【東京商工リサーチ】後継者不在率が過去最高に、事業承継の見直しを

■「後継者不在率」が初の60%超え、円滑な廃業実務の見直しも必要

 東京商工リサーチが発表した2023年の「後継者不在率」調査によると、後継者が決まっていない企業の割合は61.09%で、初めて60%を超えた。前年から1.19ポイント上昇した。政府や自治体、金融機関などの創業支援で若い経営者が増え、事業承継の時期にない企業の割合が上昇したことも一因とみられる。ただ、経営者が高齢で後継者不在の企業は残されており、廃業や事業譲渡など倒産以外の選択肢に動けない企業の増加も懸念される。

■代表者が高齢の企業は廃業や倒産の危機に

 後継者不在率は、産業別では情報通信業が最高の77.33%で、10産業すべてで50%を上回った。業種別ではインターネット附随サービス業が最高の90.44%で、唯一9割を超えた。代表者が比較的若いソフトウェア開発などが含まれることが不在率を押し上げたとみられる。都道府県別では、神奈川県が最高の74.78%で、2都県が70%を超えた。企業が多く設立される大都市ほど、後継者の不在率が高い。

 後継者が決まっている企業の内訳は、息子、娘などの「同族継承」が65.00%で最も多かった。以下、社外の人材に承継する「外部招聘」が18.11%、従業員に承継する「内部昇進」が16.44%と続く。後継者不在の企業に中長期的な承継希望先を尋ねたところ、最多は「未定・検討中」で48.16%だった。事業承継の方針が明確でない、計画が立たない企業が依然として多い。

 代表者の年齢別では、不在率の最高は30歳未満の96.32%だった。創業や事業承継から日が浅く、後継者を選定する必要がなく不在率が高い。50代までは後継者「不在」が「有り」を上回るが、60代以降で逆転する。ただ、80歳以上の不在率は23.83%、70代でも30.53%にのぼる。代表者が高齢の企業の多くが事業承継を判断しないまま、対応できていない実態が浮かび上がる。

 事業承継には、金融機関やリース債務の個人保証の取り扱い、企業理念の伝承(改変)、従業員への説明、取引先の理解など、数多くのステップがある。拙速な承継判断は、これらに対応できないまま事業価値の毀損に繋がりかねず、企業価値の合意形成に禍根を残す可能性もある。このため、代表者が高齢の企業を中心に、ライフステージと意向に寄り添う支援推進が必要だ。

 コロナ禍の支援で過剰債務に陥っている企業は多い。こうした廃業と倒産が紙一重の企業も対象に、2022年4月に準則型私的整理の「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の運用が開始された。だが、「廃業型」でも最終的に特別清算を申請するケースも散見され、私的整理のみで完結するとは言い難い。また、債務の中心が税金や社会保険料の場合は、準則型でも対応が難しい。代表者が高齢の企業では、事業承継か廃業かの判断に残された時間は長くない。「大廃業時代」を前に、これまでの対応策は円滑に機能しているのか、再点検も必要だ。(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)

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