【小倉正男の経済コラム】トランプ関税 インフレ第1波到来、生産者物価が大幅上昇 8月消費者物価上昇を負担するのは米国民

■7月消費者物価指数にインフレの気配なし

 米国の消費者物価指数(CPI)が発表されたのは8月12日。7月のCPIは前月比0.2%(事前予想0.2%)とインフレの気配はまったく見られなかった。

 トランプ政権には朗報にほかならない。ベッセント財務長官は、すかさず9月米連邦公開市場委員会(FOMC)に向けて、「(政策金利を)0.5%引き下げる選択肢にオープンであるべきだ」と見解を表明している。

 7月雇用統計では、5月、6月の就業者数が大幅に下方修正されている。トランプ大統領は、7月雇用統計は「陰謀」であり、景気後退(リセッション)とは認めていない。しかし、7月雇用統計を素直に受け止めれば、米国は景気後退に近い局面にある。

 そのうえインフレの兆候がない。それなら通常の0.25%の利下げではなく、0.5%の大幅利下げを行うべきであるという見解だ。トランプ大統領の意を汲んでの発言である。

■インフレ第1波、生産者物価は関税コストの価格転嫁で大幅上昇

 ところが、その直後の14日に発表されたのが生産者物価指数(PPI)。7月のPPIは前月比0.9%(事前予想0.2%)、3年ぶりの大幅上昇となっている。

 特に大幅上昇を牽引したのは機械・機器卸しなどサービス部門の1.1%である。全体的にトランプ関税がPPIを引き上げている。とりわけ、機械・機器卸しなどサービス部門はもろに関税の影響を反映している。PPIは、前月(6月)は前月比0.0%=横ばいと落ち着いていたのだが、7月は突如としてインフレに突入している。インフレ第1波の到来である。

 トランプ関税のコスト負担を誰が負担するのか。ここまでは輸出、あるいは輸入する企業サイドが自らの利益を削ってコストを負担してきている。だが、それらの企業努力が限界に達しており、企業は関税コスト分の価格転嫁に踏み切っている。

 ちなみに7月PPIは前年同月比では3.3%(事前予想2.5%)。24年11月~25年2月は3%台だったが、その後は2%台に落ち着いていた。7月3.3%はそれ以来の高騰である。

 こうなると利下げ期待は大幅に後退する。9月は利下げを行うにしても通常通りの0.25%で様子見、インフレ昂進がデータでさらに顕著になれば9月利下げは見送りということになりかねない。

■トランプ関税を誰が負担するのか

 生産者物価指数(PPI)は、消費者物価指数(CPI)の先行指標といわれている。通常、生産者物価に物流経費を乗せたものが消費者物価になる。生産者物価を消費者物価にどの程度反映させるのかという個別製品の問題はあるが、9月に発表される8月消費者物価は大幅上昇となる可能性が高い。

 トランプ関税のコストを誰が負担するのか。トランプ大統領など政権サイドは、輸出する側が利益を圧縮して負担する――。だから、米国の消費者の負担はゼロ。しかも関税は米国の収入だから、米国民の減税などの原資になる、と。

 しかし、8月からは様相は変わる。生産者物価から消費者物価に順繰りに価格転嫁が進行する。すなわち、関税によるインフレは米国の国民がもろに負担する構図になる。トランプ関税のコストを払うのは、結局のところ米国の国民という笑えない現実への直面が近づいている。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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