神鋼商事、25年3月期は営業利益を上方修正して減益幅縮小、利益進捗率が高水準でさらに上振れ余地

 神鋼商事<8075>(東証プライム)はKOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として鉄鋼製品、鉄鋼原料、非鉄金属、機械、溶接材料・機器などに展開している。新中期経営計画2026では、基本方針として収益力の強化、投資の促進、商社機能の強化に加え、サステナビリティ・人的資本・資本コスト経営を推進し、企業価値向上を目指すとしている。25年3月期は営業利益を上方修正し、期初予想に比べて営業減益幅が縮小する見込みとした。第2四半期累計の利益進捗率が高水準であることを勘案すれば、さらに再上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。株価は水準を切り下げる形でやや軟調だが、指標面の割安感も評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。

■KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社

 神戸製鋼所<5406>系で、KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として鉄鋼製品(鋼板製品、線材製品等)、鉄鋼原料(輸入鉄鋼原料、合金鉄、コークスブリーズ等)、非鉄金属(銅製品、アルミ製品、非鉄金属地金・スクラップ等)、機械(ゴム・タイヤ機械、製鉄・非鉄機械、化学機械、環境関連機器、電池用材料等)、溶接材料・機器(溶接材料、溶接関連機器、溶接ロボットシステム等)などに展開している。成長戦略としては、重点分野と位置付けているEV・自動車軽量化関連および資源循環型ビジネス関連の拡大を推進するとともに、サステナビリティ経営も強化している。

 M&A・アライアンス戦略としては、21年9月に日新イオン機器から半導体・FPD用イオン注入装置の製造を手掛ける中国・NIHY(揚州)の株式を取得(社名を神商精密器材(揚州)に変更して子会社化)、21年12月に子会社のSCWが日本エア・リキード合同会社から大半の溶接関連資機材事業を譲り受け、23年2月に子会社の神鋼商事メタルズがシンクスコーポレーションと共同でベトナムにアルミ厚板切断加工販売会社を設立、23年9月に稲垣商店より同社の非鉄金属卸売事業に関する権利義務を会社分割により承継させた新・稲垣商店の全株式を取得して連結子会社化した。

 24年4月には超小型モビリティの製造・販売やMaaS事業を展開するKGモーターズ(広島県東広島市)に出資した。自動車電動化に関連する取引先の多様化を図るとともに、サスティナブルな社会の実現に貢献するビジネスの創出を図る。また子会社のマツボーとともに珈琲豆用や医薬・化学業界向けの粉砕製粒機(グラニュレーター)を展開する日本グラニュレーターの全株式を取得して連結子会社化した。24年6月には神和アルミ工業と共同で半導体製造装置向けアルミチャンバーの加工会社を設立した。

 24年3月期のセグメント別経常利益は鉄鋼が66億34百万円、鉄鋼原料が15億14百万円、非鉄金属が16億35百万円、機械・情報が23億12百万円、溶材が7億44百万円、その他(不動産賃貸事業等)が27百万円の損失だった。鉄鋼、鉄鋼原料、非鉄金属は取扱数量と市況の影響で変動しやすい特性がある。なお25年3月期より売上区分をユニット別に、金属本部(鉄鋼、アルミ・銅、原料)および機械・溶接(機械、溶接)としている。

■中期経営計画2026

 24年5月に策定した新中期経営計画2026(25年3月期~27年3月期)では、長期経営ビジョン2030で掲げた「明日のものづくりを支え、社会に貢献する商社」の実現に向けて、重要目標達成指標(KGI)として最終年度27年3月期の経常利益145億円、ROE(自己資本利益率)10.0%以上、ROIC(投下資本利益率)6.5%、自己資本比率21%以上を掲げている。株主還元については連結配当性向30%以上、または1株当たり配当300円のいずれか高いほうとする。

