【小倉正男の経済コラム】トランプ2.0「ウクライナ戦争」終結でディール

■ロシアに「ウクライナ戦争」終結合意を要求

 トランプ大統領は「タリフマン」(関税男)を自称している。「辞書の中で最も美しい言葉は関税だ」。そうした決めセリフを何かといえばうそぶいている。トランプ2.0、とりわけ「関税戦争」に世界は戦々恐々の体である。

 ロシアのプーチン大統領といえば、トランプ大統領に勝るとも劣らない強面だ。交渉事はトランプ大統領以上にタフであり、一筋縄ではいかない。トランプ大統領は、そのプーチン大統領に「ウクライナ戦争」の早期終結に合意をしなければ、ロシアと他の参加国に高水準の関税と追加制裁を課すと警告を発している。いわばディール(取り引き)をもちかけている。

 しかし、ロシアに「関税戦争」を仕掛けるにしても、米国のロシアからの輸入は21年296億ドル、22年144億ドル、23年45・7億ドルと大幅に減り続けている。24年は30億ドル台にとどまったとみられる。石油、アルミニウム、銅、ニッケルなどロシアの戦争原資になりそうな鉱物は軒並み輸入停止措置がとられている。いまは一部希少金属のみの輸入に限定されている。

 こうなるとトランプ大統領の「関税戦争」はロシアには有効にはみえない。「他の参加国」とはどこを指しているのか曖昧にされている。ロシアを筆頭にこれらには「タリフマン」は通用しない。何か新しい制裁を追加しないと埒があかない。

■戦争終結合意は難航か

 プーチン大統領が発言している「ウクライナ戦争」和平交渉の条件は、ウクライナの無条件降伏を意味するものにほかならない。

 ロシアが闇雲に侵略しているルハンシク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの4州のロシア領への正式併合を主張している。第二にウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟は認めない。要するにロシアはウクライナの主権を認めない。ウクライナはロシアの従属国になるということを戦争終結の条件としている。

 ウクライナはロシア軍のウクライナ領土からの撤退を要求している。それがなければロシアの再侵攻の恐れがあり、終結交渉には応じられない。仮に一歩譲っても一時的にロシアに占領されている領土の主権を手放すことはない。領土の一体性保持では譲歩しない。さらに実現可能性はどうあれ安全保障面からNATO加盟の意思は変えない。NATO加盟がなければ「プーチンが再び戻ってくる」という可能性が拭えない。ウクライナとしてはどうあっても「主権」を確立したい。

■付け焼刃の戦争終結合意では永続性はない

 トランプ大統領のディール案は、ウクライナのNATO加盟は長期的に見送りさせることを要件としている。これによりプーチン大統領を戦争終結交渉に応じさせる。

 その代わりにウクライナには包括的安全保障を含む和平案を提示する。包括的安全保障案はウクライナ、そしてゼレンスキー大統領を納得させるものになるのか。おそらく欧州諸国が分担・編成する平和維持軍がウクライナに駐留する。そのあたりの枠組み、規模などが終結交渉の焦点になるとみられる。

 ロシアが侵略(占領)しているウクライナ東部・南部4州、クリミア半島などの取り扱いは簡単には片付かない。ロシアは占領地の主権を要求する。ウクライナは占領という事実はあっても主権は手放さない。お互いに相容れない交渉になる。

 トランプ大統領は、「ガザ戦争」に続いて「ウクライナ戦争」を終結させたい。その意欲は相当に強いとみられる。俗説では、トランプ大統領がこれらのレガシーを残すことになれば、ノーベル平和賞の有力候補になるという見方が流布している。

 ただし、事を急いで付け焼刃の戦争終結合意になれば永続性の保証は乏しいものになる。結果としてのレガシーならそれもよいが、安易にレガシーを狙うとなれば手酷い歴史的な蹉跌を招くことになりかねない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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