【小倉正男の経済コラム】『リ・アベノミクス』――再びアベノミクスに戻れ

■政策停滞のなか危機説が流れる

 アメリカではドナルド・トランプ大統領の政策に停滞が生じている。「税に関する驚くべき発表」、すなわち法人、個人の大幅減税の発表も遅れに遅れている。
 税制について、トランプ大統領周辺にプロフェッショナルが不在なのではないか、といった状況が語られている。

 その代わりに北朝鮮・金正恩への攻撃も排除しないといった緊張が生じている。中国の協力が期待できないとすれば、「我々だけでやる」、と。朝鮮半島危機説が語られている。
 しかし、これこそ簡単にはいかない。トランプ大統領は、減税案すらいまだ発表もできていないのに先制攻撃などできるのか――。そんな疑問がないではないが・・・。

 日本のほうも安倍晋三首相が「森友学園」問題でやや憔悴がみえる。国有地を格安で売却したのがそもそもの問題だが、忖度はあったというのが大方の見方である。長期政権の緩みが思わぬところで出てしまったのか。

 安倍晋三首相は、経済政策ではどちらかといえば市場経済主義、政治ではナショナリズム、右翼的志向である。経済では支持を集め、政治では人気を下げるという循環を繰り返している感がある。ここは再び経済に集中すべきということではないか。

■「失われた時代」に後戻りは悲惨

 ポスト安倍で、1年ごとに首相が代わるでは、「失われた時代」に後戻りになりかねない。雇用はいまや空前の人不足だが、経済が停滞すれば、仕事自体が失われる。賃金も上がらず、ひいては退職金や企業年金などにもマイナスの影響が生まれる――。

 そんな「失われた時代」が再到来すれば、「災難」というしかない。共働きでマンションを買って住宅ローンを払うといった現在のライフスタイルも保持できないといったことが起きかねない。

 「失われた時代」は、株式市場も売り一方の死んだような状態だった。兜町はリストラ一色で人影が消えていたものだ。外資有力企業も東京から事業撤退が相次いだ。
 オフィスビル建設はいまやピークで銀座、日本橋などは新しい高層ビルが続々登場している。しかし、オリンピックを前にして建設ブームも頭を打つことになる。

 我々が経験した「失われた時代」は悲惨そのものだった。「失われた時代」に戻ることだけは避けたいものである。

■「リ・アベノミクス」=ソフィステケートに練られた新政策

 さてアベノミクスだが、これも失われているというか、忘れられている感がある。安倍晋三首相からもアベノミクスという言葉がまったく吐かれなくなっている。
「リ・アベノミクス」、ここはアベノミクスに再び戻るべきである。

 政府がいくら依頼しても、賃上げははかばかしくない。それなら次の手を少し考えるべきではないか。
 「プレミアム・フライデー」、政府は月末の金曜日は午後3時に終業するように民間企業に呼びかけている。これなども中途半端である。お役所はプレミアム・フライデーだが、民間企業の大半はそんなものは導入していない。

 例えば、仮に月末の金曜日を正午から半ドンにする、といった制度が強制されるなら、これは実質的に賃上げになる。労働時間が減り、賃金(月額)が不変なら賃上げに等しいことになる。時間だけではなく、実質的に賃上げとなるならば消費購買力の向上につながる。

 フランスのレオン・ブルム人民戦線内閣(1936~1937年)が、有給休暇の制定を強行して、消費購買力を高めたのに類似した政策になる。
 「暇ネタ」ではあるが、ソフィステケートに練られた「リ・アベノミクス」政策を提案したいものである。

(小倉正男=『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)

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