冨士ダイス、26年3月期大幅営業・経常増益予想、輸送機器需要回復と中国販路拡大が寄与

 冨士ダイス<6167>(東証プライム)は超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーである。成長戦略として経営基盤強化、生産性向上・業務効率化、海外事業の飛躍、脱炭素・循環型社会への貢献、新事業確立を推進している。26年3月期は輸送機器向けの需要増加、中国での販路拡大、金属・工具向け素材の好調、さらに価格改定効果などにより増収、大幅営業・経常増益予想としている。積極的な事業展開で収益回復基調だろう。株価は10月に急伸して年初来高値を更新する場面があったが、買いが続かず反落してモミ合う形だ。ただし高配当利回りや低PBRも支援材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。

■超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカー

 超硬合金製耐摩耗工具(工具・金型)のトップメーカーである。25年3月期末時点で、グループは同社および子会社7社(国内2社、海外5社)で構成され、海外はタイ、中国・上海、インドネシア、インド、マレーシアに展開している。

 24年3月には中国の現地子会社である富士摸具貿易(上海)有限公司が広東省・東莞市に新たな営業拠点を開設した。24年4月にはマレーシアの現地子会社であるフジロイ・マレーシアが、営業活動の中心を従来のペナン事務所から首都クアラルンプール事務所へ移してカバーエリアを拡大した。インドについては現地の経済環境などを鑑みて16年8月から事業を休眠しているが、今後は市場調査を行い、26年中の事業再開を目指している。

 生産拠点は、国内が郡山製造所・郡山第2工場(福島県郡山市)、秦野工場・秦野第2工場(神奈川県秦野市)、名古屋工場(愛知県名古屋市)、岡山製造所(岡山県倉敷市)、熊本製造所(熊本県玉名郡)、子会社の新和ダイス(山梨県甲州市)、冨士シャフト(福島県二本松市)で、海外がタイとインドネシアとなっている。23年9月には岡山製造所に新たなCIP装置を導入して本格稼働した。岡山製造所の生産能力を増強するとともに、次世代自動車への対応強化を図る。23年11月には熊本製造所の冶金棟のリニューアルが完了した。DX化による省人化やレイアウトの最適化による生産性向上と粉末冶金技術(粉末・成形・焼結)の向上により、生産能力の最大化を目指す。

■超硬合金とは

 超硬合金というのは、炭化タングステンに代表される硬質の金属炭化物と、コバルトなどの鉄系金属を粉末状にして混ぜ合わせ、型に入れて圧縮・成型し、粉末冶金法(融点より低い温度で焼いて固める方法)によって製造される金属材料である。ステンレスや鋼鉄を凌ぐ硬さを持ち、耐摩耗性に優れるという特性があり、高い精度が求められる金型や工具の材料として適しているため、輸送用機械、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、電気・電子部品など幅広い産業分野で使用されている。

 製品としては精密加工が施されて、主に塑性(切屑の出ない)加工に用いられる高精度かつ耐摩耗性に優れた超硬合金製耐摩耗工具となるほか、一部は中間製品である超硬合金チップとしても販売される。なお、超硬合金製耐摩耗工具の性能や寿命に関しては、顧客の設計思想や生産プロセスが色濃く反映されるため、超硬合金製耐摩耗工具の大部分は顧客ごとのカスタムメイドとなっている。

■幅広い産業分野に多品種少量の高付加価値製品を提供

 同社の製品分類は、超硬製工具類(線材やパイプの生産用工具として使用されるダイス・プラグ、鉄鋼向けの熱間圧延ロール、人工ダイヤモンドやcBNの生産用工具として使用される超高圧発生用工具など)、超硬製金型類(自動車部品製造用金型、飲料缶や食用缶などの製缶金型、車載電池用金型、ガラスレンズ生産用の光学素子成形用金型、半導体・電子部品用金型など)、その他の超硬製品(超硬合金チップなど)、超硬以外(鋼製品、セラミック製品など)としている。

