建設技術研究所は目先的な売り一巡、24年12月期減収減益予想だが保守的

 建設技術研究所<9621>(東証プライム)は総合建設コンサルタントの大手である。成長戦略として、グローバルインフラソリューショングループとしての飛躍を目指すとともに、インフラ整備を通じた「サステナビリティ」の実現にも取り組んでいる。23年12月期の連結業績(不適切な原価管理に関する社内調査のために遅れていたが3月26日に発表、不適切な原価管理の影響は軽微)は受注が好調に推移して大幅増収増益だった。24年12月期は不透明感や人件費増加などを考慮して減収減益予想としている。ただし、国土強靭化関連など良好な事業環境を勘案すれば保守的な印象が強く、上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。株価は2月の高値圏から反落し、24年12月期減収減益予想も嫌気して上値を切り下げる形となったが、目先的な売り一巡して出直りを期待したい。

■総合建設コンサルタント大手

 総合建設コンサルタントの大手である。23年4月に株式会社設立60周年(前身の1945年創立の財団法人建設技術研究所から数えると創業78年)を迎えた。河川・ダム・海岸・海洋、道路、橋梁、トンネル、都市・地方計画などの分野に強みを持ち、22年12月期には環境総合リサーチを新規連結した。海外は、建設技研インターナショナルが東南アジア、英国Waterman Group Plc(ロンドン証券取引所上場)が英国を中心に展開している。

 23年12月期のセグメント別の業績は、国内建設コンサルティング事業の受注高が22年12月期比6.8%増の621億61百万円、売上高が10.9%増の644億73百万円、セグメント利益(調整前営業利益)が29.9%増の89億43百万円、海外建設コンサルタント事業の受注高が9.4%増の303億12百万円、売上高が12.9%増の285億83百万円、利益が5.2%減の10億73百万円だった。

■グローバルインフラソリューショングループ目指す

 グローバルインフラソリューショングループとして飛躍することを目指し、CTIグループ中長期ビジョン「SPRONG2030」では、目標数値として30年度の売上高1000億円(単体600億円、主要グループ会社400億円)(国内720億円、海外280億円)、営業利益率9%(単体10%、主要グループ会社7%)、社員数5000人を掲げている。

 中長期ビジョン目標達成に向けた第1ステップとなる中期経営計画2024(発注単価上昇と生産性向上によって利益率が改善しているため23年2月14日付で営業利益および営業利益率の目標値を上方修正)では、経営目標値として24年12月期の連結ベース受注高850億円、売上高850億円、営業利益77億円(従来は68億円)、営業利益率9.1%(同8.0%)、ROE10%以上、建設技術研究所単体ベースの受注高550億円、売上高550億円、営業利益64億円(同55億円)、営業利益率11.6%(同10%)、社員数2300人を掲げている。

 CTIグループ全体の重点施策として、グループ協業の推進による事業拡大、主要グループ会社の安定経営と収益性の改善、グループガバナンスの強化、グループ全体でのサステナビリティ経営の推進に取り組む。社会の課題に応じた重点事業分野(防災・減災、都市・建築、土壌・地盤・地質、環境マネジメント、エネルギー、PPP事業など)を設定し、その売上高伸長を目指す方針としている。

 21年12月にはサステナビリティ委員会を設置した。さらに、健康経営、ダイバーシティ&インクルージョン、従業員の成長と自律を縫合した「CTIウェルビーイング」に取り組むため、社内宣言ならびにCTIウェルビーイング基本方針を策定した。22年1月には、企業活動を通じて次世代育成に貢献するため一般事業主行動計画を策定した。

 22年6月には「知的財産に関する基本方針」を策定した。また、インフラ整備を通じた「サステナビリティ」の実現に向けて、さまざまな提案に取り組むための方針として「CTIグループ・サステナブルチャレンジ」を策定した。22年7月にはAIを適切に活用していくことを社内外に宣言することを目的として「CTIグループAI倫理指針」を策定した。また22年7月には、女性活躍推進法に基づく優良企業として、厚生労働大臣から「えるぼし」認定の二つ星(2段階目)を取得した。

 22年12月には、22年6月に策定した「CTIグループ・サステナブルチャレンジ」の宣言内容の実現に向けて、具体的な推進計画を策定・公表した。23年1月にはサステナブル事業会社CTIアセンドを設立し、福島県相馬市で子実トウモロコシ栽培・ウイスキー製造販売に取り組むと発表した。

 23年7月にはリスクマネジメントを強化するため、リスクマネジメント基本方針を策定し、リスクマネジメント体制を構築したと発表している。また人材力強化を目的に、月例給与の平均6%アップを含む等級・人事考課・報酬制度などを全面的に改革した新たな人事処遇制度を23年4月に導入したと発表している。

 23年10月には24年12月期の研究開発投資の基本方針を公表した。事業展開の加速や持続可能な社会の構築を目的に総額を13億円(23年12月期予算から1億円増額)とした。このうち社会のサステナビリティを実現するための投資(グリーン関連研究揮発)の予算を3.5億円とした。23年12月にはパートナーシップ構築宣言およびマルチステークホルダー方針を公表した。

