【編集長の視点】「錯覚よくない、よく見るよろし」の升田流で電炉株の先行きをマーケットと読み比べに一考余地=浅妻昭治

<マーケットセンサー>

思わず「錯覚よくない、よく見るよろし」とつぶやいてしまった。このつぶやきは、将棋ファンには「ヒゲの名人」としてお馴染みの升田幸三八段(当時)が、第7期名人戦挑戦者決定戦三番勝負の第3局で、勝勢の将棋を最終盤で手拍子の大悪手を指して頓死し、弟弟子の大山康晴七段(同)に敗れたときに漏らしたものだ。今回、筆者が、懼れ多くも升田幸三実力制第4代名人に倣って同様のつぶやきを漏らしたのは、今年1月28日前場寄り付き直後のことである。

このとき日経平均株価は、前日27日の米国のニューヨーク(NY)・ダウ平均株価が、291ドル安と急反落したにもかかわらず、一時、82円高まで逆行高していた。この逆行高に関して、マーケット・コメンテイターからは、日本株の米国株離れとの強気発言が相次いでいたのである。確かに今年に入ってのNYダウは、原油先物価格安とドル高進行による企業業績の先行き不透明化などから、急騰の大陽足(白)と急落の大陰線(黒)が交互に繰り返される白黒の鯨幕相場の展開となっていた。これに対して、通常は米国市場の写真相場を余儀なくされるはずの東京市場は、この原油価格安は、むしろ日本経済にとって総体的にプラスに働き、ドル高は逆に円安として日本企業の業績を押し上げ、さらに日銀のETF(上場型投資信託)買いや年金基金買いなどもあって米国株安には相当に打たれ強くはなってはいた。

しかし、景気動向ではワールドワイドに一人勝ちを鮮明化している米国を差し置いて、日本株の米国株離れを声高にコメントする強気発言が聞こえてくると、どうしたってつい「錯覚よくない、よく見るよろし」とつぶやいてしまうのである。前週末1月30日のNYダウも、またまた251ドル安と急反落して帰ってきており、週明けの月初めの日経平均株価が、どう反応するか、またつぶやくことになるのかならないのか心配にはなる。かつてバブル経済の最盛期には、日本株の米国株離れが極まって、日本の大手不動産会社が、米国経済のシンボルのエンパイヤーステイトビルを高値で買収し、結局は、高い授業料を払って損切りさせられたような悲劇が、また繰り返されないことを祈るばかりである。

全般相場と同様に個別銘柄でもマーケット・コメントに対して、思わず「錯覚よくない、よく見るよろし」とつぶやいてみたくなるセクターがある。電炉株である。電炉株のなかは、この1月末の今3月期第3四半期決算の発表時に今期3回目の業績上方修正を発表し、なかには2回目の増配や自己株式取得まで伴う好調銘柄が続出したにもかかわらず、マーケットの評価が冷ややかにとどまっているからだ。もちろん業績を上方修正したからといって、必ずしも株価が好感高する勝ち組銘柄になるとは限らないのは承知している。証券アナリストたちが強気で積み上げた市場コンセンサスという高いハードルがあって、これをクリアした銘柄のみが勝ち組要件を具備するからである。しかし、電炉株が、業績の上方修正を発表したとたんに長大な陰線包み足を示現するのは明らかに売られ過ぎではないかと思わざるを得ないのである。

さらに、電炉株の業績上方修正は、ハイテク株の注釈付きとは異なって、要因が至ってシンプルで分かりやすく万人投資家向きである。主原料の鉄スクラップ価格の高安、販売価格改定の浸透度合い、電炉の操業度が業績の好・不調要因となっていて、まさにいまだに原始資本主義の経営体質構造そのままなのである。前期は、鉄スクラップ価格の上昇と販売価格改定の浸透が遅れて下方修正続きであったが、今期は、期初から鉄スクラップ価格が値下がりして電気料金引き下げをカバーして上方修正のオンパレードとなっている。鉄スクラップ価格は、東京製鐵<5423>(東1)の購入価格でも昨年年初から今年1月末で3割以上も値下がりしているのである。電気料金にしても、このところの原油先物安で値下げ期待が高まることになればさらに業績の上ぶれが期待できるはずだ。電炉株を持ち駒にすることが、マーケットの評価通りに手拍子の大悪手か、それとも最善手といわないまでも、鯨幕相場下での次善手くらいにはなるか、「新手一生」を掲げて将棋定跡の既成観念改に果敢に挑戦した升田幸三流で、マーケットと読み比べを試してみるのも一考余地にはありそうだ。

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