 基本方針としては、本計画期間を「第二の創業」の本格化のステージ(前計画で掲げた質の高い経営と真のグローバル企業への変革を具現化するステージ)と位置付けて、事業ポートフォリオ変革等による収益力強化、重点分野・地域や新規事業等への投資促進、DX推進等による商社機能強化、経営基盤の強化に加え、サステナビリティ・人的資本・資本コスト経営を推進し、企業価値向上を目指すとしている。これに伴い25年3月期より、従来の5本部体制を金属本部(鉄構ユニット、アルミ・銅ユニット、原料ユニット)と機械・溶接本部(機械ユニット、溶接ユニット)の2本部制に再編するとともに、営業本部から独立した新事業推進室を設置した。

 ビジネスの3つの柱として、現在のKOBELCOグループビジネス、および神鋼商事オリジナルサプライチェーンビジネスから得られる利益を拡大するとともに、サステナビリティをキーワードにSX新規事業推進案件への投資を進め、将来の収益柱育成を目指す。

 3ヶ年合計の投資額は230億円(うちDX&IT関連投資30億円)の計画としている。オリジナルサプライチェーンへの投資を拡大するとともに、エリア的にはアセアン・インドを成長地域と捉えて重点投資を行う方針だ。

■サステナビリティ経営

 サステナビリティ経営に関しては、22年4月にサステナビリティ基本方針と重要課題(マテリアリティ)を制定するとともに、取締役会の諮問機関としてサステナビリティ委員会を設置した。22年6月にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同するとともに、TCFDコンソーシアムに参画した。22年10月にはダイバーシティ推進プロジェクトチームを発足し、女性およびグローバル人材活躍に向けて30年までの目標を設定した。22年12月には、経済産業省が公表した「GXリーグ基本構想」への賛同を発表した。

 23年1月にはユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI)が設立したUMI3号脱炭素投資事業有限責任組合(UMI脱炭素ファンド)へ出資した。23年2月には光変換光合成促進農法社(長野県岡谷市、以下:光変換社)へ資本参加して業務提携した。光変換社は、光変換光合成促進農法による農作物栽培用資材および農作物の生産販売を目的として09年に設立された農業法人で、高麗人参を短周期で収穫する短期促成栽培システム(19年に特許登録)を開発している。

 23年9月には、ちとせグループの統括会社であるCHITOSE BIO EVOLUTION(シンガポール)に出資し、藻類基点の新産業を構築する「MATSURIプロジェクト」に参画した。同グループと協業し、微細藻類によるカーボンリサイクルや微細藻類を使った新規事業開津など、新たな資源循環型ビジネスモデルの構築を目指す。また、東京理科大学創域理工学研究科が23年4月に設置したサステイナブルアーバンシティセンターに対して協賛した。

 23年10月には、ESGや人権に関する問題意識の高まりと企業の社会的責任を踏まえて「神鋼商事グループ人権基本方針」を制定した。23年12月には、奥村組<1833>、丸紅クリーンパワー、大成建設<1801>とともに、北海道石狩市における早生樹の植樹実証事業の開始を発表した。植樹した早生樹を石狩市内のバイオマス発電所で燃料の一部として使用することを見据えており、地産地消によるエネルギー事業の可能性を検討する。

 24年2月には、環境情報開示システムを提供する国際環境非営利団体であるCDPによる「気候変動」に対する取り組みや情報開示の評価において、咲くエンドに続いて「B」評価を取得した。24年3月には経済産業省と日本経営会議が選定する健康経営優良法人認定制度において、23年に続いて「健康経営優良法人2024(大規模法人部門)」に認定された。24年7月には奥村組および国立大学法人室蘭工業大学と共同で、木質バイオマス発電所から発生する木質系バイオマス燃焼灰の有効活用に向けた研究を開始した。

■25年3月期は営業利益を上方修正して減益幅縮小、さらに再上振れ余地

 25年3月期の連結業績予想は11月7日付で営業利益を上方修正して、売上高が24年3月期比5.3%増の6230億円、営業利益が7.5%減の123億円、経常利益が14.2%減の110億円、そして親会社株主帰属当期純利益が11.1%減の81億円としている。配当予想は据え置いて24年3月期比15円減配の300円(第2四半期末150円、期末150円)としている。予想配当性向は32.6%となる。

 第2四半期累計(中間期)は、売上高が前年同期比9.8%増の3066億76百万円、営業利益が17.0%増の70億24百万円、経常利益が21.9%増の61億09百万円、そして親会社株主帰属四半期(中間)純利益が23.0%増の45億68百万円だった。

