【小倉正男の経済コラム】「貿易戦争」トランプ大統領の狙いはルール変更

小倉正男の経済コラム

■米中が高関税のブラフで脅し合う構図

 アメリカと中国という経済大国が「貿易戦争」状態になっている。しかし、トランプ大統領は、「我々は中国と貿易戦争をしているわけではない」とツイートしている。 

 アメリカと中国が、お互い相手国の輸入品に高関税を課すと表明している。ただし、現状は表明だけで、実施はしていない。
 いまはいわばブラフの掛け合いであり、お互いに負けずに大仰に脅し合っている。

 自由貿易主義を牽引してきたことを自負してきたアメリカが、「保護主義」めいた高関税をチラつかせるのも奇異である。
 社会主義市場経済であまり公正とも思えない中国が、自由貿易主義を振りかざすのも奇異である。

 アメリカ側は、中国が自由貿易主義を唱えるなら、国をもっとオープンに開きフェアな体制にしろということになる。

 「トランプ大統領も最終的には自由貿易主義者だ」とは、トランプ政権側から出ている話だ。
 アメリカは中国に闇雲に貿易戦争を仕掛けているのではない――。別段、「保護主義」を奉じているのではなく、自由貿易のあり方を探っているのだというわけである。

■落しどころは心得ているのか

 アメリカと中国が「貿易戦争」というか、高関税の制裁リストなどを発表するたびに為替、株価などが乱高下している。マーケットには激震が走る。

 アメリカでも、中国が大豆を制裁リストに載せたことで国内の大豆生産農家から悲鳴が上がっている。大豆は、アメリカから中国への輸出品では最大の品目であり、中国は中国で痛いところを突いている。

 ロス商務長官が、「これらがすべて最終的に何らかの交渉という形で収束しても驚くべきではない」と発言している。落しどころは心得ているというわけであり、マーケットに安心感を与える状況になっている。

 ロス長官はトランプ大統領と連携を取っているのか。「貿易戦争」に見えるが、舞台裏では交渉でディールが進んでいるのか。

■ゲームで勝てなければルールを変える

 日本の安倍晋三首相にアメリカと中国の高関税掛け合い戦争の仲介役を果たせという声がないではない。「大人同士なのだから、いい加減にしろ」、と。

 それができればクールなのだが、日本もコメなど農産物で高関税を課している面があり、下手に仲介すると火の粉をかぶることになりかねない。日本は日本で、トランプ大統領にディールに持ちこまれかねない事態となる可能性が残されている。

 ともあれトランプ大統領としては、大枠で習近平国家主席とディールに持ち込んで、交渉で解決に向かうということなのだろう。
 「貿易戦争」では誰も利益を得ることがない。それどころか世界経済を損なうことにつながる。それならまだしも交渉で収束するなら、大人の解決といえる。それはロス商務長官が描いてみせた通りである。

 ゲームで勝てなければ、ゲームのルールを変える――。それがトランプ流とすれば、習近平主席もギリギリで折れるのが予定調和か。ましてアメリカは中国からモノをふんだんに買ってくれる顧客=マーケットである。

 双方とも貿易というゲームを止めるわけにはいかない。とすれば、ルールを変えてゲームを続けるしかないということになるのか・・・。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)

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