【小倉正男の経済羅針盤】ICT、IoTと産業革命の手のひら

ICT、IoTは人間が進むスピードでしか進めない

 以前はIT(インフォメーション・テクノロジー)と呼ばれていたが、最近ではICT(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)といわれることが一般的になっている。

 あるいは、IoT(インターネット・オブ・シングス)というコンセプトも一般に使われてきている。

 IoTは、シスコシステムズ(本社・米カリフォルニア州サンノゼ)が、「あらゆるものにインターネットを」という事業コンセプトを提唱したのがおそらく最初である。だが、いつの間にか一企業の枠を超えて広く使われ始めている。

 ICT、あるいはIoTは、とどまることなく進んでいくのだろうか。いや、意外にも思ったほどは進んでいかないという逆の見方もある。

 ICTもIoTも、人間がどう使うかというツールであり、人間が進むスピードでしか進めない。進むのが速いも遅いも、人間次第ということになるのか。

我々はまだ産業革命の延長線上にある

 ICTが世の中に出てきた頃、その頃はITと言っていたのだが、「IT革命」と騒がれたものだ。「IT革命は、産業革命を超える革命だ」――、そんな大仰な言われ方をした。
 IT革命と産業革命は、人間の歴史のなかで並び立つような画期的な現象・出来事と考えられたわけである。

 しかし、いまではICTは、産業革命の延長線上にあるというように言われるようになっている。「ICTによる21世紀型産業革命」などというコンセプトがその典型的である。

 ICTは、産業革命を超えるものではなく、産業革命の手のなかで起こっている現象・出来事ということだ。それは妥当な見方と思われる。実は、それはどうでもよいことなのだが、私は当初からそう思っていた。

 我々はまだ産業革命の延長線上にいる――。そのなかで、ICT、IoTといったツールが進化していく。大枠でそう考えるのが、落ち着きがよいように見える。

ICT、IoTは人間がどこまで進むのかに依存

 IT、あるいはICT、IoTなどが叫ばれる以前の1980年代に、そうしたツールを使って経営を革新したのは、セブンーイレブンやイトーヨーカ堂だった。

 セブンーイレブン、イトーヨーカ堂は、POS(販売時点情報管理)システムを使って、死に筋(売れない商品)、売れ筋(売れる商品)の動向をつかむことから経営革新を始めた。
 そうした経営革命・経営革新をテコにセブンーイレブン、イトーヨーカ堂は流通業でトップに躍進した。「POSもハサミも使いよう、道具だから」。

 当時のセブンーイレブン、イトーヨーカ堂は、「生活者ではなく、お客様」――。つまり、商売の原点に戻り、その原点を踏まえて情報機器を活用した。

 機器や機械は、お客動向の情報を得るためのツール――。人間が経営を変え、「お客様」という商売の原点を追求・追究した。そのうえでツールとしての情報機器を使った。

 結局は人間、時代がどこまで進もうが、それは変わらない。ICT、IoTがどこまで進むか――。それは人間がどこまで進むか、ということにほかならない。そう思うのだが、どうだろうか。

(小倉正男=経済ジャーナリスト。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数。東洋経済新報社で編集局記者・編集者、金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。)

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