【小倉正男の経済コラム】米国 大幅利上げで景況悪化だが強い消費

■ようやく消費者物価、卸売物価とも低下

 米国の消費者物価指数(CPI)だが、10月は前年同月比7.7%増(事前予想8.0%増)と伸び率を鈍化させている。10月の卸売物価指数(PPI=生産者物価指数)も前年同月比8.0%増(事前予想8.3%増)と伸び率はようやく低下の傾向をみせている。

 消費者物価、卸売物価ともほぼ軌を同じくするトレンドとなっている。ピークは6月の消費者物価9.1%増、卸売物価11.3%増。10月の消費者物価はなんとか伸び率8%を割り込み、卸売物価も同じ趨勢といえる。物価の大幅高騰はようやく峠を越えたかのようにみえる。

 「景気よりインフレ」と物価抑制を最重点とする連邦準備制度理事会(FRB)の急ピッチな連続大幅利上げが景気を抑え込んでいる。連続大幅利上げで景気(需要)を抑え込めば、経済の循環が悪くなり雇用、所得などに傷みが走る。だが、例え痛みがあってもインフレを削ぎ落とすには景気の過熱を冷やす必要があるというわけである。

■10月小売売上高は大幅贈

 ところが、10月の小売売上高は前月比1.3%増(事前予想1.0%増)となっている。9月の小売売上高は0.0%と横ばいだったが、10月は大幅増に転じている。年末セールを前倒しにしたアマゾンなど流通各社の「大規模セール」が寄与したといわれている。

 10月小売売上高は、事前予想もかなり高かったのだから「大規模セール」を織り込んでいたわけである。しかし、着地は事前予想を大きく超えている。個人消費は米国のGDP(国内総生産)の7割を占める重要ファクターだ。年末セールの“先食い”といえばそれまでだが、この小売売上高の強さをどうみたらよいのか。

 10月は消費者物価、卸売物価がともに上昇率を鈍化させた。連邦準備制度理事会は、景気への忖度を捨て、連続大幅利上げで最優先のインフレ叩きに動いた。それがさすがに奏功・浸透した、と。しかし、景気の決定要因である消費はへこたれない強さをみせている。

 利上げラッシュで先行きの景況感は悪化している。ハイテク関連などの超有名企業が何とも気が素早いのだが、従業員大幅削減を相次いで実施している。だが、10月小売売上高をみると米国の景気は思うほど悪化はしていない。消費するおカネもあるし、先行きを過度に悲観・警戒して消費を抑えているわけでもない。

 これにはマーケットも複雑な反応をみせている。年末セールの単なる先食いなら11~12月の消費は反動で低迷することになる。金融引き締めは緩和される方向とみられているが、緩和が停滞するのではないかという懸念も一瞬ぶり返している。

■大幅利上げにもかかわらず強い抵抗力

 しかし、連続大幅利上げにもかかわらず景気が崩れていないとすれば、いまの米国の景気潜在力は相当に強いということになる。利上げで一気に殺されるほどの脆弱な景気ではない。インフレ部分を削ぎ落とせば、強い景気がそのまま生き残るソフトランディングの可能性すら残されている。

 本来的にいえば、強い景気であることは、脆弱な景気よりもよいことにほかならない。ここでは景気という表現を使っているが、経済と言い換えてもよいと思われる。(マーケットサイドからすれば、強い経済というのも時と場合があるだろうということになるわけだが。)

 米国の利上げは実際のところかなり凄まじいものである。3月0.25、5月0.5%、6月から4回連続で0.75%の大幅利上げを実施している。米国経済は凄まじい連続大幅利上げに見舞われている。それでも米国経済は利上げに強い抵抗力をみせたことになる。

 米国経済は、年内はもとより少なくとも新年前半もインフレ動向を睨んでの展開が見込まれる。エネルギー、食料品価格の高騰でいえば、プーチン大統領のロシアによるウクライナ侵攻が根底で関係している。ウクライナでの戦争の推移・終結の行方もインフレ動向を左右する。果たして金融引き締めが解除された強い米国経済の全開をみられるとすればそれはいつか。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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