アイデミーは反発の動き、24年5月期大幅営業増益予想、さらに上振れの可能性

 アイデミー<5577>(東証グロース)はAIをはじめとする先端技術に関する知見を強みとして、AI開発支援を中心に人材育成からコンサルティングまで提供する東大発のAIスタートアップである。AI/DX内製化をユーザー主導で実現するために必要なツールを提供するという基本方針のもと、AI/DX人材の育成を支援するプロダクト、顧客のAI開発やDX変革を伴走型で支援するソリューションなどを一気通貫サービスとして提供している。24年5月期(連結決算に移行のため23年5月期非連結業績との比較)は大幅営業増益予想としている。第3四半期累計の進捗率が高水準だったことなどを勘案すれば通期会社予想は上振れの可能性が高く、積極的な事業展開で25年5月期も収益拡大基調だろう。株価は23年12月の安値に接近する場面があったが、売り一巡して反発の動きを強めている。出直りを期待したい。

■東大発のAIスタートアップ

 同社は「先端技術を、経済実装する。」をミッションに掲げ、AI開発支援を中心に人材育成からコンサルティングまで提供する東大発のAIスタートアップ(14年6月設立、23年6月東証グロースに新規上場)である。AIをはじめとする新たなソフトウェア技術を、いち早くビジネスの現場にインストールすることで、次世代の産業創出を加速させることを目指している。

 24年1月には、Webクリエイティブ事業やWebアプリケーション構築事業を展開するファクトリアルの株式を取得して子会社化(議決権所有割合80%)した。また資本業務提携では、20年1月にダイキン工業<6367>、テクノプロ・ホールディングス<6028>の子会社テクノプロ、21年6月に古河電気工業<5801>、22年12月に日本ゼオン<4205>と、それぞれ資本業務提携している。

 なお24年3月には、デロイト トーマツ グループが発表したテクノロジー・メディア・通信業界の収益(売上高)に基づく成長率ランキング「Technology Fast 50 2023 Japan」において50位中25位を受賞した。

■AI/DX内製化支援のプロダクトやソリューションを一気通貫で提供

 同社は、単にAIが絡むシステムの受託開発や研修を請け負うのではなく、AI/DX内製化をユーザー主導で実現するために必要なツールを提供するという基本方針のもと、企業変革の基盤となるDXの推進およびAI/DXの内製化を支援する各種プロダクトやソリューションを、相互シナジーが期待できる一気通貫サービスとして提供している。

 サービス区分は、企業がデジタル変革に向けて必要とするAI/DX人材の育成を支援するAI/DXプロダクト、顧客のAI開発やDX変革を伴走型で支援するAI/DXソリューション、個人向けにAI/DXラーニングサービスを提供するAI/DXリスキリングとしている。

 AI/DXプロダクトでは、オンラインAI/DXラーニング「Aidemy BUSINESS(アイデミー ビジネス)」、講師派遣型でAI/DX人材育成研修を行う「Aidemy PRACTICE(アイデミー プラクティス)」、GX/カーボンニュートラルの概要・全体像を効率よく学べるオンラインGX人材育成コンテンツ「Aidemy GX」を提供している。収益モデルはライセンス数・人数に応じて売上計上するリカーリング型である。

 AI/DXラーニング「Aidemy BUSINESS」の学習コンテンツ数は24年4月時点で230コース以上となっている。なお4月30日には「Aidemy BUSINESS」の新規コースとして、NVIDIA Jetsonをコンパクトに解説するAI開発者向けキットを提供開始する。

 AI/DXソリューションは、AI/DX開発の内製化に向けた伴走型支援サービス「Aidemy modeloy(モデロイ)」を提供している。経験豊富な同社のプロフェショナル(エンジニア・データサイエンティスト)が顧客企業のメンバーとともに、課題選定から開発・運用までのプロジェクトを推進し、AI開発やDX推進を支援する。24年1月には子会社化したファクトリアルが加わり、デリバリー能力を増強(デリバリー人員が従来の13人から39人に増加)した。収益モデルはプロジェクトごとのフロー型である。

 AI/DXリスキリングは、個人向けのオンラインDXラーニングサービス「Aidemy Premium(アイデミー プレミアム)」を提供している。24年3月にはオンラインGX人材育成コンテンツ「Aidemy GX」の個人向け提供も開始した。

■先端技術に関する知見が強み

 同社はAIをはじめとする先端技術に関する知見を強みとしている。AIに関する知見を有する経験豊富なデータサイエンティストが多数在籍し、相互シナジーが期待できる一気通貫サービスを提供していることに加え、M&Aやアライアンスも活用しながら、生成AIやMaterials Informatics(化学分野でのAI活用)などの最新AI技術を横展開することで、従来型のAI/DXベンダーとの競合差別化を図っている。

