【小倉正男の経済コラム】「南北首脳会談」トランプ大統領はどう見極めるのか

小倉正男の経済コラム

■トランプ大統領とマーケット

 トランプ大統領の「保護主義」には、共和党からも批判というか、大人がたしなめるような動きも表面化した。

 ――法人税減税、個人減税とアメリカの景気にせっかく追い風を吹かせようとしている。そのときに「保護主義」を持ち出して景気に水をかけるようなことをするべきではない――。

 共和党のライアン下院議長などの発動停止・撤回に向けての発言はかなりまっとうな感がある。(カネ持ちに偏った)減税の是非はあるが、ともあれその減税をほめて、そのうえで「保護主義」を取り下げろというのだから、説得の作法としては完璧である。

 それでもトランプ大統領は、「撤回しない」「貿易戦争になるとは思わない。簡単に勝てる」と相変わらずである。他人のいうことは聞かない、聞けない。

 鉄鋼25%、アルミニューム10%の輸入関税を課すというトランプ大統領の政策だが、もともとはアメリカの貿易収支大幅赤字が発端である。それならそれで違う政策がありそうなものだが、いきなり高関税による輸入制限に手を出そうとしている。

 トランプ大統領は、なんでも手を突っ込まないと気がすまないわけだが、そのつど為替(=ドル)が売られ、株が売られている。
マーケットは、機関投資家やら投機筋やらが相場を支配して酷い乱高下を繰り返している。下げるにも上げるにも、理屈と絆創膏はどこにもくっ付くというやり方である。

■「南北首脳会談」――マーケットは半信半疑

 そんなところに「南北首脳会談」合意の一報である。
「体制が保障されるなら核を保有する理由はない」と北朝鮮の金正恩委員長が合意したというのだが、どこまで信じてよいことなのか。

 6日のNY株価はやはり半信半疑――。高関税による貿易戦争懸念が拭えないという問題が残っている面があるが、「南北首脳会談」には気迷いをみせている。ドル円の為替も大きく反応することはなかったが、その後はやはり「保護主義」=貿易戦争への懸念からドル安に転じている。
ただ、ナスダックは上昇、IoTなどハイテク関連はかりそめの「平和」でも歓迎といったところである。

 トランプ大統領は、「北朝鮮は非常に前向きに行動している」と評価しながらも、「様子をみよう」としている。どちらかというと、いわばまっとうな態度をとっている。核放棄が本物かどうかを見極めるというわけである。

■常套手法に騙されることはないか

 ただし、北朝鮮が“時間稼ぎ”をしているのは間違いないところではないか。北朝鮮は韓国の文在寅大統領を抱きこんで「平和」を演出して、核放棄まで装っている。――そうみるのが現状では自然というしかないだろう。

 確かに、いまは見守るしかない。だが、北朝鮮の手法はいつも巧妙である。想像を超越するようなやり方を平気でやる面がある。

 何度も使われている常套手法だが、くっついたり離れたりで時間を稼ぎ、核とロケットの完成を進めているとみられる。ついつい騙される。“オレオレ詐欺”みたいなものである。
 ずるずると北朝鮮のペースで引きずられてまたしてもやられましたということになるのではないか。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)

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