【ドクター箱崎幸也の健康増進実践法】突然の急変時への対応について

 先日大変お世話になった方とのお別れ会に出席し、改めて急変時や終末期の医療処置をどこまで実施するのか、ご本人さん含め周囲の方々の急変時対応の困難さを痛感しました。私自身が現在常に直面している「終末期現場での混乱」を説明させて頂きます。

 1960年代に終末期患者に対する心肺蘇生の有用性が明らかになりましたが、回復の見込みのない患者へのむやみな心肺蘇生実施が問題となりました。この反省から患者にとって無益な処置は実施しない ”do not resuscitate”(DNR;心肺蘇生を実施しない)の概念が浸透してきました。最近では『米国心臓病協会 ガイドライン 2000』を契機に、「救命の可能性が低いので心肺蘇生を差し控える」というDNAR(do not attempt resuscitate)という概念が一般的になっています。

 現在多くの病院では、高齢者や重篤な基礎疾患を有する患者の入院時には、患者や家族の意思に基づいて、この患者さんは『DNAR』であり「急な心臓や呼吸停止時には処置はしない」で急変時に対応しています。しかし『DNAR』の解釈が統一されていないために、『DNAR』は通常治療までも差し控える医師がいます。先日も認知症と慢性心不全の80歳代後半の患者が、誤嚥性肺炎を発症しました。週末に対応した当直医はカルテに『DNAR』の記載をみて、抗菌薬投与を含めた全ての治療は望んでいないと解釈し抗菌薬の投与も実施しませんでした。週末明けに主治医が、慌てて抗菌薬の投与を指示し肺炎を無事乗り越えました。

 近年、回復が望めない患者やその家族が人工呼吸器装着や胃瘻増設などを希望しないのが一般的になっています。そのために『DNAR』も心肺蘇生だけでなく、拡大解釈され通常治療も実施しないという意味が含まれがちです。どこまでが通常治療なのかの線引きも難しく、医療現場で混乱がみられるのも実情です。終末期の患者の関係者の方は、事前にかかりつけ医と急変時に具体的な医療行為を確認しておくことをお勧めいたします。(箱崎幸也=元気会横浜病院々長、元自衛隊中央病院消化器内科部長)

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