買い落城の安峠・売り落城の高峠=犬丸正寛の相場格言

【先人の教えを格言で解説!】
(犬丸正寛=株式評論家・平成28年:2016年)没・享年72歳。生前に残した相場格言を定期的に紹介。)※最新の情報に修正を加えてあります

■買い落城の安峠・売り落城の高峠

買い方が力尽きて底値をつける局面が「安峠」、売り方が追い詰められ高値を形成する局面が「高峠」である。落城とは戦いに敗れて城を明け渡すことであり、峠は転機を意味する。安峠は底、高峠は天井の比喩だ。戦いには本来相手がいるが、株式投資では「銘柄を自分で選ぶのだから相手は存在しない。戦う相手は自分の欲だ」と考える人もいるだろう。しかし、最終的に欲との勝負になるにせよ、投資家は常にマーケットという戦場に立たされている。矢や砲弾こそ飛んでこないが、投資家の欲を揺さぶる心理戦が絶えず続いている。

戦国時代に大小の戦が各地で展開されたように、株式市場でも小さな相場から大きな相場までさまざまな局面があり、「買い方」と「売り方」がぶつかり合う。市場参加者は外国人投資家、生損保、投信、郵貯、年金、企業、金融機関、団体、個人など幅広い。しかし厄介なのは、彼らが固定的に買い方・売り方に位置づけられるわけではない点である。株は買えば必ず売る局面が訪れ、昨日は味方でも今日は敵に回ることがある。そうした意味でも、株式市場は戦国時代以上に予測が難しい世界といえる。

現在は外国人投資家が大規模な勝負を仕掛ける存在だが、10数年前までは仕手筋が相場を動かしていた。信用取引を武器に、買い方と売り方が激しく攻防を繰り広げた時代である。信用取引とは資金を借りて株を買う、あるいは株券を借りて売る行為で、当時の仕手筋は多くが買い方として空売りを仕掛ける売り方と戦った。三光汽船、グリコ、住友鉱山、帝国石油、不二家、中山製鋼など、昭和40年代には信用取引をめぐる熾烈な争いが相次いだ。信用取引には6ヶ月という期限があったため、勝敗は明確に決着した。

買い方が敗れた場合は、借入金を返済するための投げ売りが底値を生み、「買い方落城」の安峠となる。売り方が敗れる場合は、損を覚悟した買い戻し、いわゆる踏み上げが発生し、相場は高値をつけて「売り方落城」の高峠を形成する。現在は往時のような仕手筋は少ないが、その構図を外国人投資家に置き換えれば理解できる場面は多い。彼らはM&Aで日本企業と戦い、最終的には個人投資家に自らの買い持ち株を引き受けさせるような展開すら見え隠れする。市場の波に飲まれないためにも、日本の投資家としての矜持を改めて問い直したいところである。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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