【小倉正男の経済コラム】グリーンランド領有に反対する欧州同盟国に追加関税 NATO終焉危機 トリプル安の様相

■トランプ大統領の暴走で米国はトリプル安の展開

 20日のNY株式市場は870ドルの大幅安となった。米国債、通貨ドルも売られ、トリプル安(米国売り)の展開となっている。トランプ大統領の常軌を逸したグリーンランド領有といった“暴走”が再び世界をパニックに陥れている。

 トランプ大統領は、グリーンランド領有に反対する欧州8カ国に追加関税を課すと発表している。NATO(北大西洋条約機構)分裂の危機が懸念される事態になっている。

■トランプ大統領の頭の中はグリーンランド領有で一杯

 「もはや純粋に平和のみを考える義務を感じない」
 トランプ大統領は、ノルウェー・ストーレ首相に充てたメッセージでそう伝えていたと報じられている。

 昨年のノーベル平和賞を受賞できなかったので“平和のみを考える”ことはしない。仮にノーベル平和賞というレガシーを得ていたら、“平和のみを考え続けていた”ということになる――。

 トランプ大統領はストーレ首相にこう続けている。
 「今後はアメリカ合衆国にとって何が善であり、何が適切かを考えることができる」
 これからは米国の国益に沿って動くということになる。

 そのうえでトランプ大統領はメッセージのなかでグリーンランドについて言及している。
 「グリーンランドを米国が完全に掌握しなければ世界の安全は保証されない」

 結局、いちばん言いたいところは米国によるグリーンランド領有という部分にほかならない。

■グリーンランド領有は常軌を逸している

 プーチン大統領によるウクライナ侵攻へのトランプ大統領の調停案は、ロシア寄りが露わであり、和平に持ち込むことはできないでいる。それなら無理やりにでもグリーンランド領有を成し遂げたらレガシーになるということか。トランプ大統領は、一応「ノーコメント」としているが、グリーンランドへの軍事力使用を否定していない。

 グリーンランドはれっきとしたデンマークの自治領であり、デンマークはNATO(北大西洋条約機構)加盟国である。トランプ大統領がグリーンランドに“軍事介入“して領有すれば、NATOは「そこで終わり」という事態になる。

 トランプ大統領は、グリーンランド領有に反対する英、仏、独、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドの8カ国に10%追加関税を課すと発表している。2月1日発効、同盟国に関税による脅しをかけている。

 “NATO分裂”に諸手を上げて喜んでいるのはプーチン大統領のロシアだ。トランプ大統領がグリーンランド領有を果たせば、「歴史に名を残す偉業」とほめそやしている。これは“ほめ殺し”そのものであり、肝心の同盟国とは敵対している。常軌を逸しているというしかない。

■マッキンリー大統領、セオドア・ルーズベルト大統領がロールモデル

 トランプ大統領の就任演説(25年1月20日)を読み直してみた。
 「マッキンリー元大統領は関税と才能で米国を非常に豊かにした。彼は生まれながらにビジネスマンで、彼がもたらした資金によりテディ(セオドア)・ルーズベルト元大統領は多くの偉業を成し遂げることができた」(この演説では米国の「領土拡大」にも触れられている)

 マッキンリー大統領(1843~1901年)は25代、セオドア・ルーズベルト(1858~1919年)はマッキンリー大統領の副大統領から26代大統領。どうやらこの二人の大統領(共和党)がトランプ大統領のロールモデルとみられる。

 マッキンリー大統領は元祖・関税男(タリフマン)、米国の製造業は揺籃期にあり保護主義を実施している。セオドア・ルーズベルト大統領は資本集中(独占資本)の排除など競争を導入する政策を行っている。

 二人は対外政策では、米国の領土を最大限に拡張している。マッキンリー大統領は「米西戦争」に勝利してフィリピン、キューバ、グアム、そしてハワイなどを併合・占領している。セオドア・ルーズベルト大統領は「棍棒外交」でパナマ運河建設権獲得などカリブ海政策を実行している。

■トリプル安=米国売りがトランプ大統領の暴走にストップをかける

 MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)で唱える米国の偉大な時代とは、このマッキンリー大統領、セオドア・ルーズベルト大統領の治世を指している。

 いわば、世界は帝国主義の真っただ中だったわけだが、そこに米国が足を踏み込んだ時期にあたる。この二人の大統領はともに帝国主義には肯定的だった。セオドア・ルーズベルト大統領は日露戦争の講和でノーベル平和賞を獲得している。海軍力を使った「棍棒外交」で近隣のカリブ海を制圧したが、米国人としては最初のノーベル賞受賞者(しかも平和賞)となっている。

 この二人の大統領に肩を並べたいというなら、それは時代があまりにも違うというしかない。ベッセント財務長官、ワイルズ首席補佐官などがブレーキ役を果たさなければならないが、そうはなっていない。株式、債券(国債)、通貨といったマーケットのトリプル安(米国売り)が、トランプ大統領の暴走にストップをかけているのが20日の様相ということになる。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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