【小倉正男の経済コラム】市場はトランプ大統領に手厳しいお仕置き!トランプ流とレーガン流の違い

小倉正男の経済コラム

■レーガン流は不況打開の経済政策

 前回のこのコラムで、トランプ大統領は法人税減税、個人減税、財政出動(インフラ投資)、核など軍備更新、そして軍事パレードと、なんでもやりたがるクセ、さらにやり過ぎるクセがあると書いた。
 しかも、時や場合をわきまえているわけでなない。

 トランプ大統領がお手本にしているレーガン大統領の「レーガノミクス」――。個人減税と規制緩和を行った。さらにロシアに対抗して軍拡を行った。軍拡にはおカネが必要であり、財政出動(=財政赤字)を伴った。

 「レーガノミクス」は不況(スタグフレーション)打開を目指したものだった。
 個人減税で消費を起こそうとした。お金持ちを対象に減税すれば、消費を刺激できるという政策である。

 規制緩和は、ベンチャー企業を育成する「誕生権経済」を意識したものだった。不況打開のために、アップルなど新しい企業群を育成したのである。いまのアメリカ経済を支えるお宝のような新・主力企業は、レーガン大統領の育成策が発端となっている。

 一方、軍拡による財政出動は、国債増発を呼び込んでしまった。高金利時代となり、長期国債(トレジャリーボンド)は15%を超える高利回りだった。
 「レーガノミクス」、つまりレーガン流は、不況と悪性インフレと悪戦苦闘した経済政策といえるものだ。

■トランプ流の経済政策は時と場合を得ていない

 トランプ流は、経済が好況である時に大不況期並みの経済政策を押し広げたものである。時や場合をまったく考慮していない。
 大昔の植木等ではないが、「お呼びでない、こりゃまた失礼しました」というフェイクなキャラがトランプ流である。(若い人にはわからないか。)

 失業がないといった「完全雇用」状態で、インフレ懸念から金利が上がっている時に、大規模な景気刺激策を打ち出している。
 法人税減税、個人減税、財政出動を伴うインフラ投資、同じく核などの軍備更新・拡充とこれでもかと全部を広げ並べて悦になっている。

 これが金利上昇不安を醸成し、株式市場の乱高下、大暴落を呼び込んでしまった。バブルになる前に、経済政策があまりにバブルであるために、予防的な破裂を起こした。前代未聞の粗忽な「トランプバブル崩壊」という事態である。

 大不況時の経済政策を好況時に打ち出したわけである。トランプ流は、これでもかこれでもかと面白いのだが、キャラがいまの時期や状況に不整合である。本当に不況期になったら切るカードがないという問題も残る。

 粗忽というのか、時代に合っていない、むしろ時代を混乱させる・・・。大国を治めるは小鮮を煮るがごとしで、箸を入れないのがやり方だが、スプーンやら何やら手を入れすぎである。(前回のコラム参照)

■マーケットがトランプ大統領に手厳しいお仕置き

 私など呆然とするしかないのだが、世の中は呆然とすることが起こるものである。後付で「株価が高くなり過ぎていたわけで株価が調整された」といわれればそれはそうだが、そういわれてもあまり感銘はない。

 ただ、今回の株式市場の乱高下、大暴落はバブル崩壊、バブル破裂という構造的な悪化ということではない。
 過剰に景気がよくなる、あるいはあまりにバブルを引き起こしかねないということで金利が上昇し、バブル予防的に事前破裂を起こしたということではないか。ともあれパニックを伴って株式市場の「調整」を結果として激しく進めたという側面がある。

 アメリカの長期金利は2.87、この水準から上昇するようならリスクが再びぶりかえすという悲観論・警戒論がいまや一般的である。ただし、企業業績、景気はよいのが実体だ。金利は「正常化」に向かっているという見方も出ている。

 確かに株式市場の「調整」というには、暴落幅が激しすぎたわけだが・・・。マーケットの役割といえば役割だが、凄まじいものだった。なんでもやりたがる、やり過ぎるトランプ大統領にマ-ケットが手厳しいまでの警告やお仕置きをしたということになる。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■9割超が対策を実施も、「WBGT」の認知は依然として低調  帝国データバンクの調査により、「熱中…
  2. ■「変身と成長」掲げ1300億円の積極投資、収益構造の転換図る  吉野家ホールディングス<9861…
  3. ■人手不足を補いながら顧客満足度の向上に貢献  シャープ<6753>(東証プライム)は5月20日、…
2025年6月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

ピックアップ記事

  1. ■選挙関連の「新三羽烏」の株価動向をウオッチ  足元では野党が石破内閣への内閣不信認決議案提出を見…
  2. どう見るこの相場
    ■米、イラン核施設を電撃空爆、緊張激化へ  「2週間以内」と言っていたのが、わずか「2日」である。…
  3. ■イスラエル・イラン衝突でリスク回避売りが優勢に  イスラエルのイラン攻撃を受け、13日の日経平均…
  4. ■ホルムズ海峡封鎖なら「油の一滴は血の一滴」、日本経済は瀬戸際へ  コメ価格が高騰する「食料安全保…
  5. ■トランプリスク回避へ、大谷・藤井・大の里株が浮上  『おーいお茶』を展開する伊藤園<2593>は…
  6. ■昭和の象徴、長嶋茂雄さん死去  またまた「昭和は遠くなりにけり」である。プロ野球のスパースター選…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る