 25年3月期の製品別売上高は、超硬製工具が41億83百万円、超硬製金型類が42億68百万円、その他超硬製品が42億57百万円、超硬以外製品が38億86百万円だった。主力製品は超硬製工具類のダイス・プラグ、熱間圧延ロール、超高圧発生用工具、超硬製金型類の自動車部品製造用金型、製缶金型、車載電池用金型、超硬製品の超硬合金チップなどとなっている。

 産業別売上高は輸送用機械が27.6億円、鉄鋼が25.7億円、非鉄金属・金属製品が20.1億円、生産・産業用機械が21.2億円、電機・電子部品が14.9億円、金型・工具向け素材が25.2億円だった。取引社数は約3000社に達し、国内の超硬耐摩耗工具市場で長期に亘ってトップシェア(同社推定30%以上)を維持している。

 同社は顧客ニーズを的確に捉えて、個別カスタマイズの多品種少量生産に対応する研究開発~生産~営業体制を構築し、高品質の製品を顧客に提供している。そして、超々微粒から中粒や超粗粒まで顧客ニーズに最適な粒子径や硬さの材種を提供できる新材料開発・粉末冶金技術・加工技術・品質対応力、設計~原料粉末調粉~焼結~機械加工~製品検査の一貫生産体制、豊富な製品ラインナップ、特定の業界・顧客に依存しない収益安定性などを特長・強みとしている。

 25年10月には新合金「サステロイ STN30」の開発をリリースした。同社は地政学リスクが懸念されるタングステンとコバルトを極力減らした合金を作るというコンセプトで、23年3月に「サステロイ ST60」を開発したが、今回開発した「サステロイ STN30」は材料設計を見直し、ニオブカーバイドを主成分としたことにより耐摩耗性を向上させた。軽量でありながら超硬合金と同等の耐摩耗性を実現し、耐摩耗性が求められる一方で重量のある超硬合金の使用が難しい分野(回転工具、混錬工具など)での利用が見込まれる。

 さらに同社は、競合が少ない超硬合金製耐摩耗工具で多品種少量の高付加価値製品を提供しているため、切削工具・素材メーカーが多い業界平均に比べて販売単価が高く、販売価格が安定的に推移していることなども特長としている。また財務面では、25年3月期末の自己資本比率81.0%と盤石の財務基盤を構築していることも特長だ。

■中期経営計画(25年3月期~27年3月期)

 24年5月策定の中期経営計画2026(25年3月期~27年3月期)では、中期方針に「変化に対応できる企業体質への転換」を掲げ、成長戦略として経営基盤の強化、生産性向上・業務効率化、海外事業の飛躍、脱炭素・循環型社会への貢献、新事業の確立に取り組むとしている。

 目標数値には最終年度27年3月期の売上高200億円、営業利益20億円、経常利益21億円、経常利益率10.5%、当期純利益15億円、ROE7.0%を掲げている。また、成長投資と株主還元の両方を追及する観点から配当方針を見直し、中期経営計画2026の期間における配当を、株主資本配当率(DOE)4%を目途とすることに加え、積極的かつ機動的な自己株式取得を行うことで利益還元を強化する方針とした。

 なお25年7月には100年企業に向けてグループ企業理念を見直し、新たなグループ企業理念として「社員一人ひとりの幸せを尊重し、事業を通じて広く社会に貢献する」、ビジョンとして「人と素材と技術の力で「感動体験」を」、行動指針として「誠実・好奇心・スピード、挑戦・一体感」を策定・公表した。

■26年3月期大幅営業・経常増益予想

 26年3月期連結業績予想は売上高が前期比6.5%増の176億70百万円、営業利益が22.9%増の6億円、経常利益が16.1%増の7億円、親会社株主帰属当期純利益が8.0%増の4億60百万円としている。配当予想は前期と同額の40円(期末一括)としている。予想配当性向は173.0%となる。

