冨士ダイスは調整一巡、24年3月期営業・経常増益予想

 冨士ダイス<6167>(東証プライム)は超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーである。筋肉質な企業体質への転換と中長期の成長基盤を構築するため、生産性向上・業務効率化、次世代自動車への対応・拡販、新成長エンジンの創出、海外事業の強化などの取り組みを推進している。24年3月期は営業・経常増益予想としている。第2四半期累計の進捗率はやや低水準だが、期初時点で下期偏重の計画であり、下期の需要回復や販売価格改定効果本格化などを勘案すれば、通期会社予想の達成は可能と考えられる。積極的な事業展開で収益拡大基調を期待したい。株価は反発力が鈍く安値圏でモミ合う形だが、高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。

■超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカー

 超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーである。なお12月18日付で代表取締役および取締役の人事異動等を発表した。現代表取締役社長の久保井恒之氏より、一身上の都合により23年12月31日をもって代表取締役社長および取締役を辞任したい旨の申し出があり、これを受理した。これに伴い12月18日開催の取締役会において、24年1月1日付で現専務取締役の春田善和氏を代表取締役社長に選任する旨の決議を行った。また現取締役の津田雅宣氏が常務取締役となる。新体制のもと、グループの更なる企業価値の向上を目指すとしている。

 23年3月期末時点で、グループは同社および子会社7社(国内2社、海外5社)で構成され、海外はタイ、中国・上海、インドネシア、インド、マレーシアに展開している。なおインドについては、現地の経済環境などを鑑みて16年8月から事業を休眠しているが、今後は市場調査を行い、事業再開を予定している。

 生産拠点は、国内が郡山製造所・郡山第2工場(福島県郡山市)、秦野工場・秦野第2工場(神奈川県秦野市)、名古屋工場(愛知県名古屋市)、岡山製造所(岡山県倉敷市)、熊本製造所(熊本県玉名郡)、子会社の新和ダイス(山梨県甲州市)、冨士シャフト(福島県二本松市)で、海外がタイとインドネシアとなっている。

 23年9月には岡山製造所に新たなCIP装置を導入して本格稼働した。岡山製造所の生産能力を増強するとともに、次世代自動車への対応強化を図る。23年11月には熊本製造所の冶金棟のリニューアルが完了した。DX化による省人化やレイアウトの最適化による生産性向上と粉末冶金技術(粉末・成形・焼結)の向上により、背生産能力の最大化を目指す。

 超硬合金というのは、炭化タングステンに代表される硬質の金属炭化物と、コバルトなどの鉄系金属を粉末状にして混ぜ合わせ、型に入れて圧縮・成型し、粉末冶金法(融点より低い温度で焼いて固める方法)によって製造される金属材料である。ステンレスや鋼鉄を凌ぐ硬さを持ち、耐摩耗性に優れるという特性があり、高い精度が求められる金型や工具の材料として適しているため、輸送用機械、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、電気・電子部品など幅広い産業分野で使用されている。

 製品としては精密加工が施されて、主に塑性(切屑の出ない)加工に用いられる高精度かつ耐摩耗性に優れた超硬合金製耐摩耗工具となるほか、一部は中間製品である超硬合金チップとしても販売される。なお、超硬合金製耐摩耗工具の性能や寿命に関しては、顧客の設計思想や生産プロセスが色濃く反映されるため、超硬合金製耐摩耗工具の大部分は顧客ごとのカスタムメイドとなっている。

■幅広い産業分野に多品種少量の高付加価値製品を提供

 同社の製品分類は、超硬製工具類(線材やパイプの生産用工具として使用されるダイス・プラグ、鉄鋼向けの熱間圧延ロール、人工ダイヤモンドやcBNの生産用工具として使用される超高圧発生用工具など)、超硬製金型類(自動車部品製造用金型、飲料缶や食用缶などの製缶金型、車載電池用金型、ガラスレンズ生産用の光学素子成形用金型、半導体・電子部品用金型など)、その他の超硬製品(超硬合金チップなど)、超硬以外(鋼製品、セラミック製品など)としている。

 23年3月期の製品区分別売上高構成比は超硬製工具類が26.6%、超硬製金型類が24.6%、その他の超硬製品が24.8%、超硬以外が24.0%だった。主力製品は超硬製工具類のダイス・プラグ、熱間圧延ロール、超高圧発生用工具、超硬製金型類の自動車部品製造用金型、製缶金型、車載電池用金型、超硬製品の超硬合金チップなどとなっている。

 また23年3月期の顧客産業分類別売上高構成比は輸送用機械が18.0%、鉄鋼が17.3%、非鉄金属・金属製品が15.2%、生産・業務用機械が13.8%、電機・電子部品が12.3%、その他が7.9%、金型・工具向け素材が15.5%だった。取引社数は約3000社に達し、国内の超硬耐摩耗工具市場で長期に亘ってトップシェア(同社推定30%以上)を維持している。なお地域別売上高構成比は日本が80.9%、アジアが17.1%、その他が2.1%だった。

