【小倉正男の経済羅針盤】『炉心溶融』隠ぺいというコンプライアンス違反

日インタビュ新聞ロゴ

■「炉心溶融」を伝えたのは地元の地方紙

小倉正男の経済羅針盤 「炉心溶融」、これをひた隠しに隠した東電の罪は深すぎる――。情報を出さずに隠ぺいして人々の命を危険にさらした。日本人のほとんど半分ぐらいが、生死を分ける危機にあった。

 もちろん、「トモダチ作戦」に従事したアメリカ空母も危険にさらされたのは想像できるところである。

 原発事故の当時、東京の大手新聞も「炉心溶融」という記事は書かなかった。今頃になって、東電や民主党(当時)の批判をしているが、厳しく広げて言えば、これも同罪に近いのではないか。少し厳しすぎるかもしれないが、記者クラブでお国の情報を流しているクセが付きすぎているのではないか。

 あの当時、「炉心溶融」をいち早く活字にしたのは、「福島民友」とか「福島民報」といった地元の地方紙である。私は、あのとき、福島民友をネットで読んで、ゾッとしたことを覚えている。これは東京など首都圏も危ないかもしれない、鹿児島あたりに避難する必要があるのではないか、と。

■「情報なし」=国民よ、東電の株主よ、それでよいのか

 当時の民主党政権も褒められたものではなかった。「直ちには――」とか、安全・安心を強調した。動揺は避けられたが、事実・現実を十分に国民に伝えていたといえるだろうか。

 あの時、私や私の家族は首都圏に残ったが、最悪の場合はどうなっていただろうか。最悪のケースを想定した現実・事実を情報として知らされなければ、人間は生き残ることができない。

 株でいえば、東電の株主もゾッとしたはずである。ここでも情報は何もなかった。

 東電株というのは、お金持ちの老人たちが大量に所有している傾向があった。業績が安定していて高配当、潰れる心配がなく利回りが高い――。当然ながら値がさ株だったが、いまは低位株でしかない。

 株主にも情報は出されず、現実を知らされなかった。値がさ株はほとんど紙屑のような価値に下がった。株主たちよ、お金持ちだからといって諦めることはない。もっと怒ってよいのではないか。

■最大級のコンプライアンス違反=「炉心溶融」隠ぺい

 コンプライアンスにも大小というか、程度の問題がある。
だが、東電の「炉心溶融」隠ぺいは、株主のみならず、日本人あるいは日本に住んでいる人々に対して最大級のコンプライアンス違反行為だったのではないか。

 舛添要一氏の問題でも、不適切だが適法、適切とはいえないが法には触れない、といった事態があった。

 「炉心溶融」隠ぺいも、不適切だが法には触れないという類のコンプライアンスなのだろうか・・・。

 これをコンプライアンスに反するものとして問題にできないとすれば、日本のコンプライアンスとは「飾り」のようなものでしかないということになる。

 (経済ジャーナリスト 『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数。東洋経済新報社編集局・金融証券部長、企業情報部長,名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事など歴任して現職)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■パウエル議長「金融政策を調整する時が来た」  パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、「金…
  2. ■7年の歴史に幕、オフライン版の配信も予定  任天堂<7974>(東証プライム)は8月22日、スマ…
  3. 【プロパティマネジメント業界で働く274名へ調査】  インフォマート<2492>(東証プライム)は…
2024年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

ピックアップ記事

  1. ■地政学リスクに備え、関連セクターへの投資検討が急務に  中東情勢の緊迫化に伴う株式市場の反応を分…
  2. ■日経平均の急反発、「遠い戦争」楽観論に疑問符  株式市場はフライング好きであり、今回のイラン・イ…
  3. どう見るこの相場
    ■中東危機で株式市場にフライング、楽観視に警鐘  株式市場は、つくづくフライング好きである。過日9…
  4. ■割安な株価と高配当で注目集める超大型IPO、民営化銘柄への波及効果も  新内閣発足と総選挙に合わ…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る