【ガソリン暫定税率ついに廃止】半世紀の“暫定”に幕、家計・企業・財政を揺らす重大転換

■ガソリン・軽油の暫定税率廃止法成立

 ガソリン暫定税率廃止法は11月28日に成立し、ガソリン税25.1円は2025年12月31日、軽油引取税17.1円は2026年4月1日に廃止されることが正式に決まった。1974年に導入された「一時的措置」は半世紀を経て終わる。政府は流通の混乱回避を目的に補助金を段階的に引き上げ、12月11日には1リットルあたり25.1円に達する見通しである。値下がりの実感には一定のタイムラグが生じるとみられるが、家計が実感できる水準の値下がりが期待される

■経済への影響:消費押し上げと物価下押しが同時に進行

 ガソリン・軽油の暫定税率廃止は、家計と企業の燃料負担を恒久的に引き下げる制度転換である。補助金拡大と税廃止が段階的に入れ替わる構造となり、価格を緩やかに押し下げる設計である。暫定部分の撤廃により価格体系は本来の形に近づくが、同時に年間1~1.5兆円の税収減が発生し、国と地方の財源再構築が避けられない。

 一方、燃料価格の低下は家計の可処分所得を押し上げ、実質GDPを0.3~0.4ポイント押し上げるとの試算がある。物流・製造・小売など燃料依存度の高い産業ではマージン改善が期待され、所得と消費を通じて景気を押し上げる。他方、ガソリン・軽油はCPIウエイトが大きく、物価上昇率を0.2ポイント程度押し下げるとされる。このため、賃上げと物価2%目標の同時達成をめざす政府・日銀にとっては調整要因となる。また、税収減に伴う財政悪化懸念が強まれば、長期金利に上昇圧力がかかる可能性もある。

■企業業績への波及:陸運・小売・航空で燃料負担が大きく改善

 燃料コストが主要費用である陸運と宅配は最大の恩恵を受ける。NXホールディングスは軽油価格低下で利益押し上げが期待されるが、運賃競争が拡大すれば効果が削がれる可能性がある。ヤマトHDやSGホールディングスも、ラストワンマイルの燃料負担軽減が収益改善につながる。小売・外食は物流費低下に加え、ガソリン代の減少による可処分所得の増加が需要押し上げに寄与する。航空ではジェット燃料価格の低下がANAHDやJALの業績に直結し、海運も内航燃料負担の軽減がプラスとなる。石油元売りは税率低下が中立である一方、価格競争激化がマージンを圧迫する可能性がある。再エネ・省エネ関連は燃料安で短期的に投資判断が慎重化しやすいが、脱炭素政策の軸は変わらない。

■市場の行方:短期は景気敏感株に資金、長期は脱炭素が核心テーマ

 株式市場では短期的に景気敏感株への買いが入りやすい。陸運・物流・小売・外食・航空など、燃料コスト改善の恩恵が早期に表れる業種が中心となる。中期的には税収減を踏まえた代替財源議論が本格化し、企業向け優遇税制見直しや新たな間接税の可能性が企業収益と市場心理に影響する。財政悪化が意識されれば長期金利上昇が進み、高PERのグロース株にはバリュエーション調整圧力がかかる局面もあり得る。長期的には国内燃料需要の構造的減少が続くため、石油元売りは脱炭素対応の速度と戦略が株価の主要ドライバーとなる。

 ガソリン・軽油の暫定税率廃止は、燃料価格の正常化と家計・企業負担の軽減という明確な効果をもたらす一方、財政負担や金利動向という新たな課題も突き付ける。燃料コスト革命は、物価・景気・財政が交錯する政策テーマとして、今後の経済運営と市場動向を左右する重要な転換点になるといえる。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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