 同社は顧客ニーズを的確に捉えて、個別カスタマイズの多品種少量生産に対応する研究開発~生産~営業体制を構築し、高品質の製品を顧客に提供している。そして、超々微粒から中粒や超粗粒まで顧客ニーズに最適な粒子径や硬さの材種を提供できる新材料開発・粉末冶金技術・加工技術・品質対応力、設計~原料粉末調粉~焼結~機械加工~製品検査の一貫生産体制、豊富な製品ラインナップ、特定の業界・顧客に依存しない収益安定性などを特長・強みとしている。

 さらに同社は、競合が少ない超硬合金製耐摩耗工具で多品種少量の高付加価値製品を提供しているため、切削工具・素材メーカーが多い業界平均に比べて販売単価が高く、販売価格が安定的に推移していることなども特長としている。また財務面では、23年3月期末の自己資本比率77.7%と盤石の財務基盤を構築していることも特長だ。

 なお、23年11月には2023年度日本機械工具工業会大賞における「技術功績大賞」および「環境特別賞」を受賞、さらにモノづくり日本会議/日刊工業新聞主催の2023年度超モノづくり部品大賞における「奨励賞」を受賞した。

■中期経営計画(22年3月期~24年3月期)

 同社は長期ビジョンに「世界のものづくり界のリーディングカンパニー」「品位ある企業グループ並びに企業人」を掲げ、中長期目標(成長戦略の第2フェーズ)としては27年3月期売上高200億円、営業利益25.0億円の達成をターゲットとしている。そして第1フェーズとなる中期経営計画(22年3月期~24年3月期)の目標値には最終年度24年3月期の売上高170億円、営業利益14.9億円、経常利益15.5億円、当期純利益10.9億円、ROE5.7%を掲げている。3ヶ年合計の設備投資は約40億円(環境インフラ投資、技術開発投資、IT関連投資など)の計画としている。

 第1フェーズの基本戦略としては、筋肉質な企業体質への転換と中長期の成長基盤を構築するため、生産性向上・業務効率化、次世代自動車への対応・拡販、新成長エンジンの創出、海外事業の強化などの取り組みを推進している。そして第2フェーズにおいて、売上高と利益のさらなる拡大を図る方針だ。

 生産性向上・業務効率化では、外部コンサルタントを活用した生産効率の改善、ITを活用した営業手法の導入、基幹システムやグループウェアなどのITインフラ整備、生産拠点見直しによる拠点再編、自立型人財の育成などを推進している。

 次世代自動車への対応・拡販では、選択と集中によりモーター関連製品・電池関連製品分野への注力、販売・生産・研究開発部門の三位一体となった取り組み、新材料開発による積極的な試作品投入などを推進している。EV用の二次電池、モーターコア、マグネットなど高精度・長寿命が求められ、同社が優位な分野でさらなる拡販を図る戦略だ。

 新成長エンジンの創出では、粉末冶金技術を軸に、顧客ニーズに合わせた多種多様な高機能材料の開発に向けて、マーケティング部門と製品開発部門の融合、オープンイノベーション(大学・外部研究機関・取引先開発部門との共同開発など)の推進、M&A・アライアンスの検討などを推進している。

 具体的な新製品・新技術開発状況としては、医療・化学分野の分析用デバイス成形金型(バインダレス合金、高熱膨張材のTR合金)、環境・エネルギー分野のCO2還元用触媒、水素発生触媒、省タングステン・コバルト合金のサステロイST60、光学ガラス分野の高熱膨張レンズ用金型(TR合金)の大径品、AM(Addtive Manufacturing)分野の造形技術確立(3D造形技術による超硬合金への適用)などの開発・試作品投入・製品化を進めている。

 海外事業の強化では、24年3月期の海外売上比率20%以上を目標に掲げて、ローカル人財の育成、海外製造拠点(タイ、インドネシア)の生産性向上および技術・技能向上によるアセアン地域における競争力向上、中国における販売拠点の拡大などを推進している。

 サステナビリティ経営の強化については、企業理念に「事業を通じて広く社会に貢献し、幸せな人を育てる」ことを掲げ、23年5月にサステナビリティ基本方針を策定、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明、23年8月にサステナビリティ委員会を設置し、取り組みを強化している。

■プライム市場上場維持基準適合に向けた計画書

 なお同社は、22年4月の東証の市場区分見直しに伴ってプライム市場を選択したが、移行基準日(21年6月30日)時点で流通株式時価総額と1日平均売買代金が上場維持基準を充たしていなかったため、21年12月16日付で新市場区分の上場維持基準適合に向けた計画書を策定・公表し、中期経営計画で掲げた成長戦略の着実な遂行による業績の向上、IR活動の強化、株主還元の充実、流通株式数の増加などによって企業価値の向上を図り、プライム市場の上場維持基準への安定的な適合を目指すとしている。

