トーセは調整一巡、23年8月期2桁増収増益予想

 トーセ<4728>(東証スタンダード)は家庭用ゲームソフト開発・制作請負の専業最大手である。成長戦略として開発体制の充実・強化、成長性の高い事業と様々なIPを活用した事業への取り組みなどを推進し、メタバース関連にも進出する方針としている。23年8月期は、システム投資や人財投資のコストが増加するが、家庭用ゲームソフト関連の好調が牽引して2桁増収増益予想としている。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は地合い悪化も影響して水準を切り下げる展開となったが、調整一巡して出直りを期待したい。

■家庭用ゲームソフト開発・制作請負の専業最大手

 家庭用ゲームソフト開発・制作請負の専業最大手で、デジタルエンタテインメント事業(ゲームソフト関連、モバイルコンテンツ関連、パチンコ・パチスロ関連などデジタルコンテンツの企画・開発・運営の受託)、その他事業(SI事業、ゲーム以外のコンテンツ事業、新規事業の創出)を展開している。

 22年8月期の売上高(顧客との契約から生じる収益)はデジタルエンタテインメント事業が52億97百万円(内訳はゲームソフト関連が33億41百万円、モバイルコンテンツ関連が19億44百万円、パチンコ・パチスロ関連が12百万円)、その他事業が3億64百万円、セグメント利益(営業利益)はデジタルエンタテインメント事業が3億87百万円、その他事業が82百万円だった。主力のゲームソフト関連は家庭用ゲームソフトの大型案件が増加傾向である。パチンコ・パチスロ関連は戦略的にゲームソフト関連に開発人員をシフトしているため減少傾向である。

 収益は、開発業務の進行に合わせて受け取る開発売上、コンテンツ配信後の運営に伴う運営売上、コンテンツ販売数量に基づくロイヤリティ売上である。複雑化・多様化するゲーム市場において、豊富なパイプライン展開を可能とする多彩な技術ポートフォリオ、長年の実績とノウハウに基づく信用力、開発売上とストック型の運営売上を持つ安定的なビジネスモデルを特徴としている。

 バンダイナムコスタジオと共同開発(21年6月発売)した家庭用ゲームソフトの「SCARLET NEXUS」については、21年11月にThe Game Awards 2021のBest Role Playing部門にノミネートされた。22年4月には世界累計出荷・ダウンロード販売本数が100万本、累計プレイヤー人数が200万人を突破した。さらに22年6月には国際ゲーム開発者協会(IGDA)主催のGlobal Industry Game Awardsの作曲部門にノミネートされた。

 最近の開発実績としてはスクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター シリーズ」や、ブシロードのスマホアプリ「虹ケ咲学園スクールアイドル同好会 TOKIMEKI RunRuns」などがある。22年11月には、同社が開発・運営をサポートし、アクアプラスが配信しているスマホアプリ「うたわれるものロストフラグ」が3周年を迎えたとリリースしている。

 12月9日にはスクウェア・エニックスが発売したNintendo Switch向けゲームソフト「ドラゴンクエスト トレジャーズ 蒼き瞳と大空の羅針盤」を開発、12月13日にはスクウェア・エニックスが発売したゲームソフト「クライシス コア -ファイナルファンタジー-Ⅶ- リユニオン」を開発したとリリースしている。

■開発体制強化や成長性の高い事業への取り組み強化

 事業環境認識として、従来の家庭用ゲーム機関連市場が堅調に推移するが、モバイルコンテンツ関連はスマートフォンゲーム市場の競争激化や収益性低下により慎重な見方としている。そして、PCやクラウドなど新たなプラットフォームへの移行や、VRゲーム機の普及拡大を見込んでいる。このような事業環境に対応した成長戦略として、大規模・高度化する開発に対応した開発体制の充実・強化、成長性の高い事業と様々なIPを活用した事業への取り組みを推進し、人事・教育・採用の改革も継続している。

 大規模・高度化する開発に対応した開発体制の充実・強化では、各スタジオが獲得した開発技術やノウハウの全社展開、プロジェクト運営の品質向上、データ分析チームの強化を推進する。なお普及拡大が見込まれるVRプラットフォーム向けゲームソフトの開発については、22年8月期に西大路第2スタジオと長岡スタジオを融合して体制強化した。