■先端技術のサービスラインナップ拡充とクロスセル拡大を推進

 成長戦略として、生成AI関連などの先端技術テーマを軸にしたプロダクトの新規開発、業界別ソリューションの充実や横展開、サービスラインナップの拡充、クロスセルによる売上拡大などを推進している。単にプロダクトを提供するだけでなく、教育研修分野の顧客(受講生)と共創してAI開発を行うなど、AI/DXプロダクトの顧客にAI/DXソリューションをクロスセルすることにより、業種業界をまたいだ売上拡大を図ることが可能になる。そして24年5月期まではM&Aを含めて人材の確保や組織体制の構築に注力してきたが、25年5月期以降の飛躍期に向けた準備が整ったとしている。

 23年7月には、Materials Informatics領域の新サービスとしてデータ活用プラットフォーム「Lab Bank(ラボバンク)」の提供を開始した。既存サービスとも連動して一気通貫の支援体制を充実させることにより、研究員の生産性向上やデータ活用促進など研究開発分野におけるDX推進に貢献する。

 デジタルスキルを可視化するアセスメントサービスとしては、22年7月に個人のデジタルスキルアセスメントテスト「DSAT(Digital Skill Assessment Test)」の提供を開始し、さらに24年3月には個人・企業の両者の分析につながる新サービス「DPAS(Digital Professional Assessment Service)」の提供を開始した。

 24年4月には、法人向けの「Aidemy BUSINESS」および個人向けの「Aidemy Premium」の新機能として、パーソナルAIアシスタント「My Aide(マイエイド)」を発表した。同社は技術戦略の柱にLLM(大規模言語モデル)を据えて生成AIへの投資を加速させる方針を掲げており、23年12月より「My Aide」を10法人に試験的に提供した後、いくつかの機能改修を経て正式にリリースした。これにより受講者は問題種別を問わず学習過程で抱いた疑問点をその場でAIに質問し、即座に疑問点を解消できるようになる。今後もLLMを用いて、受講者の学習支援や管理者の学習管理業務の効率化につながる機能を「Aidemy」のプラットフォーム上に順次実装予定としているほか、LLMを応用した新規事業の立ち上げも目指す方針としている。

 また24年4月には、GXに関するコンサルティングの一環として、CFP(カーボンフットプリント)算定に関するコンサルティングを開始した。オンライン学習コンテンツである「Aidemy GX」を活用した人材育成とCFP算定プロジェクトの両軸でのサポートも提供可能である。

■M&A・アライアンスも活用

 新プロダクト開発や売上拡大に向けて、M&A・アライアンスも積極活用する方針としている。M&Aのターゲットとしては、AI/DXソリューションの「Aidemy modeloy」のデリバリーパートナーになり得る開発会社(WEB制作会社など)や、エンタープライズ向けプロダクトを保有する会社を想定している。

 すでに、生成AIに特化したソリューションを提供する東大松尾研究スタートアップであるneoAIと協業し、生成AI領域における学習コンテンツ開発やセミナー開催などで連携しているほか、直近では23年12月に、オファー型転職サイトを運営するpaceboxとデジタル人材へのリスキリングと転職支援において業務提携を開始、企業の脱炭素推進活動をサポートすることを目的としてエナリス(auエネルギーホールディングスの子会社)との協業を開始した。

 また24年2月には、プラスアルファ・コンサルティングが提供するタレントマネジメントシステムとの連携を開始した。24年3月には、デロイト トーマツ グループのデロイト トーマツ コンサルティング合同会社とアライアンス締結に合意した。デジタル人材育成におけるクライアント課題解決能力の向上、相互の顧客ネットワークを活用したビジネス展開などを協力して推進する。

■日本を代表する大企業との取引が中心で強固な顧客基盤

 24年5月期第3四半期累計のサービス別売上高は、AI/DXプロダクトが9億74百万円、AI/DXソリューションが4億03百万円、AI/DXリスキリングが2億10百万円だった。24年5月期第3四半期末時点で累計ユーザー数(受講者数)は28万人超、累計利用社数は500社以上となった。長期継続顧客数(12ヶ月以上の契約顧客数)は138社で、長期継続顧客比率は約80%(23年5月末時点)となっている。

