【東証改革の光と影】悲鳴を上げる上場企業―MBO急増で初の上場企業数減少へ

■三市場への再編と厳格化するグローバル基準

 東京証券取引所が2022年4月から推進している市場改革の本質は、マーケットのグローバル化にある。従来の5つの市場区分を「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つに集約し、上場基準を厳格化した。この改革は海外投資家の資金を引き寄せるため、上場企業に対して高い収益性、十分な流動性、強固なガバナンス能力を求めるものだ。長年日本市場で許容されてきた政策保有株や親子上場、さらにはPBR1倍割れ(株価が純資産を下回る状態)の解消も要求される。プライム市場では特に、英語での情報開示や社外取締役の選任など、グローバルスタンダードに即した厳格な基準が設けられた。これにより投資家にとっては市場区分の違いが明確になり、投資判断がしやすくなったという側面もある。

■「いちゃもん」と映る改革の本質

 この改革は上場企業からすれば、東証から「株式公開はゴールではなくスタート台」などと注文をつけられ、「箸の上げ下ろしにもいちゃもんを付ける」と受け取られた側面もあるようだ。企業には資本コストや株価を意識した経営が求められ、特にPBR1倍未満の企業には改善に向けた取り組みの開示が迫られている。これは企業に株主との対話を強化させ、投資家ニーズを適切に把握・対応するよう促す意図がある。グローバルスタンダードを意識した上場基準の導入は、海外投資家の関心を集め日本の株式市場を活性化させる狙いだが、企業側には対応コストの増大をもたらしている。

■上場メリットと上場コストの天秤―老舗も選択する非公開化

 東証改革の進展とともに市場からの撤退も顕著になっている。TOB(株式公開買い付け)やMBO(現経営陣による株式公開買い付け)が急増し、市場撤退組は過去最多を記録した。2024年の上場廃止会社数は、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場合計で前々年比33社増の93社に達し、2024年末の上場会社数は3842社と初めて減少に転じた。このMBOには多くの老舗オーナー企業が名を連ねており、これらの企業は「上場メリットと上場コスト」を比較衡量した結果、非公開化を選択したということになる。上場基準の妥当性については、市場の活性化と企業負担のバランスを考慮しながら、継続的な検証と必要に応じた調整が求められている。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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