【鈴木雅光の投信Now】投資信託に損切りはあるのか

 「投資信託は長期保有が原則なので、とにかく保有し続ければ、いつか報われる時が来る」と思い込んでいる人がいます。得てして、大きな損失が生じている投資信託を持っている人ほど、損失を認めたくないからなのか、そのように考える傾向があるようです。

 確かに、自ら進んで損切りをし、損失を確定させたい人はいないと思います。だから含み損が生じても、「いつかは元本を回復する時が来る」と頑なに信じ、我慢して保有し続けるのでしょう。でも、それが現実には仇になるケースがあります。

 リーマンショックの後くらいから、ブラジルレアルなど高金利通貨を用いて高い分配金利回りを目指す通貨選択型ファンドが注目を集めました。高金利というだけでなく、たとえば今年開催されるオリンピックや、旺盛な中国向け輸出などを材料にして株価は堅調に推移したため、ブラジル企業の株式やブラジル国債などを対象にした投資信託も、次々に設定されました。

 今、どのような状況になっているのかを、ご存じでしょうか。

 たとえばブラジル国債を組み入れて運用する投資信託の運用成績を見ると、運用開始時に比べて基準価額が半値まで下がっているものがあります。投資元本から見ると、下落率は50%ですが、この下げを取り戻そうとした場合、今の基準価額の水準からみると、倍にならないと投資元本は戻ってきません。つまり100%の値上がり率を必要としているのですが、ブラジル国債を投資対象として、短期間のうちに投資元本が倍になるのは、とても考えにくいのが現実です。

 あるいは、ブラジル企業の株式に投資したものになると、運用スタート時の基準価額である1万円に対して、現在の基準価額が3000円弱にまで値下がりしているものもあります。

 なぜ、ブラジルファンドがここまで値下がりしたのかというと、経済情勢の先行き不透明を織り込んできているからです。中国の景気スローダウンによって、かつて旺盛だった中国向けの資源輸出は、大きく落ち込みました。経済成長率は2010年の7.5%をピークに下がり続け、2015年はマイナス3%まで落ち込みました。続く2016年も、マイナス成長は確実と言われています。

 つまり、ブラジルファンドが次々、新規設定された時期に照らして、投資することの前提条件が大きく変わってしまったのです。ブラジル経済が破たんするという声もありますが、仮にそうなったら、ブラジル国債を組み入れている投資信託は、今以上に損失が拡大する恐れがあります。そうなった時に解約しようとしても、恐らくブラジル国債のマーケットは流動性が大きく落ち込み、解約したくても解約できない状況に陥るのと共に、解約できない間にもさらに基準価額が下落するという最悪の状態になる恐れがあります。

 投資した時に比べて根本的に成長シナリオが変わったとしたら、その投資信託を持ち続ける意味は無いに等しくなります。その時は、中途解約して損失を確定させた方が無難でしょう。

(証券会社、公社債新聞社、金融データシステム勤務を経て2004年にJOYntを設立、代表取締役に就任、著書多数)

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