【小倉正男の経済コラム】パウエルFRB議長 経済データ不開示の状況で追加利下げ 景気後退とインフレに挟撃される米国

■重要経済データの開示が軒並み延期、データの精度も低下懸念

 異常事態が続いている。米国の経済データ開示(発表)は軒並みに止まっている。政府機関の一部が停止、しかも長期化している。経済データは人的集約による情報収集作業が伴うだけに開示へのメドはついていない模様だ。

 消費者物価指数(CPI)は、15日発表予定だったが延期となっている。ただし、重要指標ということで24日に開示するとしている。だが、24日に発表されるとしてもデータの精度は高いものではないのではないかという懸念が取り沙汰されている。

 10月3日に発表予定だった9月の雇用統計、同統計の非農業部門雇用動向は重要指標なのだがこれも延期されている。こちらのほうは開示のメドが見えていない。どうやら、9月の雇用はADP雇用統計で代替というか、参考指標として眺めている状況である。

 そのADP雇用統計(10月1日発表)では9月の非農業部門雇用者数は前月比3.2万人減少(市場予想5.1万人増)。ADP雇用統計では、雇用は大幅低迷、景気後退を示している。雇用、景気の後退局面というトレンドは大枠で間違いない。ただし、ADP雇用統計のみだけでは、精度でいえばやや心もとない事態というしかない。

■パウエル議長は雇用低迷=景気後退から0.25%追加利下げを示唆

 米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、10月28~29日の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の追加利下げを行う方向であると示唆している(10月14日)。

 経済データ開示が軒並みに遅れている。普通ならパウエル議長は金利を動かすには慎重になる局面である。しかし、それでもパウエル議長は「失業率が上昇に転じる地点に近づいている」と発言している。雇用悪化の局面がここまでとは質的に異なっている。雇用がさらに低迷する可能性、すなわち景気後退に陥る懸念のほうに明らかに軸足を移している。

 問題はこのタイミングで「米中貿易戦争」が再燃していることだ。中国がレアアース(希土類)輸出管理規制を強化したことが発端。トランプ大統領はこれに激しく反発、11月1日から中国に100%追加関税を課すと表明している。中国・習近平主席は報復措置で対抗すると一歩も引かない構えである。

 10月~12月は米国の貿易でいえば“クリスマス需要期”にほかならない。クリスマス商戦となり、消費が大きく盛り上がる時期だ。中国としても玩具、ゲーム関連などクリスマス・ギフト商品を大量に米国市場に送り込む時期である。いわば稼ぎ時に「米中貿易戦争」に突入する。

■「米中貿易戦争」は景気後退とインフレ懸念の挟撃、自らスタグフレーションを招く

 パウエル議長は、10月末FOMCでは早くも0.25%の追加利下げを示唆している。だが、スティーブン・ミランFRB理事などは9月の前回FOMCと同様に0.5%の大幅利下げを再主張するとみられる。

 ミラン理事は「トランプ関税」理論を立案してきた人物、トランプ大統領がFRB理事に無理やりに押し込んでいる。トランプ大統領の代理であり、パウエル議長の金融政策をかねてから「引き締め過ぎ」と批判してきている。ミラン理事は、パウエル議長の“監視・牽制役”なのか、前回FOMCでは住宅市場低迷を理由に大幅利下げを主張している。

 ミラン理事は、「米中貿易戦争」再燃となれば、景気後退で雇用などが悪化すると表明している。「景気へのテコ入れで大幅利下げが必要」という理屈を繰り返すとみられる。トランプ政権とFRBの独立性どころか、「トランプ関税」立案者がFRB理事に送り込まれているのだから、パウエル議長としても嫌気がさすような露骨な人事というしかない。

 「米中貿易戦争」再燃なら、景気が後退するだけではない。トランプ大統領は中国に100%追加関税を課すというのだから米国はインフレを懸念しなければならない。利下げはインフレに火を付ける要因である。相矛盾する政策を行ったり発言したりするのはトランプ大統領の十八番(おはこ)だが、自らスタグフレーションの挟撃を招くことになりかねない。(経済ジャーナリスト)

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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