TAC、25年3月期は大幅増益で黒字転換、26年3月期も堅調な推移を予想
- 2025/5/27 07:16
- アナリスト銘柄分析

TAC<4319>(東証スタンダード)は「資格の学校」運営を主力として、出版事業や人材事業も展開している。教育事業では事業環境変化に対応した新サービスの提供、出版事業では新規領域への展開、人材事業では医療事務関連の子会社を統合してサービス向上と業務効率性向上を推進している。25年3月期は大幅増益で黒字転換した。営業コスト構造の見直しや全社ベースの業務効率化効果のほか、引当金繰入額が想定を下回ったことも寄与した。26年3月期は横ばい予想としているが、やや保守的だろう。なお配当は増配予想としている。積極的な事業展開で収益回復基調を期待したい。株価は戻り高値圏だ。1倍割れの低PBRも評価材料であり、上値を試す展開を期待したい。
■「資格の学校」を運営
財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)、その他分野(情報・国際、医療・福祉など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営する個人教育事業、法人研修事業を主力として、出版事業や人材事業(会計系、医療系)も展開している。
25年3月期のセグメント別業績は、個人教育事業の現金ベース売上高99億04百万円で現金ベース営業利益1億96百万円、法人研修事業の現金ベース売上高44億75百万円で現金ベース営業利益11億35百万円だった。出版事業売上高43億81百万円で営業利益9億93百万円、人材事業の売上高5億08百万円で営業利益74百万円だった。
■教育事業は事業環境変化に対応して新サービス提供を推進
25年3月期の教育事業受講者数は個人受講者が11万1422人、法人受講者が8万8017人、19万9439人だった。分野別受講者数の構成比(個人と法人の合計)は財務・会計分野が11.9%、経営・税務分野が12.0%、金融・不動産分野が30.3%、法律分野が5.8%、公務員・労務分野が19.4%、情報・国際/医療・福祉/その他分野が20.6%だった。
事業環境の変化に対応し、オンライン学習環境の強化(WEB SCHOOLの機能拡充など)や、法人向け研修における多様な受講方法の整備、新たなサービスの提供、オンライン受講増加に伴う直営校の床面積の適正化などに取り組んでいる。25年3月期の個人教育事業におけるWEB通信講座の比率(現金ベース売上高比率)は前期比4.1ポイント上昇して52.8%となった。法人研修分野においてもWEB会議システムを利用した研修が多くの企業で定着している。
新たな取り組みとして22年11月より、プロeスポーツチーム「忍ism Gaming」とスポンサー契約を締結し、プロeスポーツ選手が資格取得にチャレンジする「シカチャレ」を開始した。引退者のセカンドキャリアについて資格という側面から貢献することを目指す。23年1月には「TAC CBT(Computer Based Testing=コンピュータ試験)およびIBT(Internet Based Testing=インターネット試験)システム」によるテスト配信サービスを開始した。
24年2月には会計士や税理士をはじめとする士業の方のサポートを中心とする結婚相談所サービス「TACマリッジコンシェルジュ」運営の開始を発表した。これまでに培ってきた人材ネットワークを生かし、士業の方のサポートを中心とする結婚相談所を開設し、士業同士の婚活をサポートする。なお「TACマリッジコンシェルジュ」はIBJ<6071>が運営する日本最大級の結婚相談所ネットワークの正規加盟店である。
■出版事業は事業領域拡大
出版事業はTAC出版と早稲田経営出版(W出版)が展開している。両社の合算売上高の5億73百万円(TAC出版が4億94百万円、W出版が79百万円)は出版業界12位規模(出典:2023年度丸善ジュンク堂書店出版社売上ベスト300)で、資格書籍を主力とする出版社としては有数の規模となっている。
事業領域拡大に向けて、高等学校商業科で使用する文部科学省検定済教科書(高校1年生で履修する簿記およびビジネス基礎)分野に参入した。22年4月には高等学校商業科教科書「簿記」および「ビジネス基礎」を刊行、23年4月には高等学校商業科教科書「原価計算」および「財務会計Ⅰ」を刊行した。24年3月には、国内旅行ガイド書「おとな旅プレミアム 第4版」全32点を24~25年版に改定して発売すると発表した。
■人材事業は会計系・医療系人材紹介などを展開
人材事業は、子会社のTACプロフェッションバンクが会計系の人材紹介・派遣事業、医療事務スタッフ関西が関西エリアで医療事務に関する労働者派遣事業、診療報酬請求業務請負、診療報酬請求明細書(レセプト)点検業務を展開している。23年4月には医療事務スタッフ関西が、診療報酬請求明細書点検業務を展開するクボ医療を吸収合併した。業務の関連性が高いため、人的資源やノウハウを共有することにより、サービス向上と業務の効率性を高める方針だ。
■四半期業績に季節変動要因