 輸送機器向けの需要回復、中国での販路拡大、金属・工具向け素材の好調、さらに価格改定効果などにより増収、大幅営業・経常増益予想としている。営業利益前期比1億12百万円増加の増減分析(見通し)は、売上高の増加(自動車部品関連金型の回復、中国市場深耕による販売拡大など)で10億75百万円増加、原材料費の増加(売上高増加に伴う原材料費増加、材料費率の上昇など)で2億87百万円減少、外注加工費の増加(売上高増加に伴う外注加工費増加、外注加工費率は生産効率改善効果により低下)で70百万円減少、人件費の増加(人的資本投資による増加)で4億11百万円減少、設備関係費の増加(自動化投資・IT投資)で1億30百万円減少、その他コスト増加(インド事業再開プロジェクトなどによる増加)で65百万円減少としている。

 なお主要産業分類別売上高(単体ベース)の計画については、輸送用機械が前期比1.6億円増の29.2億円、鉄鋼が1.7億円増の27.4億円、非鉄金属・金属製品が1.5億円増の21.6億円、生産・業務用機械が横ばいの21.2億円、電機・電子部品が0.5億円増の15.4億円、金属・工具向け素材が2.7億円増の27.9億円としている。

 中間期の連結業績は売上高が前年同期比1.7%増の84億17百万円、営業利益が10.7%増の3億22百万円、経常利益が22.3%減の3億06百万円、親会社株主帰属中間純利益が21.5%減の1億96百万円だった。

 計画(25年5月15日付の期初公表値、売上高87億20百万円、営業利益2億20百万円、経常利益2億70百万円、親会社株主帰属中間純利益1億70百万円)に対して、売上高は鉄鋼関係の需要減少の影響で計画を下回ったが、各利益はコスト削減効果などで計画を上回った。前年同期比では超硬製金型類の好調、棚卸資産の増加などで増収・営業増益だった。なお営業外で補助金収入が60百万円減少(前期は63百万円、当期は3百万円)したほか、為替差損益が59百万円悪化(前期は差益17百万円、当期は差損42百万円)したため、経常・最終減益だった。

 製品別の売上高は、超硬製工具類が0.2%減の20億49百万円、超硬製金型類が12.1%増の23億01百万円、その他超硬製品が8.4%増の23億47百万円、超硬以外の製品が14.3%減の17億19百万円だった。超硬製工具類は冷間圧延関連工具が堅調だったが、前期好調だった熱間圧延ロールが低調だった。超硬製金型類は製缶金型、電池関連金型、モーターコア用金型が好調に推移した。その他超硬製品は前期好調だった半導体製造装置向けの需要が落ち着いたが、超硬素材の販売が好調だった。超硬以外の製品は混練工具等の販売が低調だった。

 全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が41億25百万円で営業利益が1億75百万円、第2四半期は売上高が42億92百万円で営業利益が1億46百万円だった。

 中間期の進捗率は売上高が48%、営業利益が54%、経常利益が44%、親会社株主帰属当期純利益が43%だった。中間期が計画を上回る営業増益と順調であり、通期ベースでも積極的な事業展開で収益回復基調だろう。

■株価は調整一巡

 なお25年8月12日に発表した自己株式取得(上限は40万株または3億円、取得期間は25年8月18日~25年12月23日)については、25年12月4日時点で累計取得株式総数が35万400株、取得価額総額が約2億9998万円となって終了した。

 株価は10月に急伸して年初来高値を更新する場面があったが、買いが続かず反落してモミ合う形だ。ただし高配当利回りや低PBRも支援材料であり、調整一巡して出直りを期待したい。12月10日の終値は860円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS23円12銭で算出)は約37倍、今期予想配当利回り(会社予想の40円で算出)は約4.7%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1042円93銭で算出)は約0.8倍、そして時価総額は約172億円である。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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