【小倉正男の経済コラム】企業不祥事で登場する「第三者委員会」というネコ騙し

小倉正男の経済コラム

■神戸製鋼、日産自動車と不祥事が相次ぐ

kk1.jpg 企業の不祥事が相次いでいる。後を絶たない。そのうえ、不祥事の中身が考えられないようなことが少なくない。
 改ざん、手抜き、不当表示、ごまかし、ウソ偽り、粉飾、パワハラ、権力争いetc――、あらゆる企業がそうしたリスクやクライシスを内包している。

 神戸製鋼では、製品の性能データを改ざんしていたことが発覚した。日産自動車では、無資格の社員が「完成検査」をしていたという事実が明らかになった。そんなことをしているのか、と呆れるようなレベルの仕業である。

 日本企業には、コーポレートガバナンスがないといわれている。確かにあるとはいえない。
 私が取材などで知り得た企業などでも、経営者トップを筆頭に話にならないほど酷すぎるケースを目の当たりに見てきている。

 ただし、日産自動車などは、いまもカルロス・ゴーン氏が代表取締役会長として経営の実権を握っている。日本の企業文化も確かにほめられないが、これは日本のことだけでもない模様だ。

 会社がおかしくなって傾けば、顧客、取引先、社員、株主などあらゆるステークホールダー(利害関係者)に被害というか、実害が及ぶ。
 それだけに株主は、会社のオーナーなのだから、ものを言ってガバナンスを効かせなければならない。株主による経営に対するチェック&バランスがコーポレートガバナンスの要諦である。

■ジョンマスターオーガニックも成分不当表示で製品回収

 外資系企業でも不祥事が発覚している。
 ジョンマスターオーガニックグループという天然由来の成分を売り物にする化粧品企業が、日本マーケットで38品目・121万個の製品を自主回収していることが明らかになった。

 「ジョンマスターオーガニック」は、セレブあこがれの高級・高単価品のブランドである。ブランドや社名からして、健康や美容によいというイメージを与えてきた。

 しかし、シャンプーやトリートメント製品などにシリコーンなど合成成分が一部使われていた。さらに、ラベンダーエキスなど天然由来の原材料が使われていないに使われていると成分表示されていたというのである。

 化粧品の成分表示など複雑というか、一般の顧客にはわからないものである。もしかするとこの事故・事件は日本企業にも飛び火する可能性がある。「オーガニック」は、健康志向・天然志向で最近の大きな人気トレンドだが、それだけに潜在的に危ないといえるかもしれない。

 それはともあれ、ジョンマスターオーガニックグループはアメリカ企業なのだが、コーポレートガバナンスはないに等しい実態をさらしている。いまだにカスタマー、ディーラーにもメディアにもしっかりした説明はまったくなされていない。

■「第三者委員会」というネコ騙し

 企業の不祥事などでよく登場するのが、「第三者委員会」という存在である。
 これは第三者を装いながら、依頼者の意向を汲んだものであることが一般である。いわばクセ者であり、メディアに対してもそうだが、これはネコ騙しのようなものである。

 不祥事の一方の当事者が依頼しておきながら、第三者委員会という名称はおこがましいことになる。
 弁護士などが任命されることが多い。弁護士も「商売」「生業」とはいえ、第三者委員会の仕事はあまり心躍るものとはいえないといった舞台裏の話を聞いたことがある。

 紛争の当事者が任命しておカネを払っておきながら、第三者委員会で公正・公平な裁定や調査などが行われるはずもない。
 そんな第三者委員会は、結果としては、任命しておカネを払ってくれる当事者の言いなりになるわけで、本来的に「第三者」とはいえない。

 企業というものもにっちもさっちもいかない事態になると何でもやるもので、第三者委員会をつくって自己を正当化しようとするものだ。
 ネコ騙しのような第三者委員会が登場するような事態は、末期的なケースであると思ったほうが早い。

■独立が担保されなければ第三者委員会とはいえない

 当事者から独立した存在が第三者である。つまり、「第三者」とは「独立=インデペンデント」が担保されていなければならない。任命も報酬の支払いも当事者以外の第三者が行う必要があるわけである。

 これはいわゆる「独立役員」も同じことである。経営者が任命しているのに、独立役員であるなどと説明しているケースが少なくない。これも経営者が理解していないというか、勝手な理解で勝手に話しているだけで、まがい物の独立役員ということになる。
そんな単純な”偽装”がまかり通っているうちは、コーポレートガバナンスはまだまだ機能していないということになる。

 企業というものは、苦し紛れにいろいろな偽装や隠蔽を仕掛けてくるものである。案外単純すぎて意表をつかれることもないではない。それを見分けなければならない。かなり難しいことだが、そうした作業が不可欠である。

 不祥事で「第三者委員会」がにわかに登場するような事態を迎えた時は、当事者が保身など自己の利益確保を図る目的でつくられているのかどうかを見極めなければならない。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任)

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