四半期業績は資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係などで季節変動の特徴がある。第2四半期(7~9月)と第3四半期(10~12月)の公認会計士・税理士講座は、翌年受験のための受講申込が集中する時期となるため、現金ベース売上高が突出して多くなるとともに、翌四半期に向かって前受け金として繰り越されることから、発生ベース売上高の増加が少なくなる傾向がある。
また第4四半期(1~3月)から第1四半期(4~6月)にかけては、夏・秋の本試験時期に向けて全コースが出揃う時期にあたり、稼働率の上昇から前受金戻入額が増加することを通じて発生ベース売上高が増加する傾向にある。こうした売上の傾向に対して、売上原価や営業費用は毎月一定額計上されるため、四半期ごとの営業利益が変動しやすい。利益は期前半に集中し、下期は赤字となる収益特性がある。
■25年3月期大幅増益で黒字転換、26年3月期横ばい予想だが保守的
25年3月期の連結業績は、売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が前期比1.0%増の191億96百万円、営業利益が7億25百万円(前期は3億07百万円の損失)、経常利益が7億36百万円(同3億29百万円の損失)、親会社株主帰属当期純利益が4億67百万円(同2億19百万円の損失)だった。配当は前期比2円減配の4円(第2四半期末2円、期末2円)とした。配当性向は15.5%となる。
前回予想を上回る大幅増益で黒字転換(4月30日付で売上高を小幅下方修正、各利益を大幅上方修正)した。売上高は微増収にとどまったが、教室受講を前提とした開講ラインの見直しや校舎床面積の最適化などの営業コスト構造の見直し、全社ベースの業務効率化効果のほか、引当金繰入額が想定を下回ったことなども寄与した。
個人教育事業は現金ベース売上高が1.4%増の99億04百万円で現金ベース営業利益が1億96百万円(前期は10億29百万円の損失)だった。法人研修事業は現金ベース売上高が0.7%増の44億75百万円で現金ベース営業利益が12.2%増の11億35百万円だった。
受講者数は個人受講者が0.3%増の11万1422人、法人受講者が0.9%減の8万8017人、合計が0.3%減の19万9439人だった。講座別受講者数(個人と法人の合計)は簿記検定講座が4.1%増、税理士講座が1.9%増、不動産鑑定士講座が19.3%増、FP講座が15.6%増、建築士講座が36.3%増、行政書士講座が12.1%増、CompTIA講座が10.1%増だった一方で、公認会計士講座が16.3%減、マンション管理士/管理業務主任者講座が13.2%減、ビジネススクールが12.0%減、公務員の国家一般職・地方上級講座が14.8%減、USCPA講座が14.7%減等となった。
出版事業(TAC出版、W出版)は売上高が3.2%増の43億81百万円、営業利益が17.1%増の9億93百万円だった。独学層に向けたアプローチの強化や販売促進活動等の成果で増収増益だった。人材事業は売上高が0.4%減の5億08百万円、営業利益が17.2%増の74百万円だった。TACプロフェッショナルバンクの会計系人材事業、医療事務スタッフ関西の医療系人材事業とも売上高が伸び悩んだが、コストコントロールの効果で増益だった。
なお全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高(前受金調整後の発生ベース売上高)が50億23百万円で営業利益が3億18百万円、第2四半期は売上高が51億12百万円で営業利益が5億05百万円、第3四半期は売上高が42億99百万円で営業利益が3億84百万円の損失、第4四半期は売上高が47億61百万円で営業利益が2億86百万円だった。
26年3月期の連結業績予想は、現金ベースの売上高が0.2%増の192億90百万円、前受金調整後の発生ベース売上高が0.3%増の192億60百万円、営業利益が1.9%増の7億40百万円、経常利益が5.0%減の7億円、親会社株主帰属当期純利益が0.5%増の4億70百万円としている。配当予想は前期比3円増配の7円(第2四半期末3円、期末4円)としている。予想配当性向は27.0%となる。
重点戦略として、売上面ではオンラインライブ通信の商品ラインナップ拡充、人材育成需要増加に対応した研修受注の拡大、デジタルリテラシー向上のためのコンテンツ販売、会計系資格以外の求人広告案件へのアプローチ、利益面では直営校の校舎規模見直しの継続、オンライン受講ニーズに対応した講座運営の効率化、業務効率化への継続した取り組みを推進する。
26年3月期は横ばい予想としているが、やや保守的だろう。なお配当は増配予想としている。積極的な事業展開で収益回復基調を期待したい。
■株価は上値試す
株価は戻り高値圏だ。1倍割れの低PBRも評価材料であり、上値を試す展開を期待したい。5月26日の終値は231円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS25円92銭で算出)は約9倍、今期予想配当利回り(会社予想の7円で算出)は約3.0%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS343円05銭で算出)は約0.7倍、そして時価総額は約43億円である。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)