 また23年5月末時時点の法人向けAI/DXラーニング「Aidemy BUSINESS」の導入実績のうち、エンタープライズ顧客(従業員数1000名以上の企業およびその子会社)比率は95%以上となっている。またFortune Global 500選出(2022年)の日本企業47社のうち31社(子会社含む)との取引実績がある。資本業務提携しているダイキン工業、テクノプロ、古河電気工業、日本ゼオンのほか、本田技研工業、キヤノン、大日本印刷、冨士フィルム、大塚ホールディングス、大和証券グループ本社、住友商事など、AI/DXの内製化に取り組む日本を代表する大企業との取引が中心となっており、強固な顧客基盤を構築している。

 なお、資本業務提携先のダイキン工業とは「Aidemy BUSINESS」導入後、アカウント増加や「Aidemy modeloy」へのクロスセルに進み、今後も共同プロジェクトの実施を計画している。日本ゼオンとはデジタル人材育成を起点として、材料開発に関するMaterials Informatics領域での協業に進み、今後は共同開発したプロダクトの素材メーカーへの外販なども計画している。古河電気工業とは「Aidemy BUSINESS」の全社展開や「Aidemy modeloy」による工場内システム内製化支援のほか、Materials Informatics領域での基礎モデルを共同開発中である。

■24年5月期大幅営業増益予想、さらに上振れの可能性

 24年5月期連結業績予想は、売上高が21億50百万円、営業利益が2億78百万円、経常利益が2億51百万円、親会社株主帰属当期純利益が1億80百万円としている。

 24年1月にファクトリアルを子会社化して第3四半期より連結決算に移行(第3四半期よりB/Sを新規連結、第4四半期よりP/Lを取込)したため、23年5月期の非連結業績(売上高16億66百万円、営業利益2億38百万円、経常利益2億40百万円、当期純利益2億90百万円)との比較で見ると、親会社株主帰属当期純利益は前期の法人税等調整額計上の反動により減益だが、売上高は29.0%増収、営業利益は16.7%増益、経常利益は4.6%増益となる。既存事業が順調に拡大し、ファクトリアルの新規連結も寄与して大幅増収、大幅営業増益予想としている。なおファクトリアルの営業利益はのれん償却費を上回る見込みとしている。

 第3四半期累計の連結業績は、売上高が15億88百万円、営業利益が2億61百万円、経常利益が2億58百万円、親会社株主帰属四半期純利益が1億94百万円だった。前年同期の非連結業績との比較で見ると、AI/DXソリューションの大幅伸長が牽引して売上高が29.0%増収、営業利益が75.5%増益となり、いずれも過去最高となった。

 サービス別売上高は主力のAI/DXプロダクトが9.8%増の9億74百万円、AI/DXソリューションが3.1倍の4億03百万円、AI/DXリスキリングが0.5%減の2億10百万円だった。AI/DXプロダクトはAI/DXソリューションへのクロスセルに向けたドアノックとして堅調に推移した。AI/DXソリューションは伴走型支援へのニーズが高まったことで大幅伸長した。AI/DXリスキリングは前期の広告宣伝費抑制の影響で微減収だが、第2四半期以降は回復傾向となっている。なお第3四半期末時点の長期継続顧客数は前年同期比27社増加の138社となった。

 全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高4億72百万円で営業利益60百万円、第2四半期は売上高5億85百万円で営業利益1億37百万円、第3四半期は売上高5億31百万円で営業利益64百万円だった。なお売上高に関する季節要因として第3四半期(12月~2月)の構成比が低い傾向があり、営業利益に関しては成長段階のため人材・開発・広告宣伝投資によって四半期ごとに変動する可能性がある。

 通期は大幅増収、大幅営業増益予想としている。売上拡大に伴って外注費が増加するが、既存事業の高成長が牽引する見込みだ。なお、人材採用を中心とする追加投資の可能性を考慮して通期会社予想を据え置いているが、第3四半期累計の進捗率が売上高73.9%、営業利益94.2%と高水準だったことに加え、第4四半期にはファクトリアルの収益寄与が見込まれることなども勘案すれば、会社予想は保守的な印象が強く上振れの可能性が高いだろう。また、企業におけるAI/DX人材の不足により人材育成ニーズが一段と高まるなど、中長期的に同社を取り巻く事業環境は良好であり、25年5月期も積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。

■株価は反発の動き

 株価は23年12月の安値に接近する場面があったが、売り一巡して反発の動きを強めている。出直りを期待したい。4月25日の終値は1583円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS45円39銭で算出)は約35倍、前期実績PBR(前期実績の非連結BPS230円69銭で算出)は約6.9倍、時価総額は約63億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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