【小倉正男の経済コラム】SNSの時代:一片のツイートでNY株価799ドル大暴落

小倉正男の経済コラム

■「私はタリフマンだ」のツイートでNY株価が799ドル安

 12月4日NY株価が799ドル安の大暴落となった。下地には、米中貿易摩擦やアメリカの景気の先行きに対する警戒感があるのだが、発端となったのはトランプ大統領の一片のツイートだった。

 アルゼンチンでの米中首脳会談で90日間の交渉期間を設定して、制裁関税は一時的に棚上げして見送ることを決定した。やれやれと思っていたら・・・。

 トランプ大統領は、「おそらく合意できるだろう」とツイッターに書き込んでいる。しかし、その一方で、「合意できないときは、忘れないでほしい。私はタリフマンだ」と。

 米中が合意できない場合は、制裁関税を課すと中国を牽制している。「タリフ」とはアラビア語源で関税を意味している。
 「私はタリフマンだ」のワンフレーズのツイートが、799ドルのNY株価の大暴落をもたらした。

■トランプ大統領はツイッターという「マイメディア」を駆使

 トランプ大統領以前は、新聞、雑誌、テレビといったメディアが大統領などの発言を報道して世の中に波及していくというのがプロセスだった。

 ところが、トランプ大統領は、新聞、雑誌、テレビといったメディアをまったくパスして、ツイートで情報を発信している。
 いわゆるメディアは、大統領のツイートを追いかけるしかないわけである。

 新聞、雑誌、テレビといったメディアは「既得権」を失いかけていることになる。
 ――大統領は、既存のメディアを通して発言する、その発言はメディアが価値を判断する、といういわゆるメディアの「既得権」喪失が進行している。

 トランプ大統領は、ツイッターを「マイメディア」として使っている。新聞、雑誌、テレビといういわゆるメディアは使わなくてもやっていけるということになる。既存メディアはいわば“中抜き”されているわけである。

 既存のメディアとしては初めての事態で、困惑しているだろうし、危機感を持たざるをえないというのが本当のところに違いない。

■SNSが既存のメディアを超える時代

 「私はタリフマンだ」というツイートで799ドルのNY株価の大暴落という現象は、新聞、雑誌、テレビという既存メディアの存在価値を揺るがすものになりかねない。
 既存メディは、危機感を持って、存在価値をどう再構築するかを考える必要があるのではないか。

 おそらく時代が先に進めば進むほど既存メディアの存在価値は“中抜き”されるとみられる。そんな思いもしなかった凄い時代に入っているわけである。

 既存のメディアは、SNSを情報の質が悪いとか、真実かどうかわからない、と程度が一段低いものとして扱ってきた。
 逆にいうと、既存メディアは質がよく真実に近いという強い自負があり、SNSなどは啓蒙されるべき存在と思ってきたわけである。

 きょうびは八百屋(YaokuniSelect)までがラインで本日の安売り商品をお客に知らせる時代になっている。電子チラシなどではなく、ラインでお客とつながっている。
 いまどき八百屋のほうがトランプ大統領に負けずに「マイメディア」を使っているということか・・・。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■離職率低下と顧客満足向上を実証、省人化潮流に逆行する人材重視戦略  「丸亀製麺」主力のトリドール…
  2. ■ビーム整形と出力平準化技術を融合し大気揺らぎを克服  NTT<9432>(東証プライム)と三菱重…
  3. ■航続距離650キロを実現、日野が新型FCV大型トラック投入  日野自動車<7205>(東証プライ…
2025年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

ピックアップ記事

  1. ■造船業再生へ3500億円投資要望、経済安全保障の要に  日本造船業界は、海上輸送が日本の貿易の9…
  2. ■高市政権が描く成長戦略、戦略投資テーマ株に資金集中  「連立政権トレード」は、早くも第2ラウンド…
  3. ■全市場のわずか1.4%、希少な高配当利回り銘柄が浮上  株式市場では、高配当利回りを持つ10月決…
  4. ■「高市祭り」への期待と警戒交錯、資金は安定配当株へシフト  10月終盤相場は、「高市祭り」か「高…
  5. ■自民党総裁選と連立問題が相場を左右、短期急伸と急落を交錯  高市トレードは、まるで「超高速エレベ…
  6. ■東京市場、リスクオンとリスクオフが交錯、安全資産関連株に注目  週明けの東京市場は、米国株反発に…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る