百万円、営業利益が13百万円、経常利益が24百万円だった。

 通期の連結業績予想は前回予想に対して売上高を98百万円、営業利益を37百万円それぞれ下方修正、経常利益を16百万円、親会社株主帰属当期純利益を14百万円それぞれ上方修正した。

 修正後の通期セグメント別売上高の計画は、工業用ゴム事業が2.4%減の56億26百万円、医療・衛生用ゴム事業が3.1%増の14億83百万円としている。また、中期事業分野別売上高の計画は、光学事業が3.2%減の25億23百万円、医療・ライフサイエンス事業が2.9%増の15億26百万円、機能事業が3.7%増の25億66百万円、通信事業が23.0%減の4億92百万円、主要製品の売上高はASA COLOR LEDが3.4%減の23億06百万円、医療用ゴム製品が3.5%増の14億73百万円、卓球ラケット用ラバーが9.3%増の6億83百万円、RFIDタグ用ゴム製品が10.1%減の3億47百万円としている。

 24年3月期は自動車向けASA COLOR LEDの上期の受注回復遅れなどの影響で減収減益予想となったが、自動車向けの受注が徐々に回復傾向であり、下期は当初計画通りの見込みとしている。積極的な事業展開によって下期以降の収益回復基調を期待したい。

■株価は底値圏

 株価は水準を切り下げる形で軟調だがほぼ底値圏だろう。高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。12月20日の終値は530円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS32円94銭で算出)は約16倍、今期予想配当利回り(会社予想の20円で算出)は約3.8%、前期実績連結PBR(前期実績連結BPS1077円92銭で算出)は約0.5倍、そして時価総額は約24億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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