イノベーションホールディングス、飲食業の出店需要捉え業績拡大、26年3月期は増収増益・連続増配予想
- 2025/7/28 07:32
- アナリスト銘柄分析

イノベーションホールディングス<3484>(東証プライム)は、飲食業の小規模事業者を中心とする出店希望者向けに居抜き店舗を転貸借する店舗転貸借事業を主力としている。転貸借物件数の増加に伴って賃料収益を積み上げるストック型ビジネスであり、旺盛な個人・小規模飲食事業者の出店需要に対応するため積極的な人材育成と仕入を継続している。26年3月期は増収増益・連続増配予想としている。転貸借物件数が順調に増加して人件費等の増加を吸収する見込みだ。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。株価は小動きだが徐々に下値を切り上げている。モミ合いから上放れて戻りを試す展開を期待したい。なお8月8日に26年3月期第1四半期決算発表を予定している。
■飲食業の出店希望者向け居抜き店舗転貸借事業
首都圏一都三県(特に東京都)において、飲食業の小規模事業者を中心とする出店希望者向けに居抜き店舗(造作物が残っており、すぐに営業できる状態の物件)を転貸借する店舗転貸借事業を主力として、不動産業者とのリレーションシップ強化を主目的とする不動産売買事業、および独自の審査ノウハウを活用した店舗物件専門の家賃保証事業も展開している。
24年10月1日付で持株会社体制へ移行し、持株会社である同社(イノベーションホールディングス)の傘下に、事業会社として店舗転貸借事業のテンポイノベーション、不動産売買事業のアセットイノベーション、家賃保証事業のセーフティーイノベーションの3社を置く体制としている。なお同社はクロップス<9428>の連結子会社だが、営業上の取引はなく経営上の独立性を確保している。
25年3月期のセグメント別業績(当期よりセグメント費用の配分方法を変更)は店舗転貸借事業(店舗家賃保証事業の収益を含む)の売上高が151億62百万円で営業利益が12億38百万円、不動産売買事業(売買物件保有期間における賃料収益および按分した全社の販管費を含む)の売上高が14億97百万円で営業利益が1億43百万円だった。
売上高のランニング収入(転貸借物件からの賃料収入、転貸借契約更新時の更新手数料収入など継続して計上される収入)と、イニシャル収入(礼金等の手数料収入や居抜き物件に関わる造作等の売却収入など一時的な収入)の売上高の内訳は、店舗転貸借事業のランニング収入が139億78百万円、店舗転貸借事業のイニシャル収入が9億10百万円、店舗家賃保証事業が3億23百万円、不動産売買事業(イニシャル収入)が14億47百万円だった。店舗転貸借事業のランニング収入が8割強を占めるストック型の収益構造である。
■転貸借契約件数は増加基調
店舗転貸借事業は、仲介ではなくサブリースでもなく、不動産業における第6のカテゴリーと位置付けている。不動産オーナーにとっては賃貸料収入安定、不動産会社にとっては仲介収益機会獲得、店舗出店者にとっては出店費用削減、店舗撤退者にとっては閉店コスト削減というメリットがある。また飲食業は他の産業との比較で、開業・廃業による入れ替わりが激しいため市場機会が豊富という特徴もある。さらに造作物(厨房機器、テーブル、床コンクリート、排気ダクトなど)の廃棄量を削減できるという点で、持続可能な社会の実現に貢献するビジネススキームである。
保有物件数(転貸借物件数)の増加に伴って賃料収益(ランニング収入)を積み上げるストック型ビジネスモデルである。25年3月期の新規契約件数および後継付け件数(転貸借契約を解約後に次の転借人と転貸借契約を締結した物件)の転貸借成約件数の合計は前期比4.7%増の488件、期末時点で転貸借契約が締結されている転貸借物件数は261件増加の2706件となった。成約件数は営業組織の構造改革や仕入物件の対象拡大などの効果で、25年3月期第4四半期には四半期ベースで過去最高の144件(25年3月は月次ベースで過去最高の60件)となった。そして転貸借契約物件数は増加基調である。
■不動産売買事業は不動産業者とのリレーションシップ強化も目的
不動産売買事業は不動産業者とのリレーションシップ強化も目的として、長期保有は行わず一定の資金枠内で資金効率を重視して売買を行う。25年3月期は8物件を売却、8物件を取得し、期末時点の保有物件数は4件となった。なお四半期業績は物件売却によって変動する可能性がある。
■中期経営計画
中期経営計画(25年5月13日付で見直し、対象期間26年3月期~28年3月期)では、最終年度28年3月期の目標値として売上高253億42百万円、営業利益22億37百万円、経常利益21億43百万円、親会社株主帰属当期純利益13億80百万円、転貸借成約数790件、期末転貸借物件数3924件を掲げている。見直し前の計画に比べて各利益を大幅に上方修正した。さらに中長期的な目標としては31年3月期売上高300億円規模、営業利益30億円規模、転貸借物件数5500件を掲げている。
なお見直し後の配当予想については、26年3月期を48.8%、27年3月期と28年3月期を40%~45%としている。26年3月期の配当性向48.8%は見直し前の52.9%を下回る形だが、これは26年3月期の業績予想が見直し前の計画を大幅に上回る見込みとなったためであり、26年3月期の1株当たり配当金を見直し前の22円から見直し後の30円へ大幅に上方修正した。
