【小倉正男の経済コラム】識学・安藤広大社長 「責任・権限、そして結果を明確化」すれば企業は成長を最大化できる 組織コンサルは整体師という理論

■「勝つ組織とは・・・」とは

 「どんな組織が強いのか」、あるいは「勝つ組織とは・・・」、企業経営者ならそうしたアジェンダを考える瞬間があると思われる。

 識学(7049・東証グロース)という会社がある。組織コンサルティングを生業としている新進企業、率いるのは安藤広大社長(46歳)である。独自の組織運営理論「識学」で4800社を超えるコンサル実績をこなしている。

 「勝てる仕組みをつくれば勝てる。要らんことはしない。シンプルに成果を出すことに集中する。そうした仕組み、環境をつくる。それを最短距離でやればよい」
 安藤社長は、「識学の組織コンサルとは何か」という質問に即座にそう答えている。

■新生識学ファンド1号=識学理論で見違えるような企業再生を実現

 識学は26年2月期第1四半期決算発表直前というタイミングで増額修正を行っている。期初の業績計画は売り上げ61.7億円、営業利益4億円--。これが売り上げ71億円、営業利益9.5億円に大幅な上振れとなると発表している。

 識学は組織コンサルが主力事業だが、「新生識学ファンド」というベンチャーファンド部門を持っている。この新生識学ファンド1号(非上場株式1銘柄)の売却が増額修正要因である。第2四半期に売り上げ10.2億円、営業利益8.2億円の計上を果たしている。

 新生識学ファンド1号は新生銀行、識学が投資しており、1号は識学にとって持分適用関係会社となる。識学は22年3月に1号に1.6億円の投資を実施し、25年7月に10.2億円で売却している。1号は22年には営業利益率8.4%、債務超過だった。しかし、25年には売り上げ46%増、営業利益率31.5%、債務超過解消を果たしている。

 1号は短期間に見違えるような凄まじい変化率を実現した。「大化け」を演じたといってよい。
 「(識学としては)株式を持って再生に取り組んだ。当初の債務超過は理由があってのもの、製品・技術などの問題ではない。識学の組織コンサルの理論通りに再生を行った」
 安藤社長とともに識学の創業を担ってきた梶山啓介副社長・最高執行責任者(44歳)はそう語っている。

■責任と権限を明確化、その結果は明らかにする

 1号とは富士油圧精機(前橋市)、自動省力化機械の開発・製造・販売企業である。年商を上回る負債を抱え経営困難になり、社員の士気も落ちている状態だった。識学はコンサルタントを「改革責任者」として送り込んでいる。

 最初に行ったのは識学理論でいう「位置」(当事者意識・所属意識)。誰でもできるルール、ラジオ体操・挨拶を100%厳格に実行した。ルールを守る人、守らない人が明確に分かる。会社に残る覚悟が判明する。次のプロセスでは「2番目の位置」。これは組織内の位置、責任と権限を明確化する。

 責任と権限を明確化したら、その結果を明らかにする。結果に至る経過は問わない。責任と権限、それと結果を評価する。識学ではこれを上司・部下の「会議体の構築」としている。「会議体の構築」ができたら、それを繰り返していく――。

 「上司が部下のやる気を引き出したり、部下の悩みを聞いて励ましたりなどは要らない。シンプルに成果を出すことに集中する。そうした仕組みをつくる。勝てる組織にする」
 安藤社長は識学の組織コンサルをそう語っている。一方の梶山副社長は組織コンサル執行を指揮している。

■林産業=「責任・権限・結果の明確化」の軸がブレない組織にする

 林産業(東京・中央区)の小沼佳史社長は、識学の組織コンサルを受け入れて企業経営改革に取り組んでいる。林産業はポリエチレン包材を主力事業とする技術志向の企業である。

 「位置、責任・権限・結果を軸とする識学の考え方を会社に入れようと思った。識学を入れたから利益が出るわけではない。こうやれば成果に導けるというトレーニングに取り組んでいる。(識学の考え方が)社内で軌道に乗った、普通になるには10年かかっている」(小沼社長)。

 識学のコンサルタントとは月1回会合している。「部署、部下がいまどういう状態にある。識学から見たらどうか。責任・権限・結果の明確化という軸がブレないように自分たちの組織を直していく」(小沼社長)。林産業では、識学のコンサルタントを「トレーナーさん」と呼んでいる。経営のトレーニングとして組織を見つめ直す作業を継続している。

 「過去には、社員とよく飲みに行っていた。指示を伝えて社員の納得感などを高めたりしていた。いまそうしたことはまったく必要がない。識学を入れたら、当初には付いていけない、という抵抗・退社という事態もあった」(小沼社長)。

 責任・権限・結果の明確化は、それを曖昧にしている日本の企業組織で根付かせるのは簡単ではない。「軸がブレない」は大変な作業だったことを伺わせる。

■識学の組織コンサルは企業経営の「整体師」

 識学の安藤社長に「識学の理論は何に例えたら理解しやすいのか」という質問をした。

 「企業経営から要らんものをそぎ落とす。整体師に近い。人間の身体に付いたゆがみをそぎ落とす。元に戻して、負荷なく動けるようにする」

 安藤社長は、そう答えている。組織コンサルは「整体師」というのは、初耳というか意外な見方だった。そうした考え方があるのか――。企業の経営組織から負荷を取って、動くようにする。

 「日本の企業は、責任を明確化したがらない。あくまで事実に基づいて、組織をシンプルにすれば、成長できる会社はいくらでもある。成長のポテンシャルを解放させることができる。組織に様々な配慮を入れるからややこしくなっている」(安藤社長)。

 「強い組織」「勝つ組織」とは永遠のアジェンダだが、識学が一石を投じているのは確かである。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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