 23年1月には企業活動を通じて次世代育成に貢献するため、次世代法に基づいた一般事業主行動計画(行動計画期間24年1月1日~25年12月31日)を策定・公表した。男性の育児目的休暇取得率100%、育児・介護と仕事の両立支援に向けた管理職啓発や職場環境改善、子供や家族に社員の職場理解を促進する活動などを推進する。

■資本コストや株価を意識した経営について

 24年3月に資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた方針・取り組みをリリースした。株主資本コストを7%前後と認識(市場リスクプレミアムを6~7%程度としてCAPM法により推定)し、中期経営計画2024ではROE目標を10%以上としている。そして2023年12月期のROEは14.7%となり、株主資本コストとROE目標を超過する水準を維持している。

 株価指標については、PBRは概ね1倍台前半で推移しているものの、PERについては東証プライム上場企業の平均より低く評価されている。このためPBRとPERの向上に向けた取り組みとして、中長期成長戦略の推進による利益成長の実現、成長投資との適切なバランスを取った株主還元の充実、IR・SRの強化により企業価値の向上を目指す方針としている。なお株主還元について、中長期的には連結配当性向30%程度以上を目安とした利益還元を目指すとしている。

■新分野・新事業への展開を加速

 22年1月には新分野や新事業への展開を加速するため、SBIホールディングス<8473>の子会社SBIインベストメントが運営する「SBI4+5ファンド」に出資した。本ファンドが出資するスタートアップ企業を支援するとともに、スタートアップ企業との連携による技術開発や事業開発に取り組む。

 23年1月には同社が参画している「不動産分野におけるレジリエンス検討委員会(D-ismプロジェクト)」において、不動産に関わる新たな認証制度「ResReal(呼称:レジリアル)」が創設された。不動産の自然災害に対するレジリエンスを可視化して認証を行う本邦初の制度である。23年3月にはフォトンラボとの業務提携、および国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)との共同研究により、道路トンネル内のロボット点検技術として社会実装を進めてきた「レーザー打音検査装置」を国内で初めてトンネル内装曲面タイルパネルの診断支援に活用した。

 23年6月には、沖縄県伊平屋島において次世代交通システム「空飛ぶクルマ」試験飛行を実施・成功した。23年8月には、AirXおよび一般社団法人MASCと連携し、兵庫県の「空飛ぶクルマ実装促進事業」および神戸市の「神戸市空飛ぶクルマ社会実装促進事業」に採択された。電動、自律飛行、垂直離着陸の特徴を備えた新たなモビリティである「空飛ぶクルマ」の社会実装に向けた環境整備に資する実証を行う。

 23年10月には地域特性や住民行動実態を反映した避難対応ソリューションサービスを開始した。23年11月にはAIと航空写真を用いた河川の土砂堆積解析技術の開発を発表した。23年12月には、ドローンで運搬できるGPSセンサとセンサ位置の変位によって土石流の発生を検知するクラウド型システムの開発を発表した。このシステムにより、安全かつ迅速に土石流等の発生を判定することができるようになる。

■24年12月期減収減益予想だが保守的

 23年12月期の連結業績は、売上高が22年12月期比11.5%増の930億57百万円、営業利益が24.9%増の100億11百万円、経常利益が23.3%増の101億53百万円、親会社株主帰属当期純利益が28.2%増の75億34百万円だった。なお不適切な原価管理の影響は軽微だった。配当(23年11月10日付で期末50円上方修正)は、22年12月期比50円増配の150円(期末一括)とした。配当性向は27.7%となる。

 受注が好調に推移(全社ベースの受注高は7.7%増の924億73百万円)して大幅増収増益だった。国内建設コンサルティング事業は受注高が6.8%増の621億61百万円、売上高が10.9%増の644億73百万円、セグメント利益(調整前営業利益)が29.9%増の89億43百万円だった。受注の好調に加え、大畑案件の受注や業務単価の上昇なども寄与した。海外建設コンサルタント事業は受注高が9.4%増の303億12百万円、売上高が12.9%増の285億83百万円、セグメント利益(同)が5.2%減の10億73百万円だった。受注が好調に推移して2桁増収だが、人件費高騰の影響などで小幅減益だった。

 全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が247億60百万円で営業利益が37億42百万円、第2四半期は売上高が228億63百万円で営業利益が34億24百万円、第3四半期は売上高が213億92百万円で営業利益が11億65百万円、第4四半期は売上高が240億42百万円で営業利益が16億80百万円だった。

 24年12月期の連結業績予想は売上高が23年12月期比4.4%減の890億円、営業利益が16.1%減の84億円、経常利益が16.3%減の85億円、親会社株主帰属当期純利益が19.0%減の61億円としている。配当予想は23年12月期と同額の150円(期末一括)としている。予想配当性向は34.1%となる。

 24年12月期は不透明感や人件費増加などを考慮して減収減益予想としている。ただし、国土強靭化関連など良好な事業環境を勘案すれば保守的な印象が強く、上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。

■株価は目先的な売り一巡

 株価は2月の高値圏から反落し、24年12月期減収減益予想も嫌気して上値を切り下げる形となったが、目先的な売り一巡して出直りを期待したい。4月2日の終値は4810円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS439円98銭で算出)は約11倍、今期予想配当利回り(会社予想の150円で算出)は約3.1%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS3958円89銭で算出)は約1.2倍、そして時価総額は約681億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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