基本方針としては、事業用に特化した店舗転貸借事業・不動産売買事業・家賃保証事業の拡大、重点施策には採用や教育の包括的強化による営業組織のさらなる拡充、各事業の特性を踏まえた顧客獲得の仕組づくりやIT化、各事業間で顧客やノウハウを共有する等の事業シナジー追求、ノウハウのデジタル化や業務のシステム化などDX化の推進、子会社への権限移譲による企業家精神の発揮や迅速な意思決定の実現を掲げている。
CSR活動としては、飲食店舗を活用した「子ども食堂」を19年6月から開催している。店舗の特性を活かして、子供達への食事提供にとどまらず、地域における居場所づくり、親御さんへの支援といった社会的インフラになることを目指している。またESG活動として、居抜き物件を活用するビジネススキームにより、産業廃棄物(造作物)の廃棄量削減に貢献している。
■プライム市場上場維持基準適合に向けた計画書
22年4月の東京証券取引所の市場再編ではプライム市場へ移行し、プライム市場上場維持基準適合に向けた計画書を開示(21年12月15日付)した。28年3月期までに流通株式時価総額のプライム市場上場維持基準適合を図るため各種取組を推進する。
具体的には、継続的な業績向上の実現によって企業価値の向上(時価総額の上昇)を図るとともに、法定開示・適時開示にとどまらない積極的なIRによって市場に情報発信する。また必要に応じて流通株式比率向上に向けたテクニカルな取組も検討する。継続的な業績向上の実現では、市場開拓余地が大きく競合優位性も高い店舗転貸借事業に専門特化し、転貸借契約件数の最大化を通じてストック型収益である賃料差益の最大化を推進することで、継続的な業績向上(目途として前期比10%~20%程度の増収増益継続)の実現を図る方針だ。
23年11月には自己株式を活用した第三者割当による第3回新株予約権(行使価額修正条項および停止要請条項付、割当先は東海東京証券、下限行使価格は1198円、行使期間は23年12月7日~26年12月7日、23年12月に払込完了)を発行した。発行新株予約権数9000個(1個につき100株)で、行使に際して交付する株式については同社が保有する自己株式90万株を活用するため新株発行を行わない。流通株式数の増加により上場維持基準の適合に資することが期待される。
25年5月には25年3月31日時点における計画進捗状況をリリースした。流通株式時価総額については基準に適合していないため、計画期間を28年3月末までとしているものの、改善期間である26年3月末時点での適合を目指し、引き続き各種取組を推進する。なお当期より改善期間(1年間)に入っていることを鑑み、状況によってはスタンダード市場への市場変更も検討するが、市場変更を行った場合でも事業上の影響は極めて少なく、同社の事業価値を毀損するものではないとしている。
■26年3月期増収増益・連続増配予想で収益拡大基調
26年3月期の連結業績予想は、売上高が前期比13.3%増の188億72百万円、営業利益が16.1%増の16億04百万円、経常利益が10.3%増の15億78百万円、そして親会社株主帰属当期純利益が0.1%増の10億30百万円としている。配当予想は前期比2円増配の30円(期末一括)としている。連続増配で予想配当性向は48.8%となる。
引き続き転貸借物件数が順調に増加して人件費等の増加を吸収する見込みだ。転貸借成約数は88件増の576件、期末転貸借物件数は318件増の3024件の計画としている。なお親会社株主帰属当期純利益については、前期計上した保険解約返戻金や固定資産売却益を見込まず、小幅増益予想としている。
重点施策として、店舗転貸借事業では仕入拡大に向けて新規チャネル(不動産業界団体等)からの物件仕入を開始するほか、主に非飲食店舗(クリニック、ジム等)が入居する好立地の空中階(ビルの3階以上)の取り扱いを本格化する。また積極的な採用(営業、物件管理)の継続や、自社サイト「居抜き店舗.com」および「店舗買取り.com」の集客拡大も推進する。家賃保証事業では、積極的な支店展開(大阪、新宿、福岡)と人材採用・育成によって営業力を強化し、新規代理店の開拓や保証利用の促進を行う。不動産売買事業では、仕入経験者の増員によって都心6区を中心に重点営業を行うほか、業務システム導入による業務効率化(DX化)なども推進する。積極的な事業展開で収益拡大基調だろう。
■株主優待制度は毎年3月末対象
株主優待制度(詳細は会社HP参照)は毎年3月31日時点の株主を対象として実施している。同社へのロイヤリティの高い株主に対する還元を強化することを目的として、25年3月期以降(25年3月31日以降)については毎年3月31日時点で500株以上保有し、かつ1年以上継続して500株以上保有している株主にジェフグルメカード1万円分を贈呈している。
■株価は下値切り上げ
株価は小動きだが徐々に下値を切り上げている。モミ合いから上放れて戻りを試す展開を期待したい。7月25日の終値は980円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS61円43銭で算出)は約16倍、今期予想配当利回り(会社予想の30円で算出)は約3.1%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS239円08銭で算出)は約4.1倍、そして時価総額は約173億円である。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)