 計画を上回る大幅増益で着地した。5月9日付公表の期初計画に対して、売上高は86億76百万円、営業利益は25億24百万円、経常利益は10億09百万円、純利益は5億68百万円それぞれ上回った。アルミ・銅ユニットで伸銅品が好調に推移したこと、海外子会社で一過性収益を計上したことに加え、販管費が想定を下回ったことも寄与した。なお営業外ではデリバティブ評価損益が12億85百万円改善(前期は評価損6億18百万円、当期は評価益6億67百万円)したが、為替差損が13億74百万円増加(前期は差損63百万円、当期は差損14億37百万円)した。特別利益では負ののれん発生益1億79百万円を計上した。

 セグメント別の経常利益を見ると、金属セグメントの鉄鋼ユニットは14.2%減の23億45百万円だった。売上面は半製品の受注増等で小幅増収を確保したが、利益面は取扱構成品目の変化等で減益だった。アルミ・銅ユニットは234.6%増の17億23百万円だった。取扱量の増加で大幅増収増益だった。銅製品は自動車用端子コネクター向けや空調銅管向け、アルミ製品は店売りや空調アルミ管向け、非鉄原料はアルミ屑向けが増加した。原料ユニットは78.0%増の11億34百万円だった。大幅増収増益だった。神戸製鋼所向け主原料の価格が下落したが、重点分野と位置付けている資源循環型ビジネスにおいて鉄スクラップやバイオマス燃料の取扱量が増加した。また海外子会社において一過性収益を計上した。

 機械・溶接セグメントの機械ユニットは27.2%減の6億03百万円だった。減収減益だった。欧米のEV車低迷の影響で電池関連材料が減少し、建機部品も海外子会社において取扱量が減少した。溶接ユニットは14.4%増の3億53百万円だった。増収増益だった。溶接材料の取扱量が減少したが、溶接材料の販売単価上昇やチタン原料の取扱量増加などが牽引した。

 なお全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高1523億43百万円、営業利益36億86百万円、経常利益35億78百万円、第2四半期は売上高1543億33百万円、営業利益33億38百万円、経常利益25億31百万円だった。

 上期実績を鑑みて通期の営業利益予想を16億円上方修正し、期初予想に比べて営業減益幅が縮小する見込みとした。経常利益、親会社株主帰属当期純利益、及び配当については、海外投資先の業況が不透明であることを主因に据え置いた。ユニット別経常利益計画は、金属本部小計が8億円減の89億円(鉄鋼が7億円減の59億円、アルミ・銅が1億円減の15億円、原料が0億円減の15億円)で、機械・溶接小計が9億円減の21億円(機械が8億円減の15億円、溶接が1億円減の6億円)としている。その他は横ばいの0億円としている。

 鋼材等の市況については24年3月期並みの水準を想定し、鋼材価格の高値推移や鋼材取扱量の増加により増収だが、人件費や営業費などの増加により減益予想としている。ユニット別には、鉄鋼は前期の米国子会社における貸倒引当金戻入額一巡や販管費の増加を見込んでいる。アルミ・銅は低調だった中国での緩やかな回復を見込むが販管費の増加を見込んでいる。原料はバイオマス燃料の取り扱いが堅調に推移する見込みだ。機械は売上高が横ばいだが販売管理費の増加、溶接は取扱量の横ばい推移を見込んでいる。

 通期予想に対する第2四半期累計の進捗率は売上高49%、営業利益57%、経常利益56%、親会社株主帰属当期純利益56%である。第2四半期累計の利益進捗率が高水準であることを勘案すれば、さらに再上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。

■株価は調整一巡

 24年8月には東京証券取引所および日本経済新聞社が共同で算出するJPX日経中小型株指数の構成銘柄に選定された。

 株価は水準を切り下げる形でやや軟調だが、指標面の割安感も評価材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。11月27日の終値は5950円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS920円00銭で算出)は約6倍、今期予想配当利回り(会社予想の300円で算出)は約5.0%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS9770円13銭で算出)は約0.6倍、そして時価総額は約527億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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