 そして23年3月および23年6月に計画の進捗状況を公表した。流通株式時価総額については23年3月末時点で上場維持基準を達成したが、1日平均売買代金については22年12月末時点で上場維持基準を充たしていないため、26年12月末までを計画期間として、上場維持基準を充たすために各種取組を推進するとしている。

■24年3月期営業・経常増益予想

 24年3月期の連結業績予想は売上高が23年3月期比3.6%増の178億円、営業利益が1.7%増の11億70百万円、経常利益が0.4%増の12億30百万円としている。コスト増加を拡販や販売価格への転嫁などで吸収し、営業・経常小幅増益予想としている。価格改定については22年10月から順次着手し、23年4月以降に本格的に効果が顕在化する見込みとしている。なお親会社株主帰属当期純利益については、前期に固定資産売却に伴う特別利益を6億32百万円計上していたことから31.1%減の8億90百万円としている。

 第2四半期累計は、売上高が前年同期比1.9%減の82億10百万円、営業利益が23.6%減の4億41百万円、経常利益が24.1%減の5億01百万円、親会社株主帰属四半期純利益が16.4%減の3億80百万円だった。

 減収減益だった。半導体関連の超硬製工具類や自動車部品関連の金型などの需要が低調に推移し、原材料価格や電力燃料費の高騰、熊本工場冶金棟建設に伴う一時的費用なども影響した。

 製品別売上高は、超硬製工具類が9.4%増の23億53百万円、超硬製金型類が8.8%減の18億94百万円、その他超硬製品が6.7%減の19億58百万円、超硬以外の製品が1.7%減の20億03百万円だった。超硬製工具類は半導体関連が低調だったが、海外向け溝付きロールや一部の鋼管用引抜工具が好調だった。超硬製金型類は光学素子成型用金型が好調だったが、自動車部品関連金型が低調だった。その他超硬製品は中国市場の景気低迷の影響で中国向け素材販売が低調だった。超硬以外の製品では、一部の鋼製自動車部品用工具・金型が堅調だったが、引抜鋼管が低調だった。

 営業利益(前年同期比▲1億37百万円)増減分析は、売上減少で▲1億57百万円、材料費(超硬)で+23百万円(素材売り減少等)、材料費(その他)で+62百万円(引抜鋼管生産減少)、外注加工費で+52百万円(生産効率改善効果)、電力燃料費で▲9百万円、人件費で▲11百万円、設備関連費用で▲93百万円(熊本新冶金棟建設)、その他で▲1百万円だった。

 四半期別に見ると、第1四半期は売上高41億07百万円で営業利益2億90百万円、第2四半期は売上高41億03百万円で営業利益1億51百万円だった。

 通期連結業績予想は据え置いている。原材料価格や電力燃料費の高騰、設備投資によるコスト増加などがマイナス要因となるが、拡販と販売価格への転嫁によって吸収する見込みだ。価格改定については22年10月から順次着手し、23年4月以降に本格的に効果が顕在化する見込みとしている。

 産業分類別売上高(単体ベース)の計画は、輸送用機械が27.4億円(23年3月期は26.7億円)、鉄鋼が26.5億円(同25.7)億円、非鉄金属・金属製品が23.8億円(同22.6億円)、生産・業務用機械が20.9億円(同20.5億円)、電機・電子部品が21.1億円(同18.3億円)、そして金型・工具向け素材が25.4億円(同23.1億円)としている。

 営業利益(23年3月期比+20百万円)増減分析の見込みは、売上増加で+6億67百万円、原材料費高騰で▲2億04百万円、外注加工費削減で+51百万円、電力費高騰で▲2億11百万円、人件費増加で▲95百万円、設備関連費用(熊本新冶金棟建設など)増加で▲1億73百万円、その他で▲15百万円としている。

 第2四半期累計の進捗率は売上高46%、営業利益38%、経常利益41%、親会社株主帰属当期純利益43%とやや低水準だが、期初時点で下期偏重の計画であり、下期の需要回復や販売価格改定効果本格化などを勘案すれば、通期会社予想の達成は可能と考えられる。積極的な事業展開で収益拡大基調を期待したい。

 なお24年3月期の配当予想は23年3月期比10円減配の22円(期末一括)としている。23年3月期は特別利益計上に伴ってEPS(1株当たり純利益)が期初計画の41円41銭から65円19銭となったため、株主還元の基本方針としている配当性向50%目途に基づいて、配当を期初計画の22円に対して10円増額して32円としたが、24年3月期は特別利益計上を見込まず、例年並みの22円の予想としている。予想配当性向は49.0%となる。

■株価は調整一巡

 株価は反発力が鈍く安値圏でモミ合う形だが、高配当利回りや1倍割れの低PBRも評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。12月20日の終値は638円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS44円87銭で算出)は約14倍、今期予想配当利回り(会社予想の22円で算出)は約3.4%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1028円11銭で算出)は約0.6倍、そして時価総額は約128億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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