【小倉正男の経済コラム】サラダクラブ キャベツ1玉1000円で「パッケージサラダ」初購入客増加、「100円の壁」というタブー消滅

■24年11月~25年前半にキャベツ1玉800~1000円

 つい最近のことでも、そんなことがあったかな、とすっかり忘れることが少なくない。

 「パッケージサラダ」のトップ企業であるサラダクラブは、毎年、『サラダ白書』を発表している。その発表会に出席したのだが、会場の入り口でこの2月に就任した新谷昭人社長と名刺交換をした。「原価は、いまは落ち着きましたが、就任した時期は大変でした」。最初にそんな話を伺った。

 サラダクラブは、「パッケージサラダ」の原材料として、キャベツ、レタスなどを日本でいちばん使っている企業である。「原価」とはキャベツ、レタスなど野菜類にほかならない。

 ところが、24年11月あたりからキャベツの卸価格が急高騰し12月にはピークを付けた。その後も25年2月あたりまで高値が続いている。当時は、「キャベツ1玉800~1000円」と大きく騒がれたものである。

 「パッケージサラダ」企業の経営からしたら、「キャベツ1玉800~1000円」という原価高騰は、経営の危機以外の何物でもない。キャベツの価格は、いまは落ち着いている。だが、昨年末~今年初にはそうした異常な高値に見舞われていたわけである。

■「100円の壁」という「パッケージサラダ」業界の試練

 サラダクラブは、キャベツ高騰により3月1日店着分から20品目の値上げを実施している。

 1月31日に値上げを発表。「主要原材料のキャベツ、レタスの生育不足による価格高騰、資材費、物流費、エネルギー費、人件費上昇を企業努力だけでは吸収するのが困難な状況――」。背景に異常気象があるのだが、インフレによるコスト増で値上げに踏み切っている。

 注目されたのは、基幹商品である千切りキャベツ、ミックスサラダ、コーンミックスサラダなどの参考小売価格(税別)が100グラム100円から130円に改訂されたことだ。特に千切りキャベツは、原価高騰から120グラムを100グラムに容量減対応して100円にとどめてきた経過がある。そのうえで130円に改訂したわけである。

 「パッケージサラダ」業界では、「100円の壁」というものが言われ続けてきている。千切りキャベツで100グラム100円を超えて130円、という価格設定ははたして消費者に受け入れられるのか――。「キャベツ1玉800~1000円」という“狂騰”は、サラダクラブにとっては試練にほかならなかったことになる。

 しかし、幸いだったのはキャベツ、レタスなど高騰が結果として短期で収まったことだ。6月1日店着分から値下げが行われている。例えば、千切りキャベツは120グラムに容量を戻して130円から120円に値下げしている。ミックスサラダ、コーンミックスサラダは100グラム130円から120円に値下げしている。

■「キャベツ1玉購入するよりは・・・」と新規購入客が急増

 キャベツ、レタスの“狂騰”は、案に相違して「パッケージサラダ」に恩恵をもたらした面がある。「初めてパッケージサラダを購入する層が7%増となった。キャベツ1000円ということで、キャベツ1玉を買うよりパッケージサラダを購入したほうが賢い、相対的に安い」(新谷社長)。

 新谷社長が語っているのは、24年12月~25年2月のキャベツ高値時に「パッケージサラダ」を初めて購入する客が45%(前年同期は38%)と7%増になったという現象を指している。キャベツ1玉1000円ということで、「パッケージサラダ」に対する需要が増えたというわけである。

 新規購入客増加が押し上げたのか、「24年12月~25年2月は業界全体で130%の伸長になった」(新谷社長)。キャベツ“狂騰”時に業界全体の売り上げは30%成長となっている。

 さらに結果としては「100円の壁」も超えてしまった。千切りサラダでいうと現状は120グラム120円の参考小売価格に落ち着いている。しかし、何が何でも100円の価格にしなければならないという縛りは消滅している。

 キャベツ1玉1000円という事件が産み落とした「塞翁が馬」といえるかもしれない。もっとも塞翁が馬というのは、禍福は糾える縄の如しという意味である。異常気象のいまは先々何が起こるかわからない。ともあれ、この24年後半~25年初に「パッケージサラダ」業界ではなかなか稀有な現象が起こっていたわけである。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

関連記事


手軽に読めるアナリストレポート
手軽に読めるアナリストレポート

最新記事

カテゴリー別記事情報

ピックアップ記事

  1. ■地域と共に築いた「鮪解体ショー」で世界一の舞台へ  銚子丸<3075>(東証スタンダード)は、同…
  2. ■速乾・吸水機能を備えたブラ&ショーツ、11月7日から応援購入受付  グンゼ<3002>(東証プラ…
  3. 日産自動車 日産 NISSAN
    ■経営再建計画の一環として保有資産を最適化、20年間の賃貸借契約で本社機能維持  日産自動車<72…
2025年12月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

ピックアップ記事

  1. ■眠れる6900トンの金が動き出す、「都市鉱山」開発でリデュース株に追い風  今週の当コラムは、金…
  2. ■天下分け目の12月10日、FRB利下げで年末相場は天国か地獄か?  天下分け目の12月10日であ…
  3. ■AI・データセンター需要拡大に対応、測定能力は従来比最大2倍  リガク・ホールディングス<268…
  4. ■売り方手仕舞いで需給改善が後押し  師走相場では、リスクの大きい銘柄であっても、逆日歩のつく信用…
  5. ■師走相場は最終レースさながら、勝ち負け分ける「掉尾の一振」に熱視線  師走である。礼節一点張りの…
  6. ■金利環境改善が銀行株に追い風、逆張りの買いも有力視  今週の当コラムは、銀行株に注目することにし…

アーカイブ

「日本インタビュ新聞社」が提供する株式投資情報は投資の勧誘を目的としたものではなく、投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終的な決定はご自身の判断でなさいますようお願いいたします。
また、当社が提供する情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、予告なく削除・変更する場合があります。これらの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。
ページ上部へ戻る