【小倉正男の経済コラム】残業料率引き上げこそ歴史的な大改革

■残業時間100時間未満で歴史的な大改革とは?

 「きわめて画期的で、労動基準法70年のなかで歴史的に大改革だ」(菅義偉官房長官)。
 労使の残業時間の上限規制合意で、繁忙期の残業時間を100時間未満にしたことについてのコメントである。

 このような後進国並みの残業規制で「大改革」とは、残念な話である。民進党や連合も結局はこれに合意しているわけだから、傍からみていると野党もほとんど同罪である。
 政府は「プレミアムフライデー」「働き方改革」とかいっているわけだが、労働政策は旧態依然の感がぬぐえない。

 ドイツやフランスは残業料を大変高いものにした。残業させるよりは、もうひとりの従業員を雇用したほうが安い――。残業料が高いことがワークシェアリングをもたらし、雇用を増加させてきた。

 雇用や賃金を重視するアベノミクスに沿う話だが、そうした方向にはいかない。どうやら与野党とも「籠池・森友学園事件」で思考停止といったところか。

 与野党そろってこんなこと、つまりは「芝居」みたいなことをやっていれば、何をやっているのかと見透かされることになりかねない。
 これでは日本にもドナルド・トランプ大統領のようなとんでもないというか、凄い人が飛び出してくる素地を耕しているようなものである。

■金融政策も限界、賃上げも低調

 そのアメリカだがFRB(連邦準備制度理事会)がトランプ大統領の政権下で初めての利上げに踏み切った。しかし、利上げペースの加速化は示されなかったということでドルを売る動きとなっている。

 加速化はないというが、年3回ペースの利上げは行われるとみられている。アメリカの景気はよいということを確認したわけである。

 問題は日本が政策的に手詰まり状態になっていることだ。トランプ大統領の為替に対する強烈な批判があり、日銀は動けない。それに日銀としても、金融緩和策にこれ以上踏み込んでも効果は期待できない状況だ。

 そのうえ賃上げも低調な推移となりそうである。ドル安基調のなかでは、日本の主力産業である自動車産業各社なども賃上げには積極的になれない。
 またまた利益準備金など内部留保優先、つまりは企業におカネを貯めこむことになる。あまり賢い循環とはいえない。

■残業料率引き上げをアベノミクスの新しい目玉にせよ

 それであるなら、残業料率を引き上げたらよいのではないか。繁忙期の残業を100時間未満にするというだけではなく、少しでも残業料率を引き上げる。そうなれば、ワークシェアリング効果が発現するから、雇用も増加する。

 金融政策だけでは限界がある。それだけに「プレミアムフライデー」「働き方改革」といったことが提案されている。しかし、これらは残念ながら掛け声だけの面があり、政策としては実体が乏しく、上滑り過ぎるのではないか。

 民進党、連合など野党勢力は、政府の揚足を取っているだけではなく、少しは日本経済に寄与することを提案すべきである。そうでなければ、ますます国民から見捨てられることになる。

 残業料率が高くなれば、経営サイドもそれこそ働き方、働かせ方を真剣に考えることになる。世界的に劣悪で悪名が高い1時間当たり生産性も改善に向かう契機となる。

 残業料率が引き上げられれば、所得が上がり、消費購買力の向上にもつながる。これこそ歴史的な大改革で、よいことが少なくない。アベノミクスというタームもあまり聞かなくなったが、残業料率引き上げをアベノミクスの新しい目玉にするべきではないか・・・。

(小倉正男=『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)

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