 成長性の高い事業と様々なIPを活用した事業への取り組みでは、ゲーム開発とビジネス系SIの技術の連携を強化し、メタバース関連やNFT関連など、デジタル社会に対応した新規事業やゲームに限らないエンタテインメント事業に挑戦する。22年4月には京都市、ANA NEOおよびANAホールディングス<9202>と、メタバース事業等に係る連携協定を締結した。4者で公民連携して京都市のメタバース関連の事業開発を推進する。

 人事・教育・採用の改革では職場環境整備や人材教育など積極的な人材投資を継続し、人事制度における報酬・評価・教育の好循環実現を目指す。なお、これまでに実施した報酬制度と評価制度の改善の成果として、19年8月期まで10%を超えていた離職率が、22年8月期には5.6%まで低下している。また22年9月には自社開発の業務システムが稼働し、DX化によるバックオフィス業務の効率化も推進している。

 なお社会貢献活動として「京のこどもを守るプロジェクト」に協賛している。こどもたちの命を守りたいと願う企業・団体が一体となり、京都のこどもの交通事故防止を目的に生まれたプロジェクトである。また21年1月には令和2年度京都市輝く地域企業表彰「地域企業輝き賞」および「地域企業輝き特別賞」を受賞している。SDGs関連への取り組みとしては、22年9月にWebサイト内の「CSR/ESG」ページの名称を「サステナビリティ」ページに変更してコンテンツを刷新した。また22年11月には、斎藤茂代表取締役会長兼CEOが京都府の「産業功労者表彰」を授賞したとリリースしている。

■23年8月期2桁増収増益予想

 23年8月期の連結業績予想は売上高が22年8月期比10.5%増の62億56百万円、営業利益が23.6%増の5億80百万円、経常利益が18.6%増の6億円、親会社株主帰属当期純利益が13.6%増の3億52百万円としている。配当予想は22年8月期と同額の25円(第2四半期末12円50銭、期末12円50銭)としている。予想配当性向は53.8%となる。

 情報システムや人財への投資コストが増加するが、家庭用ゲームソフト関連の好調(前期から継続しているプロジェクトや新規プロジェクトの進捗)が牽引し、取引価格の適正化や、前々期および前期に発生した大規模改修作業の一巡なども寄与して、2桁増収増益予想としている。

 デジタルエンタテインメント事業の計画は、売上高が9.7%増の58億09百万円(ゲームソフト関連が22.1%増の40億78百万円、モバイルコンテンツ関連が11.0%減の17億31百万円)で、セグメント利益(営業利益)が19.8%増の4億63百万円としている。売上面では、モバイルコンテンツ関連はスマホゲーム市場の飽和状態が顕著なため減少を見込むが、ゲームソフト関連は大型案件も寄与して大幅伸長を見込んでいる。パチンコ・パチスロ関連は開発人員をゲームソフト関連にシフトしているため売上を見込んでいない。利益面では増収効果に加えて、取引価格の適正化、開発およびバックオフィスの業務効率化、前々期および前期に発生したスマートフォンゲーム大規模改修作業コストの反動減も寄与する見込みだ。

 その他事業の計画は、売上高が22.4%増の4億46百万円で利益が41.9%増の1億16百万円としている。売上面では、家庭用カラオケ楽曲配信事業は巣ごもり消費を背景とする拡大が落ち着くとして減収を見込むが、SI事業の取引拡大を見込んでいる。利益面では開発売上の増収効果や利益体質改善への取り組み効果を見込んでいる。

 23年8月期はシステム投資や人財投資のコストが増加するが、家庭用ゲームソフト関連の好調が牽引して2桁増収増益予想としている。重点施策として先進的でより高度な開発技術の獲得を目指し、ハイエンド技術を要する案件や新規性のある案件を戦略的に優先して取り組む方針だ。そのような案件以外については、適正価格での受注の強化や開発工程の効率化などにより利益率の向上を推進し、さらに従業員の人事評価向上や賃上げによってスキルアップへのモチベーション向上という好循環につなげる方針としている。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。

■株価は調整一巡

 株価は地合い悪化も影響して水準を切り下げる展開となったが、調整一巡して出直りを期待したい。12月22日の終値は740円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS46円48銭で算出)は約16倍、今期予想配当利回り(会社予想の25円で算出)は約3.4%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS811円12銭で算出)は約0.9倍、そして時価総額は約57億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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