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【小倉正男の経済コラム】FOMCは3会合連続0.25%利下げ、インフレ懸念は後回し トランプ大統領は大幅利下げ要求し次期FRB議長選定
- 2025/12/12 09:15
- 小倉正男の経済コラム

■雇用下振れに重点、インフレ懸念は後回し
米連邦準備制度理事会(FRB)は、12月10日の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利下げを決定した。9月、10月のFOMCに続いて3会合連続で0.25%の利下げを実施したことになる。
「雇用の伸びは鈍化し、失業率は9月までやや上昇した。インフレ率は今年初めから上昇し、依然やや高止まりしている」(FOMC声明)。パウエルFRB議長、あるいは同氏が委員長であるFOMCは、雇用の下振れ、インフレ(物価)の上振れリスクを抱えている。
パウエル議長は10月FOMC直後の会見で「12月の次回会合での追加利下げは既定路線ではない。そのような状況とは程遠い」と発言。3会合連続の利下げにきわめて否定的な立ち位置を表明している。“12月に利下げはない”と断言したに等しい。
つまり、雇用下振れリスクには9月、10月の利下げで対応した。12月は金利据え置きでインフレ上振れリスクに重点を移行する――。ところが、その後には3会合連続利下げを行うという見方が大勢を占めるように状況が変化している。この経過が12月FOMCの事前予想を複雑にした面がある。
結果として12月FOMCでは、9月~10月と同様に雇用低迷に重点を置いたことになる。政策金利は3.50~3.75%に引き下げられている。インフレ懸念は“後回し”にされた。同時に二つは叩けないが、インフレ後回しは禍根が残るのは間違いない。
■FOMC意見分裂「9名賛成、3名反対」
12月FOMCでは9名の当局者が賛成、3名が反対している。反対したうちの2名は、インフレ懸念を重視して金利据え置きを主張している。
カンザスシティ連銀シュミッド総裁は、10月FOMCでインフレ警戒から利下げに反対、12月FOMCでも同様の立場を継続した。今回はシカゴ連銀グールズビー総裁が戦列に加わっている。
インフレはFRB目標(2%)を長期間上回っている。その事実は3会合の連続利下げを正当化できないという立場だ。10月FOMCでは投票権がない地区連銀総裁から利下げに反対する意見が相次いで表明された。12月FOMCではそうした地区連銀総裁の意見分裂の動きが一層強まっている。
反対を表明したもう1名は、大統領経済諮問委員会委員長から転身したミラン理事だ。8月に欠員補充ということでトランプ大統領がFRB理事に押し込んだ人物である。ミラン理事は「トランプ関税」の立案者であり、住宅市場の不況を理由に毎回のことだが0.50%の大幅利下げを主張している。
■ハセット氏はトランプ大統領が望む低金利をもたらす人物か?
当のトランプ大統領は、「(12月FOMCに対して)利下げ幅はかなり小さい、少なくとも倍の幅に拡大できたはずだ。米国は世界で最も低い金利であるべきだ」と語っている。
トランプ大統領は、自らの政権の意向に中立・独立性を保っているパウエル議長に悪態の限りを尽くしている。今回は3会合連続の利下げなのだが、それでもなお不満を隠さない。
トランプ大統領は、新年5月に交代時期を迎えるパウエルFRB議長の後任選びの最終段階に入っている。「米国の金利水準はもっと低いものであるべきだ」というトランプ大統領の意向に沿う人物を次期FRB議長に選定すると公言している。
現状では、次期FRB議長はハセット国家経済会議委員長が最有力とされている。ハセット氏はトランプ大統領の側近といわれる。仮にハセット氏がFRB議長になれば、“トランプ大統領が望む低金利をもたらす人物”と言われている。
しかし、トランプ大統領がハセット氏をFRB議長に任命、FOMC委員長となってもFOMCはハセット氏の独裁機関になる可能性は少ない。むしろFOMCの意見分裂が激化、意見をまとめるのは困難になる事態すら想定される。
もしすんなりとFOMCがハセット氏の独裁機関になるようなら低金利によりインフレが加速する。通貨ドル、米国債などの信認が低下しかねない。トランプ大統領の思うようになるのは何事もそうだが簡単なことではない。(経済ジャーナリスト)
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)






















